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「それでは、みなさん、こちらへ来てください」


 案内されたのは煎餅の渓谷の奥、川が流れている近くのテントだった。


「ここに私たちの『(はね)』があります」


 アイがそう言って薄暗いテントの中を指差す。白いレースでできたような透き通った羽がいくつも空中に浮かんでいた。


「これが乗り物?」


「はい。これに羽をつければこの世界の移動はもちろん、宇宙でも何不自由なく光速で移動ができます」


 なんだかすごい乗り物だな。羽を背中につけるなんて、本当に天使みたいだ。俺たちはそれぞれ羽を手に取ると、背中に取り付けた。すると、身体がふわりふわりと浮かび出す。重力をまるで感じない。羽に背中を引っ張られている感じもしない。


「すごいですわね〜こんな乗り物があったなんて〜〜やっぱり旅は楽しいですわ〜〜〜」


「では、私についてきてください。宇宙の木はこの先です」


 ふわふわと浮かびながらアイの背中を追いかける。どういう理屈なのかわからないけれど、進みたい方向に勝手に移動してくれるのだ。飛行機や車みたいに操縦する必要もない。


 ふむ、砂漠をどこまでも進んでいくと、一本の朽ち果てた木があった。宇宙の成る木だというからさぞ大きいのだろうと思っていたのだけれど、ごく普通の枯れ木だ。葉っぱはない。代わりに黒い実がいくつも成っていた。


「あそこにある木の実、ひとつひとつが宇宙なのです」


 アイが得意気に説明をする。


「宇宙ってあんなに小さいの? あれじゃあ中に入れないよ……」


「その心配はいらない。小さいも大きいも関係ないのが宇宙なのさ。もっというと、宇宙では時間というものすらあやふやなものなのだよ」


「時間があやふやってどういうこと?」


「宇宙では宇宙の物理法則がある。そこでは、早く動けば早く動くほど時間の流れが遅くなるのだ。時間の流れは一定ではない……そのようにおじさまたちが人類が繁栄するために最適に品種改良して出来たのがあの宇宙だ」


 ランの説明はとても難しい。大人になると賢くなるらしいけれど、こんなに頭がよくなるのか。


「……魔王の接近を確認……」


 宇宙の実の中から金髪の天使たちがわらわらと現れた。みんなアイとそっくりな見た目をしている。

 宇宙の実から天使たちが出てくるとだんだん身体が巨大化して、俺たちと同じサイズになるのだ。そして、一斉に手からレーザーが放出される。


「ちっ、数が多くて防ぎきれない……」


 そうは言ってもランは無傷だった。


「これ以上宇宙に近づいたら、他のものも攻撃します……」


「ええっ!? わ、私は天使ですよっ!!」


「見習い天使と天使のなりそこないは天使に含まれません……」


 冷酷な宣言だ。


「こんなに数が多いとはな。妾一人ならなんとかなるが……仕方ない……バリアを張る。さっさと地球へ行って来い! 妾も後から追いかけるっ!」


 ランが叫ぶと半透明な円形のバリアが現れた。サッカーボールのような形をしている。


「スズキさん! 急ぎましょう! わたしはスズキさんの願いを叶えたいですっ!」


 俺はとっさにけもままの手を握った。

 レーザーの爆撃で目の前が見えなくなる。真っ白な世界だ。宇宙の成る木に衝突した感じなのだが……俺が次の瞬間に目を開けると……そこは俺が住んでいたボロアパートの部屋の中だった。


「な、なんだこりゃ? 全部……夢だったのか?」


 見慣れたすり減った茶色い畳に、木製のドア。積み上げられたゲームソフトと古い漫画雑誌。こんなにピンポイントで地球の……それも俺の居た部屋に来れるものか? いや、無理だろう。ヤヨイも宇宙は無限にあって、しかもそこでは俺は死んでると言っていたのだから。


「それにしても……俺が死ぬ直前の部屋と全く同じだ……」


 ふと、敷きっぱなしの布団に目をやると……そこにはけもままとアイが仲良く眠っていた。

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