鏡
「なにそれ?」
ヤヨイがどこからか鏡を拾ってきた。金色の縁で楕円形をしている手鏡だ。
「鏡みたいですが……なんだかちょっと変なのです」
ヤヨイがそんなことを言うもんだから、俺は鏡を覗いてみた。
鏡の中には白髪の増えたおっさんの顔が写っている。
「あれ、俺ってこんなに白髪があったっけ?」
気のせいか鏡の中の自分はシワも増えていた。
「やはり……これは未来を写す鏡なのかもしれませんね」
未来……この世界でもやっぱり歳はとるものなのか。まあ、しかたないけれど。
「ワタシはロボットですから外見の変化が少ないのですが、パーツなどの些細な変化には気がつきまして……データから推測するに……およそ36500回ほど惑星が自転した時間が経過していますね」
地球が365日で、1年365回自転するから、100年くらい未来なのか。この世界だと老化が緩やかなのかな……。
「スズキさんたちは二人で何を話しているのっ?」
けもままとぱいぱいちゃんが二人仲良く並んで駆け寄って来た。しっぽをふりふりさせて上機嫌だ。
「あ、未来が見える鏡を見つけてさ……」
そういえば、けもままたちも大人になるのだろうか? なんだかいつまでも子どものままみたいな気もする。
この世界の生き物も歳をとるのか知りたい。
「すごーいっ! わたしたちも未来の姿が見てみたいよっ!」
「どうなっているんでしょうね〜〜」
鏡に写った二人の姿は……なにも変化がなかった。時間の経過ではけもままたちは歳をとらないか、ものすごく長寿の生き物なのかもしれない。
「何にも変化がないねーっ」
「残念ですわ〜」
「そんなことはないよ。ずっと若いままだなんて良いじゃないか」
「まあ、変わらないのもいいよね」
けもままたちの世界では永遠に若いまま変わらない生活が約束されているのかな。それって幸せなんだろうか。いや、幸せなのかもな。年とっていいことなんてないし……それはいつか死ぬってことでもあるし……。
あと……気になっていたことの答えもあった。
それは、けもままたちが歳をとったらモンスターになるんじゃないかという心配だ。けもままたちと戦う勇気なんて俺にはない……もしかしたらけもままたちに殺されることを選ぶかもしれなかった。
ま、そんな難しい決断なんてその時になってみないとわからないけれど。
「あのさ、みんなに話しておきたいんだけれどさ、この前、モンスターにあったんだ……その子はケモミミのない女の子で……みんなより少し年上に見えた。ヤヨイくらいの年齢かな。おじさんを産むなんて言っていたんだ。なんのことかわかる?」
「うーん〜〜むずかしいですわね〜〜〜」
「ぱいぱいちゃんも知らないんだっ」
「はい〜〜おじさまを産むというのもよくわかりませんわ〜〜〜」
「マスター、ワタシにはわかりますよ。生殖行為ですね」
おお、ヤヨイは意味がわかるらしい。
「生殖行為? 何それ?」
「生物のオスとメスが子どもを作ることですわ。わかりやすく説明しますと、そのモンスターはおじさまと生殖行為をすることで、新しいおじさまを作り出すことが出来るのです」
けもままとぱいぱいちゃんが瞳を輝かせた。
「すごい! おじさんを作れるの!?」
「わたくしだけのおじさまと会えるなんて幸せですわ〜〜生殖行為をしてみたいです〜〜〜」
二人とも生殖行為がなんなのかわかってないみたいだった。まあ、そう言う俺も耳年増なだけで生殖行為なんかしたことはないんだけれど。
「多分ですが、お二人が生殖行為をしても……おじさまが作れないと思います」
「なんで?」
「それは体がそういうふうに出来ていないからです」
「うーん、難しくてよくわからないや……」
そうか、もしかしたら……けもままたちは子どもを作れないけれど、モンスターになると子どもが作れるってことなのかもしれない。
「今のままでいいんだよ」
「えーっ! わたし、おじさん作ってみたいよっ!」
「わたくしもですわ〜!」
二人が子どもを産めるようになる、それは二人がモンスターになる時ということかもしれないのだから。でも、条件がわからない。時間なのか?
何百年もしたら人間でいう大人になって子どもを作れるようになるのかな……?
そんな気もするし、そうじゃない気もする。相変わらずけもままたちは謎につつまれていた。




