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 けもままの家で寝ていると、誰かが窓を叩く音がした。けもままの方を見るとぐっすりと眠っている。起こすのも悪いなと思い、窓へと向かった。

 この世界でもたまに雨は降るので雨音かもしれないし。


 ところがだ……窓の外に立っていたのは銀髪の少女だった。俺の子どもを産みたいと言っていたモンスターの少女。

 どうしたらいいのか……けもままを起こすべきか?


「起こさない方がいいわよ」


 俺の心を読んでいるみたいだった。


「驚かないで……(わらわ)は本気でお主のことが好きなのだから……それに……無駄な殺生はしたくない」


 その気になればけもままを殺すことができる、そんな意味にも感じられた。実際、その気になればけもままを殺して俺だけを(さら)うこともできただろう。まさか街の中にまで侵入してくるなんて……。


「何が目的なの?」


「妾はお主のことが好き……ただそれだけのことよ。少し話をしてくれないかな?」


 話をするだけなら構わない。子どもを作ることは出来ないけれど。

 俺はけもままが起きないようにそっと窓を開けてベランダに出た。


「話ってなに?」


「妾はお主に助けられて、お主に恋をしたのだ。それ故にモンスターになってしまった」


 助けた? モンスターになる? 一体なんの話だ? 俺はこんな美少女を助けた記憶がない。


「前にモンスター退治で泣きながら逃げておったものだよ」


「ああっ!!」


 思い出した。おじさんがモンスターに誘拐された時だ。確かにみんなで泣いている獣人の女の子を助けた。


「妾は恋をして大人になったのだ、好きだ。誰よりもお主を愛している。この姿こそがそのなによりの証明……」


 けもままたちは恋をするとモンスターになるっていうことなのか!?

 めちゃくちゃな話だ。でも、それならこの前の鏡でけもままとぱいぱいちゃんが約100年後も子どものままだった説明がつく。恋をしなければ、けもままたちは永遠に子どものままなのだ。


「お主の名前が知りたい。心配はいらない……今日はただそれだけが目的なのだ……」


 俺は人生で女の子に好かれたことはない。

 けもままやぱいぱいちゃん、ヤヨイ、みんな俺のことを好きだと思う。でも、その好きとこの子の好きはまた違うのだろう。恋とか愛と呼ぶべきもの。俺は突然の告白に戸惑ってしまった。


「俺の名前は……実はわからないんだ。この世界に来た時に忘れてしまったから。一応、スズキと名乗っているけれど……」


「そうなのか……スズキくん。妾の名前はランという」


 ランか……花の名前なのかな?

 良い名前だと思った。


「初めて会った時はそんな紅い瞳じゃなかったよね」


「うむ、妾は青い瞳をしておった。何も知らぬ小娘だった」


「質問なんだけれどさ、大人になるってどうなるの?」


「ふふっ、そんなことわかっておるであろう。お主は賢い」


 ランの細く長い指が俺の唇に当たる。


「なんていうか、雰囲気がまるで違うし……その、うーんと……そうだ、モンスターってお菓子じゃん、ランもお菓子なの?」


「体はお菓子ではないよ。お菓子はおじさまを産まなかろう」


 それもそうだ。つまり、戦えば本物の血が流れる。それは嫌だ。ましてや、俺のことを真剣に、心から好きだと言ってくれる相手……そんな相手、下手したら一生出会えないかもしれない。いや、地球では一生出会えなかった。


 損得も抜き、外見だとか、地位だとかお金だとか、そういう面倒くさいものを全部抜きにして俺だけを愛してくれる存在。その愛はけもままたちのような母性とは違う愛だ。


「ありがとう。でも、少し考えさせてくれ。ランには本当に悪いと思うけれど……」


「いいよ。今は待つ。だが、いつかは必ず妾のものになって欲しい。いや、妾のものにしてみせる……そうだ、一つだけ忠告をしよう。妾を倒そうなどとは思わないことだ。その辺のモンスターとは比べ物にならないほどに強いぞ? この街を血の海にすることも可能かもしれぬ。まあ、それ故に妾のような特別なモンスターは数が極端に少ないのだが」


 そうだったのか。いや、こんなに強いモンスターがうじゃうじゃいたらけもままたちは絶滅してしまうだろう。なにしろ簡単に街の中に侵入が出来るのだ。


「うん、わかった。ランの気持ちは大切にするよ。あとさ……」


「うん? なんだ? 怖くなったのか?」


「いや、真逆だよ。嬉しくなった。そんなに好きだってことが。ただ、今はまだ恋愛とか……決められない」


「ふふっ、初心(うぶ)だな。まあ、妾も経験はないので同じだが……」


 おっさんがこんな若い子に初心だと言われるなんて。俺はヘタレなのかもしれない。でも、けもままやぱいぱいちゃん、それにヤヨイを置いて消えるなんてことはできなかった。いや、それとも大人になるってそういうことなのかな……うーん、俺っておっさんの癖に心の中はガキすぎるのかもしれない。


「では、また会おう、スズキくん。妾はいつでも見ているぞ」


 ランは闇の中へと消えた。空を飛んだのか、ものすごいスピードなのかもわからない。忍者のように闇の中へと消えてしまった。

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