食事
けもままたち獣人の少女が武器を担いで森の中へと入っていく。
誘拐されたおっさんを助けるためにだ。
森の中では前に遭遇した狼の姿のモンスターが群れで待ち構えていた。1匹でも強いのに、10匹以上はいるだろう。
「焦るなっ! 落ち着いて戦うんだ!」
赤髪の獣人少女が先頭に立ってモンスターを蹴散らしていく。
さすが、みんなから勇者と呼ばれるだけのことはある強さだ。
舞い踊るみたいにして牙を交わし、わずかな隙があれば真紅の剣を叩き込む。
あっという間にモンスターたちを蹴散らすと少女たちはどんどんと山の方へと登っていった。もともと運動が嫌いな俺は学校の遠足くらいでしか山道を登ったことはない。この世界に来てから一度も来たことがない知らない場所だった。おまけに道なき道だから足元がふらついてしまう。
「大丈夫ですか〜スズキさんには厳しいのかもしれませんわね〜〜」
情けない限りだ。少女たちが頑張っているのに。
ぱいぱいちゃんは俺のために水筒を用意してくれていた。
「ありがとう……」
中身がミルクだ。もしかしてぱいぱいちゃんの母乳じゃないのか? そんなことを思いつつも、あえて言わなかった。喉が渇いてカラカラだったし。
「生き返ったよ」
「よかったですわ〜〜」
「あ、でも、みんなとだいぶはぐれちゃったよ」
目の前に黒い影がある。
モンスターかと思って、俺は思わず身構えた。
「マスターじゃありませんか」
「ヤヨイ? なんでこんなところに?」
ヤヨイはロボットの少女だ。どこに住んでいるのか謎だったけれど、こんな村のはずれに住んでいたのか。
「モンスターは効率の良いエネルギー補給になりますからね」
狼の死体、もとい、巨大なお菓子の塊をひとりでむしゃむしゃと食べている。レーザーが使えなくても戦闘能力が高いのかもしれない。
「なぁ、この辺におじさんが連れてこられなかったか? モンスターに誘拐されたんだ……」
「そのようなデータはありません。ありませんが、巨大な鳥が空を飛んでいくのを見ました。もしかしたらあの鳥がおじさまを拐ったのかもしれません」
「どこだかわかる?」
「はい。この山の山頂です」
さ、山頂っっ!? そんなところまで歩いていけるかな。俺の方が遭難してしまうかもしれない。
「マスター、おんぶしますよ」
ヤヨイはしゃがむと背をこちらへ向けた。
けもままたちが歩いているのに自分だけおんぶされるのも情けないな。
「大丈夫だよ……多分……」
「マスターは偉いですね。たくさん歩けば良い運動にもなりますし筋肉も鍛えられます。頑張りましょう」
ヤヨイも一緒についてきてくれることになった。万が一何かあったとき、ロボットがいてくれたらとても頼りになりそうだ。
「はぁ、はぁ、しんどいな……」
完全に赤髪の少女たちは見えなくなっていた。ただモンスターの死体だけが落ちている。それをヤヨイは丁寧に回収していった。
「そんなに食べられるの?」
「ワタシはロボットですので、エネルギーは大量に蓄えておくことができます」
なるほど、人間は食い溜めができないけれどロボットはそれができるのか。ちょっぴり羨ましい。
剣の鞘を杖代わりにしながら山を登ると、眼下にはけもままたちの家がまめつぶみたいに小さく見えていた。
「ずいぶんと登ったな」
「もうすぐ目的地です」
その時だ、うわーんっ、と泣き叫びながら少女がこちらに向かって走ってきた。
「どうしたの?」
「あ、おじさまっ! あのね、巨大なモンスターがいたのっ!!!」
「みんな戦っているけれど……仲間が食べられて……私は怖くって……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……ううっ……」
獣人の少女は大粒の涙を流している。
勇敢だと思っていたけれど、やっぱり怖いんだな。そりゃそうだよね。
「謝ることないよ……それが普通だから」
「ありがとう、おじさま……本当は私がおじさまを助けないといけないのに……」
「案内してくれないか? 一人だと山を降りるのも危険かもしれないし」
「うん、わかった。おじさまの顔を見たら、また勇気が出てきたよ」
案内された先ではクジラみたいに巨大な鳥のモンスターが空を飛んでいる。
正直、あいつに勝つのは無理だろう。俺だって逃げ出したくなった。
「みんなっ! 諦めるな! 弱点は頭だっ!」
褐色の肌をした少女が赤い剣を振りかぶりながら大きくジャンプすると、巨大なモンスターの頭は真っ二つに切り裂かれた。
「「わーいっ! やったーーっ!!!!」」
獣人の少女たちが怪鳥の周りで踊っている。結局、俺の活躍の出番はなかった。まあ、何もできないだろうけれど。獣人の少女たちはみんなで怪鳥を食べ始める。




