知恵
ぼんやりと地球にいた頃に読んだライトノベルのことを思い出していた。
彼らは異世界で地球の知識を使って無双するのだ……だが、俺はどうだ? 地球の知識をこの世界で活かせているのか?
なにも成し遂げてはいないじゃないか……食べては寝てばかりの生活だ。たまにはけもままたちの役に立つことがしてみたい。
「スズキさん、なにか考え事をしてるの?」
獣人美少女のけもまま。桃色の長い髪にはネコミミが生えていて、白のワンピースを身につけている。毎日同じデザインの服でけもままのお気に入りだ。ピンクの瞳でじっと俺をみている。
「なにか、俺に出来ることはないかなと思ってさ」
「別になんにもしなくて良いんじゃないの?」
そうなのだ。地球に住んでいた時のように何かに急かされるわけではない。単純に生きていくだけならその辺の草木に生えているパンでも食べていれば生きていける。
「俺のいた世界ではさ、会社ってものがあったんだ」
働いたことなどないくせに、俺は偉そうに語り出してしまった。ちょっぴり、けもままに良いところを見せたかったのかもしれない。
「なに? 会社って……」
「うーんとね、仕事を与えるんだよ。みんなに……」
「おじさまがやっていることだね」
そう言われたらそうだな。会社というものはないが仕事という概念はある。スーツを着た頭の良いおっさんが、赤ちゃんみたいなおっさんの世話をけもままたちにさせているのだ。
「でも、地球の仕事は大変でさ……一日中働かないといけないんだよ」
「ふーん、なにをそんなに働いてるの?」
そう言われると俺もよくわからない。
「みんなのためかな」
「ああ、おじさまのためっていうことだねっ!」
おじさまのため……か、考えてみると地球では誰のために働いていたのだろう。金持ちのおっさんをより金持ちにさせるため……ってことか?
もしかしたら、けもままの世界も地球もそんなに変わらないのかもしれないと思った。むしろ地球より良い……。いや、考えすぎか。
「なにか、役に立てることないかな……」
アラフォーのおっさんになって将来のことを考えてみた。
「スズキさんは十分役に立ってるよ」
「えーそうかな?」
「スズキさんがいるだけで、わたしは幸せだもん」
なるほど、そういう考え方もあるのか。地球にいた時は何か立派な仕事をしないといけない、そんな強迫観念みたいなものさえあったかもしれない。
いるだけでいい……か……。
当たり前の価値観だ。
いるだけでいいから、母はあんなに俺の面倒を見てくれたのだろう。
「でも、せっかく知識があるから何かに活かせたら良いな」
「そうだね、スズキさんは頭良いし」
いろんなことを考えてみた。けもままの世界で商売をしてみたらどうかとか、農業とかしてみたらどうかとか……でも、けもままたちの世界にはそんなものは必要ない。あるものだけで十分幸せな世界だった。




