愛
朝になると、けもままはタンスの中からオノを取り出していた。
けもままの隣で寝ていた俺はびっくりだ。というか、そんな物騒なものもってたのかよ。
「な、なにそれ?」
「ああ、これはモンスター退治の武器なんですよ」
そう、この世界にはおっさんと獣人美少女の他に凶悪なモンスターがいる。
俺は銀色をした熊みたいなモンスターに襲われていた。けもままと初めて出会った森の中でだ。
その時はけもままの爪でモンスターを撃退していた。倒したわけではなくて、威嚇して退散させたのだ。けもままって少女の外見の割に意外と強いのかもしれない。
「モンスター退治?」
「はい。おじさまのお世話の他におじさまを守るために街の近くのモンスターを退治するんです。おじさまを守るのも大切なお仕事ですからね」
うーん、おっさんが戦ったほうがよくない?
いや、赤ん坊みたいなおっさんがモンスターに勝てるわけないか。そう考えたらけもままたちがモンスターと戦うのは効率的なのかもしれない。
それでも……地球人としての価値観だと少女を恐ろしいモンスターと戦わせるのには抵抗があった。
「俺も手伝うよ」
「すごいですっ! スズキさんはおじさまなのにモンスターと戦うんですか?」
あ、いや、戦力にはならないかもしれない。
それでも、ここで逃げたら情けないよな。
「うん、俺はけもままを守りたい」
「ありがとうございますっ! おじさま!! とてもかっこいいと思います!」
灰色のアパートを出て市場に向かう。朝になるとたくさんの美少女獣人たちが街を行き来していた。
「よおっ! スズキさん!」
俺は頭の良いスーツ姿のおっさんに名前を覚えられていた。
といっても、俺は異世界でも働かずに暮らしていたんだけれどね。
この世界では働くのも働かないのも自由みたいだった。
中には働かないで野宿をしている獣人美少女もいた。地球みたいに他からいたずらされたりからかわれたりするわけでもなく、けもままたちはそこいらへんの木に成っているパンやらシュークリームやらを食べているみたいだった。けもままたちは野宿をしていても変な匂いがすることもない。みんな干したての洗濯物みたいなお日様の匂いがした。
お風呂はどちらかといえば泥などの汚れを落とすためのものみたいだったから、泉でも事足りる。
「ぱいぱいちゃん! おはようっ!」
「あら〜おはようございます〜〜」
ぱいぱいちゃんは1メートルくらいある金色の棍棒を担いでいた。恐ろしい武器だ。俺には持ち上げることすら出来ないかもしれない。
そこいくとけもままの武器は30センチ定規くらいの銀色のオノだった。いや、けもままの140センチほどの体格を考えたらそれでも十分大きいのだけれど。
「モンスター退治を頑張りましょうね〜〜」
モンスター退治……けもままも言っていたけれど、なんだか物騒な言葉だ。
聞き慣れない言葉に、自分が全く知らない異世界に来てしまったんだなと実感する。
「なぁ、思ったんだけれどさ……二人とももっと安全なお仕事がいいんじゃないの? おじさんのお世話とか」
「大切なおじさまたちを命懸けで守ることがわたくしたちの使命なんですよ〜〜」
うーん、地球人には理解し難い価値観だ。おっさんを命懸けで守るねぇ……そんな価値がおっさんにあるのかな……。
そんな時、ふと母親の顔が思い浮かんだ。地球にいた頃は母だけが無職の自分を信じて守ってくれたのだ。無償の愛を注いでくれたんだ。地球では馬鹿にされてばかりだった俺なんかのために……。
ぱいぱいちゃんの言葉には穏やかながらも力強い意志を感じた。子どもを守る母親みたいな。
「え、え、なんでスズキさん泣いてるの?」
けもままが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「あ、いや、泣いてはいないよ。けもままたちはすごいなと思ってさ。他人のための愛がさ」
この世界では真面目に生きよう。ハードルは地球ほど高くない。
それに、けもままもぱいぱいちゃんも素敵な女の子だ。
この世界の知らなかった一面を見れた気がした。




