人類繁栄
「スズキさん、朝ですよっ!」
けもままに起こされる。別にいつまで寝ていてもいいんだけれど、ちょっと調べたいことがあったから。
「うーん、良い朝だ、ありがとう。誰かに起こしてもらうっていいものだな……」
「そうなんですか? 好きなだけ寝ていた方が良さそうですけれど?」
「確かにけもままの言う通りなんだけれどさ、俺のいたところでは彼女や奥さんに起こしてもらうのも幸せの一つなんだよ」
「彼女? 奥さん? それはなんですか?」
「うーん、とっても仲の良い友達みたいなものかな」
彼女や奥さんを説明してもこの世界では理解が難しいと思って、できるだけ易しい言葉で説明した。
それは、俺が調べたいこととも関係している。ダンジョンで出会った銀髪の女の子が俺と子どもを作りたいみたいなことを言っていたからだ。
この世界の謎を解く鍵になるかもしれない。
「なぁ、この世界には本とか図書館とかあるのか? 調べたいことがあるんだけれど……」
「図書館はありますよ。わたしはめったに行かないのですが、ぱいぱいちゃんみたいに本が好きな子もいるので」
それは良いことを聞いた。図書館で調べ物をしたらいろんなことがわかるかもしれない。
街の端っこにある寂れた建物が図書館だった。
俺が一人で中に入ると、びっしりと本が棚に整理してあることに驚いた。それと同時にこの世界の文字が読めないことにも気がつく。ただ、読めないはずなのに……不思議なことに意味がなんとなくわかるという感覚があった。学生時代にこの感覚があったらテストで無双できたのにな。
一際分厚い本の背表紙には人類繁栄計画と書かれていた。
「そういえば、廃墟で出会ったヤヨイも人類繁栄がどうとかって言っていた気がするな」
おもむろに本を手に取って、ページをめくる。みたこともない数式や物理学の法則らしきものが書かれていた。なんとなくわかるのだが、そのなんとなくを言葉にする知性が俺にはない。
「その本に興味があるの?」
スーツを着たおっさんに声をかけられた。この図書館の司書みたいなものかもしれない。
「ええ……なんか、惹かれてしまって……」
「それは、植物の栄養を作る牧場のデータなんだよ」
植物の栄養を作る?
牧場?
「まあ、詳しいことは俺も知らないんだけれどさ。そのうちおじさん向けの映画上映会があるかもね。牧場の景色が映し出されているんだ」
「へぇ……」
俺は気のない返事をした。難しい数式にはE=mc^2などの有名な宇宙の公式もある。理解はしてないが、学校の教科書や映画などで見た記憶があった。これが牧場?
なんのことだかさっぱりわからないな。
「マスター、勉強ですか?」
「あ、ヤヨイも来ていたのか」
「ええ、データ収集にはとても便利ですからね。書物は有意義な一次データです」
「なぁ、この世界の植物って何を栄養にしているんだ? というか、なんで植物からパンが生えたりするのか?」
俺はヤヨイならなにか知っているかもしれないと思った。
「この世界のエネルギーは需要と供給のバランスが一致していません」
「?」
「あ、わかりやすく言いますと……未知のエネルギーが植物などの栄養源になっていると思われます」
「なんだかますますわからなくなったな」
「はい。ワタシもまだデータが十分ではありません……でも……」
「でも?」
「ワタシがマスターのことを本気で大切に思っていることは確信しております」
ロボットの女の子だけれど、そんなに素直に気持ちをぶつけられると照れくさいものだ。
何故かわからないけれど、この世界ではロボットのヤヨイが人間以上に人間らしく感じられている気がする。俺と価値観が近いせいもあるかもしれないけれど……。
ま、この世界のことはそのうちわかってくるか。焦っても仕方ないよな。
「マスターの表情が明るくなったことを確認しました。ワタシも嬉しいです」
「あははっ、ヤヨイのおかげだよっ!」
こうして調べ物は終わったのだった。牧場……人類繁栄……一体なんなのだろう?
それはまだ謎のままだけれど。




