天使
休憩を取った俺たちは、ランに案内されて天使がいるという集落へと向かった。こんな砂漠にそんな集落があるのだろうか?
そんな疑問もあったのだけれど、切り立った煎餅で出来た崖と崖の間に渓谷があってそこに無数のテントのようなものが張られているのが見えた。
「見つかるとやっかいだ。急ぐぞ」
ランの後を追って、俺たちは夜の闇に紛れ、崖を滑り降りる。
「まさか、天使の乗り物を盗むつもりじゃないだろうな?」
「ちょっと借りるだけだよ……」
けもままたちは他人のものを盗むという概念がない。純粋無垢な生き物だ。しかし、魔王になるとある程度悪の心も身につく様子だった。
「だめじゃない? 盗むのはさ……」
そんなことを話し合っていると、テントからヤヨイみたいに人間の姿をして、頭上に光る輪っかのついたポニーテールの金髪の少女が俺たちに気づいた。
「誰ですか!? 止まりなさいっ! 止まらないと攻撃しますよっ!!」
言わんこっちゃないと思った。トラブルはごめんだ。
「ふははははっ!!! 魔王と愉快な仲間たちだっ!!!!」
無視して突撃していくラン。天使の少女は両手から光の束を発射した。ほんの一瞬、昼間のように明るくなる。
「魔王にそんな攻撃が効くかっ!!」
ランはビームを片手で防いでいた。並みのモンスターなら軽く消し飛ばせる威力があることは、ヤヨイのビームからもわかる。ランは戦闘能力に関しては俺たちの中でダントツだ。
「待て待て待てっ!! このままだと大変なことになるだろっ!!! 俺は別に争いたいわけじゃないんだっ!!!! 聞いてくれっ! 俺は地球人だっ!!」
ありったけの大声で叫んだ。万が一ビームがけもままたちに当たったら無事では済まないだろうから。
「地球人っ!?」
俺の言葉が天使に届いたようだった。良かった。
「敵意はないんだ。俺たちは旅をしている……」
いつでもビームを放てるように両手をこちらにかざしながらも、金髪の天使はこちらの話を聞いてくれていた。
「なぜ地球人がこんなところに? 牧場から抜け出して来たのですか?」
「そんなところ。俺は地球へ帰りたいんだ」
「地球へ帰りたい? あんな危険な世界に? なんでですか? ここなら愛に溢れていますし、生活にも困らないでしょう。まさか、地球で富を独占しようだとか、そういう理由じゃないですよね?」
「全然違うよ。まあ、君の言いたいこともわかる。こっちの世界で楽しく気ままに過ごしていれば幸せだろうしさ。でも……この世界の幸せが人間の感情エネルギーで成り立っているっていうのが……なんだか気に入らないんだよ。家畜みたいで」
「わからないですね……。あなたはその家畜の輪廻から抜け出した崇高な魂なのですよ。わざわざ苦しみの輪廻に戻るというのですか?」
なんだか難しい話だな。輪廻だとか、そういうのはよくわからない。仏教で人がいろんなものに生まれ変わる、みたいな意味だろうか。
「うん。不本意な死に方をしたものでね」
「地球とはそういうものです。ヒトには不本意な死、理不尽な病、そして逃れられない老い、そういう苦しみに満ちています。それゆえに、バランスを整えるために我ら天使がいるのです」
我ら……とはいうけれど、この子以外の天使はここにいないみたいだった。




