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「この人もおじさまですか?」


 けもままが屈託のない無垢な笑顔でスズキ(女性)に向かって言い放った。悪気はない。けもままの世界では女性という概念はなくて、おっさんか獣人の少女しかいないのだから。


「う……」


 スズキ(女性)は震えている。女性に向かっておっさんと間違えるなんて、そんな失礼なことはないだろう。


「話したいことがある。ちゃんと聞いてほしいんだ。あと、この娘、けもままも悪気があるわけじゃないから……ちょっと事情のある娘なんだ……」


 俺の説得でスズキ(女性)が帰ってしまう事態は避けられたけれど……どうしたらいいんだ? 地獄みたいな空気だぞ。スズキ(女性)はずっと俯いているし、過去の俺は女性相手にびびってまともに会話しないし、けもままとアイは呑気に水を飲んでるし。


「俺はふたりの運命を変えるために来た」


 自分で言っていてすごく胡散臭い。なんか怪しげな商品の販売でも始めそうだ。


「なあ、アイ……なんか天使っぽい超能力とか使えないのか? ふたりに俺たちが別世界から来たことを信じさせるような……」


「そうですねぇ、時間停止とかどうでしょうか。地球の物理法則であれば簡単に干渉できます」


「あの……なにを言っているんですか? もしかして宗教の勧誘か何か?」


 そう思われるのも無理ないよな。ましてや、全く知らないネトゲ仲間との出会いだ。警戒しても仕方ない。


「これから、俺たちが別世界から来た証拠を見せます。アイ、俺たち以外の時間を停止させてくれ」


「了解しました」


 アイの目が光ると、一瞬にして辺りが静寂に包まれた。街の喧騒もかかっていたお店のBGMもない。


「な、なにこれ!? みんな停止してる? ドッキリ!?」


「すげえっす! さすが先輩っ! 時間停止なんて男のロマンじゃないですかっ!」


「ふたりの反応もわかる。ドッキリだと思うよな。でも、そんな大金をかけられるか? 外の車まで全部停止しているんだぞ? もちろん女の子になにをしてもバレない。そんなドッキリしかけたら何百万、何千万かかると思う? そんなことするメリットがないだろ?」


「信じられません……ちょっと、ウェイトレスにイタズラしてみます」


 スズキ(女性)がおもむろに立ち上がり、ウェイトレスのスカートをめくったり、胸をつついたりしてみた。過去の俺はそんな度胸がないのか、その光景を鼻息を荒くしながら興奮しながら見ているだけだ。


「本当だ。なにより、コップの中の液体まで停止してる。こんなの、ちょっと無理ですよね」


「信じてもらえたか?」


「まだ半信半疑ですが……あたしはもともとゲームとかオカルトが好きなので……少し理解しました」


 良かった。とりあえず信じてはもらえたか。しかし、無音の空間にいると辺な感じがするな。耳鳴りがしてくる。


「あの、どんなことまで出来るのですか? 時間停止って、理解できないです。だって、地球が停止したとか、光が動かないとか、物理学で考えてありえるのかなって……」


「私は天使です、宇宙の物理法則に干渉することくらい簡単なことですよ。例えるなら、コーヒーにミルクを入れるくらい簡単です」


 俺にはその例えはよくわからない。だが、スズキ(女性)は納得したようだ。


「その、天使の力であたしたちを幸せにしてくれるんですか?」


「そんなの余裕ですよっ!」


 アイがない胸を張る。


「いや、極力天使の力は使わない。頼っているだけだと成長しないからな。ただ、ひとつだけなら願いを叶えてやる。なんでもいいぞ……いいよね? アイ?」


「私はかまいませんよ。人間を幸せにすることが役目ですし」


「な、なら、あたしを美人にしてくださいっ! あたし……こんな見た目だから小学生の頃からからかわれていて……」


 ああ、女の子ならそういう悩みを抱えるのはわかる気がするな。


「そんなの簡単ですよ。理想の外見とかありますか?」


「え、あ、そうですね……橋上(はしがみ)カンナちゃんみたいな……」


 この時代の日本で大人気のアイドルだ。アイの瞳が光ると目の前の女性が絶世の和風美少女に変身した。


「あなたの体と骨格をベースに、美容院でのお手入れやダイエットなどの努力した場合の姿にしました」


「お前はどうする? 過去の俺よ……」


「俺っ!? えっと、じゃあ……俺もイケメンにしてくださいよっ! そうだな……下村(したむら)タクヤみたいな」


「いや、やっぱりお前はダメだ。自力で頑張れ」


「なんでですか!?」


「お前は、とりあえず働け。努力次第ではイケメンにも金持ちにもしてやる」


「スズキさん、トレーニングをさぼったら太りますし、努力しなければ劣化していきますからね。人間の体とはそういうものですから」


 スズキ(女性)は舞い上がっている。アイの忠告をちゃんとわかっているのかな? 怠けたら元に戻っちゃうんだぞ。

 それにしても、こんなことで過去の俺が幸せになるんだろうか……なんだかズルをさせただけのような気がするんだよな。いや、俺が真面目すぎるのかな。本当ならいくらでも願いを叶えられるんだし。

 これから先、アラフォーになるまで……過去の俺もスズキ(女性)もぱっとしない人生だっていうことを考えたらこれくらいなんてことないのかもしれない。

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