宇宙
俺とけもままたちはみんなで森の奥深くに向かった。魔王と呼ばれるモンスターの生贄になるためだ。
木々からは相変わらずパンやらシュークリームやらホットケーキやらが生えていて、森の中からは甘い香りがした。
どういう理屈かわからないけれど、これらは地球人からの感情エネルギーからできているらしい。
そう思うと、普段何気なく口にしていたパン一切れでも……なんだかとても価値のある尊いものに思えた。
「マスター、魔王の具体的な居場所はわかっているのですか?」
俺は黒いスーツを着たおっさんに生贄になるために森へ行くと言ったら、餞別にいつも借りている銀色の剣をもらった。
『戦うだけ戦ってみろ……』
そう言われた。けもままたちがついていくことも認めてもらえた。なので、けもままは斧を、ぱいぱいちゃんは棍棒を持っている。
「妾のものになる覚悟ができたのか?」
突然、森の中から女性の艶やかな声がすると……目の前に長い銀髪の美少女ランが現れた。
「この人が魔王!? 尻尾も耳もないっ!?」
ランの姿は地球人そっくりで、ケモミミではなく地球人の耳が顔の左右についている。そして、尻尾も生えていない。その姿にけもままは驚いていた。
「確かに邪悪な姿ですわね〜〜」
ぱいぱいちゃんたちからみたら、地球人の女性は邪悪な姿なのか。おっさんにもケモミミも尻尾も生えてないけれど……。この世界の美的感覚はやっぱりわからない。
「武器など持って……そこの小娘たちはなにがしたいのだ? 殺されに来たのか?」
「違う! ラン!! 俺は君と話し合いに来たんだ!!!」
「ほう? なんだ……言ってみるがよい」
「俺は……宇宙にある地球という星へ行ってみたい。俺の故郷なんだ。よかったらランの力を貸してくれないか?」
「ふむ……地球のことは知っておる。魔王になると知恵と力を授かるからな。もしかして、スズキくんは地球人の魂を持っているのか?」
ランがそんなことまで知っているなんて……。
成長しただけで知識が増えるなんて不思議だ。
そういえばおっさんの中にも賢い人と赤ちゃんみたいな人がいた。今までは生まれついての差だと思っていたけれど、実は何か違いがあるのかもしれない。
「そうだよ。俺は地球という牧場から逃れた魂らしい」
「道理で美味しそうな匂いがすると思った。それは純粋で無垢な魂なのだろう。地球人の中では最上級のものだ。みんながスズキくんを慕うのもわかるよ……」
「あ、後、この街のみんなに手を出さないでほしい。ここにいるけもままも、ぱいぱいちゃん、ヤヨイもみんなと仲良くして欲しいっ!」
「うむ……それも別にかまわんよ。妾は元同族の肉を食べたりはせぬ。そこのヤヨイというのも天使のなりそこないみたいだしな……よし! わかった! 妾も地球へ行こうではないか!!」
「え? いいの?」
「良いも何も、魔王とは地球などの星を支配するものなのだよ……そうして、たくさんの感情エネルギーを食べるのだ。幸福も苦しみも……」
なんだかとんでもない話だな。魔王を俺がいた地球へ連れて行っていいのか? 魔王が地球を支配してしまうのではないか? その辺の事情はよくわからないけれど。少なくとも地球で遊んだゲームやライトノベルでは、魔王は悪役であることがほとんどだった。人間を力で支配するんだ。
「なら、みんなで地球へ行こう。それでいいかな。けもままも、ぱいぱいちゃんも、ヤヨイも、みんなで……」
「ふはははははっっ!!!! 妾の名はランだ、よろしくな!!!!!」
ほっとしたのか、ぱいぱいちゃんが構えていた棍棒を降ろした。
「それではランさん〜〜仲良くしましょう〜〜〜」
「うむ、そなたがぱいぱいという名前だな。いい成長をしておる……」
いい成長? まさか女の子同士で? どういう意味だろう。
「どうやったら地球へ行けるの? 魔法の力でひとっ飛びとか?」
「そんなことができるわけないだろう……そうだな、一番手っ取り早いのは……」
手っ取り早いのは?
俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
「宇宙の生えている木から中に入ることかな……」
「う、宇宙の生えている木!? それって馬鹿でかいんじゃ……」
宇宙はとても巨大だ。そんなことは俺でも知っている。砂浜が宇宙だとしたら、地球の大きさなんて砂粒もないだろう。
「サイズはいろいろだな。そんなに大きくないよ。普通の木だ。スズキくんの行きたい宇宙があるのかはわからないが……近いものは見つかるかもしれない」
食べ物だけじゃなくて宇宙まで生えているのかよ。すごい世界だな。
「俺がいた宇宙には戻れないのか?」
「戻るも何も、すでにその地球ではスズキくんは死んでいるのであろう。死後の時間経過から考えても、スズキくんのいた宇宙の地球は人類そのものが絶滅している可能性が高い。宇宙が萎んでなくなっていることも考えられる」
宇宙がなくなる?
一体、この世界の1日は地球の何年に相当するんだ?
わけがわからなくなる。
「悲観することはない……宇宙は繰り返される。タイミングさえよければ、スズキくんが死んだ直後に戻ることもできるかもしれない」
理屈がよくわからないけれど、帰れるってことか。今はその可能性があるだけで十分だ。
「それでは、宇宙の木を探しに行くかな……ふっふっふっ……」
意外なことにランは乗り気だった。けもままもそんなランを見て警戒心を解いていた。
「なんだか、ランちゃんって良い人そうだねっ!」
こうして、俺たちの新しい旅が始まった。
〜世界の謎編 完〜
物語が一区切りついたため、一旦更新をお休みさせていただきます。
文章力と表現力向上のために加筆修正をしばらく行ってから、再び連載を再開する予定です。
2026年1月21日 苺いちえより読者さまへ




