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けもまま  作者: 苺いちえ
のんびり異世界ライフ
3/22

友達

 けもままのお家はけもままみたいな獣人の美少女たちが何人も暮らす、古びたコンクリート製のアパートといった感じだった。

 具体的な例を出すなら地球で暮らしていた時の実家の団地。そんな感じ。トイレとお風呂もあれば台所も一応ある。

 誰が電気とガスと水道を整備しているのか不明だが、生活に必要なものは全て揃っていた。

 おっさんの俺には部屋もトイレも台所も……全てが小さなサイズだが、背の小さなけもままたちにはちょうどいいサイズかもしれない。


 けもままはおっさんと獣人美少女が働くコンビニのようなところで大好きなスイーツ、今日はドーナツとポテトチップを買っては、自宅のテーブルの上に広げていた。

 地球人が考える栄養バランスは全くの無視だ。好きなものを食べて、好きな時に眠る。

 それに関してはこの世界のおっさんたちもけもままたちも同じ生き方だった。ダイエットなどをしている様子もないし、地球人のような化粧なんてまったくしてない。それなのに地球の美的感覚で言えば、けもままたちは全員が国民的美少女とかアイドルと同じように可愛い。髪の毛がベタついたりとか、顔にシミができたりとか一切しない。

 とにかく謎の多い生物。それがけもままたち。尻尾を振りながらごきげんでテーブルの上のドーナツにかぶりついていた。


「こんばんは〜〜」


 けもままの家に誰かが尋ねてくることは初めてだった。


「誰か来たよ?」


 けもままに教えてあげるとあわてて玄関に走って行った。ちなみにドアには鍵などはかかっていない。

 けもままたちは地球人のように泥棒とかをしないようだった。

 頭がいいとか正義感が強いとかではなくて、けもままという生き物にはそもそも他人のものを奪うという発想がないのかもしれない。むしろ、けもままたちは仲間同士で助け合っているくらいだ。

 なので、治安はすごくいい。凶悪なモンスターが出ること以外は……。


「あ、友達のぱいぱいちゃんだっ!」


 玄関を開けると13歳から14歳くらいの、けもままたちの中ではかなり大人びた感じの獣人美少女が立っていた。

 ぱいぱいという名前の由来が気にならないでもないがやましい気持ちの名前ではなさそうである。

 ただ、その、いわゆるおっぱいがすごく大きかった。地球にいた頃に推していたアニメキャラに似ていて、童顔なのにものすごくおっぱいが大きい生き物。


「旅行から帰ってきたんですのよ〜サイダーの海とかすごく綺麗だったんですわ〜〜」


 おっとりとしていて、のんびりした口調。桃色の髪をしたけもままとは違って、金色の髪をくるくるに巻いていた。地球でいうとお嬢様とかがしているようなロールの髪型。コスプレイヤー以外でこんな髪型をした女の子がいるんだな。そしてこんな髪型がくずれないところもけもままの世界だ。


「おみやげのビー玉ですわ〜サイダーの海に落ちてましたの〜〜」


 ビー玉がお土産って、地球人の感覚だと小学1年生くらいの価値観だな。いや、今時の子どもの方がもっとずっとマセていてクールか。

 俺は微笑ましい気持ちでけもままたちの会話を聞いていた。


「あら〜けもままさんっておじさまと暮らしていたんですのね〜〜」


「うん!! とっても可愛いんだよ!!!!」


 か、可愛いっ!? けもままたちの美的感覚がわからない。気持ち悪がられることはあってもかわいいなんて言われたことはなかった。実の親からも言われたことがないかもしれない。

 でも、俺みたいなおっさんを可愛いと思っているから、けもままたちはおっさんたちの面倒を見ているのかもしれない。


「こんばんは〜〜ぱいぱいと言います〜〜」


 どうも、と頭を下げる。けもままたちは基本的に質素な服を着ていて、ほとんどが白いワンピースを着ていた。ぱいぱいちゃんはおしゃれというか、黄色いワンピースを身につけていたせいもあって妙に大人びて感じる。胸のサイズもあるのかもしれない。緊張のあまり視線が泳いでしまう。


「どうも、スズキです」


 俺の地球での本当の名前はスズキとは何の関係もなかったのだが、ネトゲ仲間にスズキという無職の男がいて、そいつの名前を借りていた。

 というか、この世界に来てから自分の名前が思い出せなかったというのもある。異世界転移の副作用みたいなものかもしれない。だから、唯一の友達だった男の名前を借りている。


「あのね、あのね、スズキさん! ぱいぱいちゃんはおっぱいからミルクがでるんだよ! すごいでしょっ!!」


 な、なんだそりゃあ!?

 母乳の話で出てきた友達って、ぱいぱいちゃんだったのかっ!?


「おっぱい? おっぱいってなんですの〜?」


 ぱいぱいちゃんはぱいぱいって名前なのにおっぱいのことは知らないみたいだった。


「胸のことだよっ! ぱいぱいちゃんの胸は柔らかいねっ!!!!」


「ひゃん〜〜急にさわられたらびっくりしちゃいますのぉっ〜〜うぅんっっ〜〜」


 けもままがぱいぱいちゃんのおっぱいを薄い布一枚の上でやさしく()うようにして()で回ている。なんか……ものすごくいかがわしいものを見てしまった気分だ。ぱいぱいちゃんの悲鳴みたいなものが、人間で言うところの感じているとかそういうものなのか、ただ単にくすぐったいものなのかは不明だった。


「ぱいぱいちゃんはおっぱいから出るミルクをみんなに分けてるよね?」


「いえいえ、これは自分用の非常食ですわ〜〜でも、スズキさんの喉が渇いたらいつでも飲ませて差し上げますからね〜〜」


 おっさんに飲ませているわけじゃないのか、よかった。それにしても非常食でミルクが出るとは……。自分で自分の足を食べるみたいで、栄養になっているのか謎だな。


「いや、別にいいよ。俺は大丈夫だから」


「そうなんですのね〜〜けもままさんはおじさまと暮らせて羨ましいですわ〜〜どこかにわたくしのためのおじさまが落ちていたらいいのですけれど〜〜」



 地球にはぱいぱいちゃんに拾ってほしいおじさんがたくさんいると思いますよ。

 世界が変われば価値観も変わる。

 そんなことを思ったのであった。

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