勇者
いつもは平和なけもままたちの街がなにやら騒がしかった。街を歩く獣人美少女たちもどこかそわそわしている。
「なにかあったのかな?」
「なんでしょうね……でも……もしかしたら……いえ、なんでもありません」
なんだろう。こんなことはこの世界に来て初めてのことだった。
「けもままさん〜〜大変ですわ〜〜」
けもままの友達のぱいぱいちゃんがメロンみたいな大きさで甘い香りのする胸を揺らしながら走ってきた。
「どうしたの?」
「おじさまがモンスターに誘拐されちゃったみたいですわ〜ああ〜〜どうしたらいいのでしょう〜〜」
ああ、普段はけもままたちに守られているおっさんのことか。あんなに大事に守られているのにモンスターから襲われることがあるんだな。
「ひどいよ! おじさまは戦う力がないのにっ!」
けもままの言う通りだった。この世界のおっさんは戦闘能力はない。けもままたちから守られるべき存在だった。中には頭の良いおっさんもいるがほとんどは赤ちゃんくらいの知能だ。
「取り返しに行く計画もあるのですが〜モンスターがかなり手強いみたいですわ〜〜」
「俺たちで助けに行ってみようか」
「そうですわね〜おじさまを守ることこそがわたくしたちの使命ですわ〜〜」
「うん! おじさんが酷い目にあっていたらと思うと許せないよっ!」
広場ではスーツを着たおっさんが黒板にチョークで依頼を書いていた。
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モンスター退治できる人を求む!!
モンスターに誘拐されたおじさんを助けてください。
報酬は普段の10倍です。
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破格の依頼だ。獣人の少女たちがこの依頼に殺到している。みんなおっさんを助けたくて仕方がないのだ。この世界では自分のことより他人のために行動するのが当たり前。特におっさんは赤ちゃんみたいに大切にされていた。
「あたしたちでおじさまを取り返すぞっー!!!!」
赤い剣をもった赤髪の獣人の少女が輪の中心にいる。
褐色の肌でそれなりに胸も大きい。筋肉もついていた。幼い外見のけもままたちの中では珍しいタイプの女の子だ。それでも12、3歳くらいだけれど。
「勇者だっ!」
「ゆうしゃ?」
「勇者とは一番勇敢で強い獣人に与えられる称号ですわ〜〜」
なるほど、モンスター退治のプロってわけか。テレビゲームの勇者と同じだな。
「俺たちも参加してみよう」
俺はスーツを着たおっさんから剣を借りた。
けもままたちは自宅から武器を持ってきたみたいだ。
けもままは銀の斧を、ぱいぱいちゃんは金の棍棒を握りしめていた。
見た目が少女とはいえ、何十人もの獣人たちが武器を持っている姿は異様な雰囲気だった。いや、見た目が少女だからこそ不気味なのかもしれない。
スーツのおっさんが俺の耳元でささやく。
「スズキさんは初めてかな……こうなったらみんなが無事というわけにはいかないんだよ。死んでしまうおじさんや獣人もいるんだ。あんたも十分に気をつけな。くれぐれも足手まといにはなるなよ。おじさんなんだから無理はするな」
死ぬか……正直、死ぬことはそんなに怖くない。
それは一度死んだ経験があるからかもしれないし、けもままたちのためなら命を賭けても惜しくないという気持ちが芽生えたからかもしれない。
けもままたちのためなら頑張れる、そんな勇気が心の中に芽生えつつあった。
地球にいたクソみたいな人生のために命を賭けるつもりは全くないが、優しいけもままたちのためなら体を張れる。そう思っていた。




