牧場
「あ、スズキさんも観るんだ、映画!」
市場などでよく会う黒いスーツを着たおっさんに声をかけられる。モンスター退治の時に武器を借りたりする関係だから、わりと親しい。
「今日は良いかもよ! 楽しみにしてなっ!」
おっさんだらけのむさ苦しい映画会場。ステージには巨大な白いスクリーンが用意されていた。
「お集まりの皆様! 大変お待たせいたしました! 楽しい楽しい牧場の収穫の日です」
壇上にはおっさんがマイクを持って立っている。
ステージ近くにはけもままたちは近づかないので、マイクでも声を聞かれることはない。
「きゃっ! きゃっ!」
おっさんたちが一斉に拍手を開始した。なにが上映されるのだろう。
そう思っていると、青い球体がステージに映し出されたのだ。俺はこれを知っている。教科書でも習った。
『地球』だ。
「今回は収穫量を増やすためにスパイスを入れてみました」
映像に映し出されたのは無数の白い線だった。やがて、それは地上に落下して巨大な爆音を上げる。
さらに拡大されて映し出されたのは血まみれ、ぐちゃぐちゃ、なんかわからないけれど出たらまずいだろうなという赤とオレンジ色の混ざった液体が飛び出した惨たらしい死体と瓦礫の山だった。
俺には刺激が強すぎて、あまりのことに理解が追いつかない。だが、まわりのおっさんたちはそれを見て喜んでいる。
「今回も牧場からはたくさんの感情エネルギーを吸い取ることができています」
感情エネルギー? なんだそれは?
牧場……そういえば、図書館でも牧場というキーワードは出ていた。人類繁栄がどうのこうのというやつだ。
我が子を抱いて泣き叫ぶみすぼらしい穴だらけの服を着た母親、戦果に満足した髭を生やした高級なスーツを着た政治家らしきおっさん。そういったものも映し出されていた。
どれくらいの時間だろう。10分程度の短い映像だった気もするし、2時間くらいの長編映画を見たような気もした。地球の日本では縁のない人達の姿だった。
壇上のおっさんが植木鉢を持っている。むくむくと土の中から芽が出ると、あっという間にパンの実をつけた。
俺たちはこの感情エネルギーとかいうやつで育ったものを食べていたのか?
「課題もあります」
映し出されたのは日本のお坊さんだった。お寺の中で坐禅を組んでいる。
「彼らからは感情エネルギーがほとんど得られません」
うーん、なんで坊さんからは感情エネルギーが得られないのだろう。
次に映し出されたのは日本の子ども部屋でゲームをしているおっさん。地球にいた頃の俺なら友達になりたいタイプのおっさんだ。
「彼らからも感情エネルギーが得られません。外部との関係を遮断していたり、感情の起伏が少ないからです」
ああ、言われてみると修行僧みたいな生活だったのかもしれない。外部との関わりを断ち、自己の内面を見つめるだけの生活。その毎日は平坦で……良いことも悪いこともない……ただ将来への希望だけがなかった。
「彼らの魂は我々の作った『宇宙』という牧場を抜け出すケースさえもあります」
宇宙……牧場……なんというか、点と点が線で結ばれた気がした。
そして、俺がなんでこの世界に来れたのかもわかった気がする。
ひょっとして、俺たち地球人は宇宙という檻の中で無限に感情を搾取される存在だったということなのか?
「なんてこった、ここは天国でもあり異世界でもあったのか……」




