母乳
「うーん……と、ところで……そんな言葉どこで覚えたの?」
俺は必死に話題を変えようとしていた。
「母乳のことですか? おじさまが母乳を飲みたいって言ってくるんですよ」
あのおっさんの世話をけもままに任せて平気なのか? おっさんは変態なのか? いや、赤ちゃんが母乳を飲みたいのは普通の反応か。地球の偏見を異世界に持ち込んだらだめだよな。
「母乳っていうのは、お母さんのおっぱいから出るミルクのことだよ。赤ちゃんはそれを飲んで成長するんだ」
俺の言ったことがとても難しかったのか、けもままは眉間にシワを作って悩んでいる。
「ミルクはわかります。わたしも大好きです! ミルクの川があったら、お口いっぱいにごくごく飲んじゃいます! でも、お母さん? おっぱい? 赤ちゃん? って何ですか? スズキさんは難しい言葉をたくさん知っているんですね」
ふう、なんとか誤魔化せたみたいだ。
「おっぱいって、美味しそうな名前ですね! 料理ですか?」
うーん、そうきたか……おっぱい、おっぱいの説明をするのはなんだか恥ずかしいな。
「胸のことだよ」
「胸?」
そう言って、けもままは未発達な肉まんみたいな胸を白いワンピースの上から自分の手で無邪気に触り始めた。
「これがおっぱいなんですか。食べ物じゃないのはつまらないなぁ」
いや、最高だよ! ご褒美だよ! さすがにこんな年下に欲情はしないつもりだけれど……女の子に免疫のない俺の顔は真っ赤になっていた。
「ぼ、母乳っていうのは、おっぱいから出るミルクのことなんだよ! まさか、おっさんに飲ませてないよね?」
「ああ、そういうことなんですか。ぜーんぶわかりました!」
はぁ、わかってくれたか。
「わたしは飲ませていませんが、友達が飲ませています」
はぁ? こんな幼い外見の女の子のおっぱいをおっさんが!? どんな異世界だよっ!!
でも、それが当たり前の世界かもしれないし、そもそも地球でいう男の子を見たことがない。みんなおっさん、それかケモミミ美少女の世界。そんな両極端な世界。だから、俺から見ておっさんでも、この世界では赤ちゃんくらいの年齢なのかもしれないし、美少女だと思ってもこの世界ではおばさんくらいの年齢なのかもしれない。謎だ。謎の世界だ。
「今度、スズキさんにも友達のおっぱいから出る母乳を飲ませてあげますね!」
けもままは屈託のない純粋無垢な笑顔で言った。
俺の心の中では天使と悪魔が論争していた。
飲め飲め! こんなチャンス一生ないぞ!!
いや、ダメだよ! あなたは一応地球人なんでしょう?
そんな葛藤。
そして導き出された結論は……。
「……」
沈黙だった。




