温泉(2)
旅館に入ると着物を着た獣人の少女が正座しながらお辞儀をして迎えてくれた。女将さんのようだった。
「いらっしゃいませ! ここは温泉旅館です。まぁ、おじさまにも来ていただいたのですね! 精一杯おもてなしさせていただきます」
なんだか高級そうな感じがするのだけれどお金が足りるのだろうか。この前のモンスター退治でもらった10倍の報酬のおかげで少しは財布に余裕があるけれど。
「4人で一泊したいんだけれど足りるかな?」
「はい。おひとりさま一泊食事付きで硬貨5枚になります」
めちゃくちゃ安い。だいたい食事1回分のお金が硬貨3枚だ。ぱいぱいちゃんが1ヶ月くらい旅行していたみたいだけれど、これだけ安ければ旅行できるのもわかる。日本だったら一泊二日の旅行でもそれなりにお金がかかるからね。
小学生くらいの見た目をした女将さんに案内されて和室に通された。4人で一つ部屋だが、和室は広くてタタミ10畳くらいの広さで机と布団がおいてあるだけの質素な部屋だ。
「マスターはどうしてみんなとお風呂に入ることを拒んでいるのですか?」
ロボットのヤヨイなら俺の悩みがわかるかもしれない。
「それはさ、俺が男だからだよ。男と女が一緒のお風呂に入るのはまずいだろ? ましてや、こんな若い女の子とさ……」
「データを調べています……適合する情報がありません……男と女とはなんですか?」
ヤヨイにも男と女がわからないか。いや、もしかしたらこの世界には男も女もないのかもしれない。確かめようもないけど……いや、確かめる方法はあるか。温泉でけもままたちの裸を確認すれば良い。でも……それはしたらいけない気がした。
というか、地球では女性の裸を見たことが一度もなかったな。大人向けの動画は見たことはあるけれど。
多分、お願いしたらなんでも見せてくれるだろうけれど……けもままたちの純粋さに漬け込むのは罪悪感があった。
「じゃ、じゃあさ、男と女がないなら……どうやって子どもをつくるの?」
「子ども〜子どもとはなんですの〜〜?」
子どももわからないのか。ならば、この世界の住人はどうやって子孫を残しているのだろうか。おっさんやけもままたちが草木から生えてくるわけじゃないだろうし。ただ、けもままたちが地球でいうところの子どもじゃないことは安心した。外見が幼いだけで、もしかしたらちゃんとした大人の女性なのかもしれない。
「お着替えをお持ちしました」
女将さんが浴衣をもって部屋に入ってくる。ちゃんと俺の分もあった。おっさん用なのかサイズも大きさそうだ。
「温泉から上がりましたら、お食事を用意します」
深々と頭を下げて部屋から出ていく。ちゃんと教育されていることに驚いた。けもままたちは幼さを残しながらも仕事はきっちりこなすタイプなんだよな。
「マスター……ワタシ、なんだか興奮してきました。何故でしょうか。マスターと一緒に温泉に入れるのかと思うと……身体がぽかぽかしてくるのです」
ええっ!? それってどういう意味なんだ?
「わかるっ! わたしも他のおじさまと違ってスズキさんは少し特別かもっ!」
「はい〜スズキさんは〜〜とーっても可愛いですからね〜〜〜」
お腹の出たおっさんがかわいいだと!?
なんかそう言われるとイケメンになった気がするが、旅館の鏡に映る自分の姿に絶望する。不審者。それが俺だった。イケメン要素はゼロだ。いや、俺が地球の価値観を引きずり過ぎているのかもしれない。例えば、地球で太った野良猫をみたら可愛いと思うだろう。けもままたちには俺がそういうふうに見えているのかもしれない。
でも、イケメンみたいに振る舞うのは無理だな……なんかそういうの嫌だ……。
イケメンなら良いなと思ったことがあったけれど、もしかしたら俺は本来の、ありのままの自分が好きなのかもしれない。




