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スズキ

 俺は過去の俺を鍛えることにした。過去の俺も未来はけもままみたいな可愛い彼女ができることがわかってモチベーションが上がっているみたいだ。わかる。努力するには希望が必要だからな。大人になると、子どもの頃みたいな無謀な努力をできるやつはなかなかいない。現実と折り合いをつけてそこそこで妥協するようになってしまう。

 というか、大人になればいつまでも夢を見られるような経済的余裕もないし。


「スズキのおっさんも外出できるようになりたい、すぐにでも変わりたいって言ってます」


「ふむ、良い心掛けだ。ならさっそく駅前の喫茶店で会おう。けもままとアイをみたらスズキのおっさんもモチベーションが上がるだろうしな」


「ですよねっ! けもままちゃんは可愛いな。もうしてるんですか? 二人は?」


「してる? なにを?」


 けもままは何にも知らないから純粋な返事をする。


「そういう下品な質問はいけませんよっ!」


 俺よりも先にアイが怒ってくれた。


「あ、すみません。未来の自分のことだから……つい……」


 過去の俺を連れて街へと駆り出す。けもままには母親のサンダルを履かせている。ハイヒールは履けないだろうし、俺の靴だとサイズが大きすぎる。

 しかし、過去と現在の双子みたいな顔をしたおっさん二人組とピンクの髪の毛をした美少女のけもまま、金髪のアイを連れて歩くとめちゃくちゃ目立つ。ちらちらと道ゆく人たちが俺たちを振り返って見ている。コスプレ軍団みたいに思われているらしかった。特に、けもままはけもみみとしっぽが生えているからな。


 けもままは日本の街並みを珍しそうに眺めていた。道ゆく車1台にも驚いている。


「けほっ、けほっ、なんだか、空気がへんな感じ。にごっているっていうか……」


 地球は大気汚染されているからな。けもままが慣れないのも仕方ない。


「大丈夫か? 怖くない?」


「うん、スズキさんがいるから平気だよ」


 けもままは俺のシャツに体を沈めた。シャツをマスク代わりにすることで空気が多少マシになるんだろう。

 

「スズキのおっさんは30分くらいで着くとか」


 喫茶店に入ると空気洗浄機やエアコンが動いているせいもあって、けもままは深呼吸をする。


「ここはいいね。温度も快適でわたしたちのいたところと同じだ」


「4名様ですか?」


 20代くらいの女性ウェイトレスが気さくに話しかけてくれた。


「あとでひとり来るので5名です。スズキって人が来たら席に呼んでください」


「スズキさまですね。かしこまりました」


 窓際の茶色いソファーの席で、俺はアイとけもままに挟まれながら座った。


「で、どうしたら、そんなに可愛い彼女ができるんですか? 未来ではなにがあるんですか? まさか、異星人が地球へやってくるとか?」


「そんなものはない。強いていうなら清らかな魂だ。それが俺をけもままと引き合わせてくれる」


 嘘はついてないな。あの世界に行くには特殊な魂でないといけないらしいから。


「でも、俺……そんなに清らかじゃないですよ? 何の努力もしてないし、そもそも働いてすらいないし……」


「働くのは肉体労働でもいいのだ。事務職がいいとか贅沢は捨てろ。なんの仕事でもやれ! コンビニのアルバイトでもいい、とにかくなにかやれ!」


 過去の俺に偉そうに言うが、俺も地球で働いたことはなかった。


「でも、俺……学歴も職歴もない35歳っすよ。詰んでないですか?」


「なんとかなる。俺の言うとおりにしろ。俺はモンスター退治もしてるんだぞ」


 これも嘘ではない。


「モンスター退治? 未来では地球にモンスターが現れるんですか? じゃあ、S級スキルチートでモンスター無双っ! みたいな?」


「スズキさんが話しているのは別の世界、ここよりも高次元な世界での話です。あまり参考にならないかと……」


 アイが過去の俺にアドバイスをするが、余計に過去の俺は混乱している様子だった。高次元の世界とか言われてもわからないよな。そりゃそうだ。


「お客様、スズキさんが来ましたよ」


 ウェイトレスが連れてきたのは……おっさんではなく女性だった。黒い髪の毛は鳥の巣みたいにぼさぼさ、化粧もしてない太った女の人だけど。


「あ、あははっ、オフ会ですか? 綺麗な若い子もいるんですね……あははっ、場違いかな……あたしみたいな陰キャ……」


 スズキさんって、おっさんではなく女性だったのか……俺はもちろん、過去の俺もそのことに驚いて、思わず口を閉ざしているみたいだった。

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