カニ
俺が芝生の生えた広場を散歩していると、けもままがカニに乗ってやってきた。
巨大で真っ赤なカニ。タラバガニに似ていて、大きな足とハサミがあり、人間を真っ二つにすることだってできそうだ。
「なにあれ? モンスター?」
「わかんないけど、敵じゃないよ」
わからないのか。謎の生物が多すぎる世界だ。
でも、巨大なカニは食べたら美味しいのかもな。
俺の実家は貧乏でカニなんてなかなか食べられなかった。漁師をしている親戚が年に一回贈ってくれるごちそう。
「スズキさん、よだれでてるよ」
「あ、すまん。俺がいたところではカニを食べていたんだよ」
「そっか、おじさまの中にもカニが好きな人がいるね」
この世界のおっさんはなんでも食べるんだな。
「食べる用のカニもいるの?」
「うん、小さいけどね」
「なるほど、確かにあんなでかいのは食べきれないよな」
けもままが乗れるほどの大きさなんだ。地球のカニの何千匹分はあるだろう。
「今日のお昼はカニにしようか?」
「え!? いいの? 高いんじゃない?」
「高いも何も、タダだよ。獲れるし」
そういえばこの世界では地球みたいに漁業権だとかややこしいものがなくて、生えているものはなんでもみんなのものだったな。無駄なゴミは出さないし、無駄な争いもしない、そして、けもままたちは地球人よりも資源を大切にしている。
「それはいいな。食べてみたいっ!」
俺はけもままと一緒に川へと向かった。川にカニがいるのか。
「なんかさ、川が黒くない?」
「これはポン酢の川だから」
調味料の川があるのか。醤油とかもどうやって作るのか謎だったしな。ワインやらサイダーやらポン酢やら……もはやなんでもありの世界だ。
「まあ、ポン酢につけて食べるカニは美味しいからいいか」
しかし、残念なことに俺もけもままもカニを1匹も捕まえることができなかった。
「ポン酢ってしょっぱいね」
けもままががっかりしながら言った。そこへ先ほどの巨大カニが歩み寄ってくる。はさみにはバターと醤油を持っていた。
「カニさん!! どうしたの!?」
「美味しく食べてくれる人を待ってました」
喋れるのか、カニよ……。
そのまま自分から鍋の中へダイブするカニ。
一層真っ赤に茹で上がる。
「食べてもらうのが……夢だったんだ……」
生き絶えるカニさん。なんだか、俺は申し訳ない気持ちになってしまった。
「食べて良いのかな?」
「食べないとダメだよ。食べきれないからみんなを呼んでくるね!」
ぱいぱいちゃんやヤヨイ、それにさまざまな獣人美少女たちが集まってきた。
「美味しいですわ〜〜」
みんなが幸せそうな表情で無心に食べていた。
甘いし身もプリプリだ。
「カニを食べると無口になるよね」
「マスター、普段得られない栄養素を補給できています」
ヤヨイはロボットだからなのか、みんなが食べられない甲羅まで食べている。これだけ食べてもらえたらカニさんも幸せだろう。でも、やっぱりなんだか申し訳ない気持ちがしたのだった。巨大カニで一生分のカニを食べた気もしたし。
それ以来、俺はこの世界でカニに「食べる?」と聞かれると全力で逃げるようにしている。




