これから
俺の言葉を聞いたヤヨイは驚いているみたいだった。そりゃあ、地球へ行きたいなんて突然言い出したら驚くよね。
「地球というのは、いえ、宇宙というのは無数にあるものなのです」
宇宙が無数にある? そういえば、漫画とかでそんな設定を読んだ記憶がある。タイムマシンを使ったりすると未来が変わって複数の宇宙ができちゃうっていうSFみたいな話だ。
「その中にはさまざまな宇宙があります。マスターが行きたい宇宙の中にある地球へ行くのは難しいかもしれません……無限個の宇宙の中に無限の地球というものが存在しますから」
うーん、勉強が苦手な俺にはなにがなんだかわからなくなってきた。というか、そもそも俺がいた地球では俺は死んだことになっているのだからややこしい……。
死んだ人が復活したら、それはもう神様か経歴を偽った詐欺師だろう。そして、俺のいた地球だと死んだ人が生き返ったら詐欺師扱いされるか病院にぶち込まれるかしかない。
「マスター、あと大切なことがあるのですが……地球人というのはとても複雑な感情を持っています。良くも悪くもです。とても凶悪で……モンスターよりも恐ろしい生き物ですよ。地球人は地球人同士で騙し合い、殺し合います。そのような荒々しい気質ですから、おじさまたちも人間の家畜化をしているのです。あれほど邪悪な生き物からなら、エネルギーを奪ってもいいと考えるほどなのです……」
確かに人間の歴史って戦争の歴史だもんな。そんなことなら勉強をしてこなかった俺にも漠然とわかる。
「でもさ……いい人もいるんだよ。ネトゲ仲間のスズキさんとか」
「スズキさん? マスターと同じ名前なのですか?」
「いや、ただの友達。まあ、俺と違って実家が太くて金持ち自慢をしてくるうざい時もあったけれど……」
「その方は地球人の男性ですか?」
「どうだろう? 会ったことはないけれど……99%男だと思う。ただのチャット仲間」
「恋人というわけではないのですね。安心しました」
「いやいや、ただのおっさん同士の友達だからっ! 心配しなくて大丈夫だよっ!」
「ふふっ、なるほど……ですが、地球へ行くというのならマスターは旅をしなくてはいけません。この街から地球へ行くことは出来ないと思います。ワタシならどこまでも旅のお供をいたしますよ。仲間の『天使』とも会えるかもしれませんし、地球へ行くにはワタシの力がマスターのお役に立つでしょう」
心強い申し出だ。幸い、この世界には食べ物がいくらでもある。食べ物を集めつつ、お金も貯めて、準備ができたら冒険に出ればいい。荒野のサボテンからはお茶もでるし、水には困らないだろう。
「ただ……問題はけもままとぱいぱいちゃんだな」
「お二人とも、マスターのことが大好きですからね……マスターが旅立たれたら悲しむと思います」
「すごく嬉しいよ。そんな風に思ってくれる人がいることがさ。地球では家族以外からは愛されたことがないかもしれない」
「まあ、地球人ですからね……地球人が愛するのは基本的にお金持ちや権力者などですから。なんの見返りもない純粋な愛情というのは……地球人にはかなり難しいと思います」
「でもさ、中にはあるんだよ。家族の愛とか恋人との愛とかさ。俺には恋人との愛は縁がなかったけれど」
「なるほど……もしも愛が欲しいなら、ワタシがマスターのためにいくらでも注いであげますよ」
ヤヨイの言葉を聞いていると照れ臭くなる。ヤヨイもけもままもぱいぱいちゃんもみんな良い子だ。この世界は愛に溢れている。
この世界を捨てて地球へ帰る価値があるのかはわからない。ただ、今の俺なら無職の職歴なしでも地球で何かできることがある気がした。




