映画
朝になった。昨夜のことが夢みたいだ。
けもままは隣ですうすうと小さな胸を揺らして寝息を立てている。
「初めて俺の方が早く起きたな……」
突然のことであまり眠れなかったのかもしれない。けもままたちが恋をするとモンスターになるなんて。
「俺はこのままみんなと一緒に居てもいいのかな……」
けもままたちが自分に恋をするなんて自惚れるなよって思うけれど、万が一その時が来たらけもままたちの生活はどうなってしまうのだろう。
少なくとも街では暮らしていけない。
少し距離を置いた方がいいのかな……。居心地の良い距離。
「うーん、あ、おはよう……」
「おはよう……」
「ふぁあーーぁっ、えへへっ、今日はなにをして遊ぼうかっ!」
けもままたちの価値観は地球の子どもに近い。小さなことに驚けるし、小さなことに幸せを感じられる。
「そうだっ、今日ね……おじさま向けの映画を放送するんだって」
「映画?」
「うん! わたしたちは見ちゃいけないんだってさ」
けもままたちが見てはいけない映画?
それって、えっちな映画じゃないだろうな……。
「スズキさんは映画を見に行く? わたしたちはそこら辺で遊んでるけど」
しばらく考えた。
この世界のことを少しでも知るために映画を見ておくのは悪くない。単なるえっちな映画だったら、それはそれで途中で帰っちゃえばいいだけだし。
まあ、この世界でのえっちな映画がどんなものなのか興味がないわけじゃないけれど……。
「うん、見てくるよ……この世界のことがもう少しわかるかもしれないし」
考えてみると、俺はおっさんたちのことを何も知らない。どこで何をして、何のために生きているのか。挨拶はするけれど、それは学校の先生と生徒みたいな関係で……おっさんのことはいまいちよくわからなかった。
俺がおっさんにさほど興味がないっていうのが大きかったけれど。地球人男性なのだから、女性? のけもままたちに関心が向いてしまう。
俺はけもままたちのアイドルがステージに立った場所へと歩いて行った。そこで、映画を上映するらしい。こんなに健全な場所で上映するとなると……えっちな映画ではなくてこの世界のおっさんが好きそうな子ども番組みたいなものが放送される可能性もある。
それでも、入り口の周りには木製の柵があるし、警備員らしきスーツ姿のおっさんもいた。
好奇心旺盛な獣人の少女たちの中には潜り込んでしまう娘がいるのかな。
「おはようございます〜〜」
ぱいぱいちゃんとヤヨイが花を冠のように編んで遊んでいた。
ヤヨイの頭には天使の輪っかの他に白い花冠もある。
「マスター、映画をご覧になるのですか?」
「うん。おっさんしか見られない映画ってなんか面白そうだし」
「ワタシも興味があります。なにか大事なデータがあるようで……ですが、ワタシは入ることが出来ないみたいです」
意外とセキュリティが厳しいんだな。まったり、のんびりなこの世界では珍しい。
「なにかわかったら、ぜひワタシにも教えてください」
「あーずるーいっ! わたしも知りたいよっ! おじさまは教えてくれないしっ!」
「わたくしはあんまり興味ないですわね〜〜おじさま向けのアニメとかではないですか?」
この世界にはアニメまであったのか。正直、そのアニメを見てみたいな。一体何が放送されるのか……まるで想像がつかない。
「じゃあ、行ってくるね」
おっさんたちが広場に集まっていたので、俺もそこに並んでみた。




