魔王
ヤヨイと話し込んでいると、慌ててけもままとぱいぱいちゃんが走ってきた。
「大変だよっ!」
「な、なに? どうしたの?」
ただ事ではない雰囲気だ。また、モンスターでも現れたのだろうか。
「魔王が現れたそうなのですわ〜」
普段はおっとりしているぱいぱいちゃんも汗をかいている。表情には少しばかりの不安も見えた。
「魔王? 魔王ってなに? ゲームとかの?」
「ゲームがなにかはしりませんが〜魔王というのは魔王ですわ〜〜」
いや、説明になっていない。知的なぱいぱいちゃんも相当に混乱する出来事なのかもしれない。
「マスター、魔王というのは、モンスター……つまり魔物の王のという意味です。とんでもなく強いモンスターで、ワタシたちでは勝つことが難しい、危険な危険な生き物なんですよ……」
モンスターの王? それはとんでもない存在だ。一体どんな化け物なのだろう。ドラゴンみたいな巨大な龍で口から火を吹くのか……なんでもありのこの世界だったらそういう生き物がいてもおかしくない。
「わたしも見たことないよ。こんなこと初めて! 広場におじさまたちが来てね、魔王が現れたからどうするか話し合っているみたい」
けもままの後を追いかけて、映画を上映していた広場に再び戻る。そこには多くの獣人美少女とスーツ姿のおっさんたちが集まっていた。
「魔王が現れた。魔王はおじさんを誘拐するんだ。それも食べるためじゃない。おじさんを産むために攫うんだ」
あれ、なんかこの話聞いた覚えがある。ランという銀髪少女のモンスターだ。
「今、我々の間で生贄を出すことが話し合われている。魔王好みのおじさんでなければ、食べられて殺されることになる……」
「おじさまがかわいそうっ!!」
この世界の獣人美少女たちにとって、おっさんは赤ちゃんみたいなものらしく、それが殺されることは許せないことらしかった。
「あの……生贄って……魔王の元へ行くという意味ですか?」
俺の質問におっさんが頷いた。ちょうど、この街を離れようと思っていたところだ。俺が生贄になるのも悪くないかもしれない。この人たちが言っている魔王とはランのことだろうし。このまま俺が生贄になれば、けもままもぱいぱいちゃんも悲しまないで済む。
しばらく考えてから、おもむろに手を挙げた。
「俺が生贄になります……」
獣人美少女たちが涙を浮かべていた。
中には声を上げて泣き出す者もいる。
「いいのかい? スズキさん?」
「ええ……行きたいんです」
「まあ、必要なことだからね。本当にたまに魔王が現れるんだ。この前はいつだろう。とんでもなく昔だなぁ」
この世界のおっさんが何歳まで生きるのかわからないけれど、そんなおっさんがとんでもなく昔というのだから、地球時間では何百年、もしかしたら何千年に一度ってレベルなんだろう。
「魔王なんて……あたしが倒してやるよっ! 全てのおじさまを守ることがあたしの役目だっ!」
赤い髪をした獣人の女の子が勇ましく言った。勇者と呼ばれていた子だ。
だがおじさんは、それを止めようとする。
「無理だよ。モンスターとは比較にならない強さなんだ。魔王は……その気になればこの街を滅ぼすこともできる」
赤髪の少女はおっさんから説明を受けて、くやしそうに唇を噛んだ。
「いやだよ! スズキさんがいなくなるなんてっ!」
けもままが俺の服の袖を掴んだ。
「わたしも行く!」
「わたくしも行きますわ〜〜スズキさんのためなら怖くありませんもの〜〜」
志願したのはけもままとぱいぱいちゃんだけだった。みんなただ涙を浮かべているだけだ。
「俺は、二人には生きていて欲しいんだ……死ぬことはないよ……」
「マスター、ワタシは絶対に行きます! ワタシは人類繁栄ロボットですから、命など惜しくありませんっ!」
ヤヨイなら着いて行ってもいいだろう。これが一番良い別れ方だ。けもままたちのことも傷つけなくて済む。
そうやって自分を納得させていた。




