刺身
「おじさまの面倒を見ることが一番な幸せですわ〜〜」
ぱいぱいちゃんはおっさんのために料理を作っていた。
この世界では木の枝にパンが成ったり、モンスターの中身がお菓子だったり、ソーダの海がある世界だけれど料理をするという概念もある。
どこから仕入れてきたのか謎だが、肉や小麦粉、砂糖に醤油、味噌、なんでもある世界だ。
もっとも、同じ砂糖でも地球の砂糖と同じなのかは謎なのだけれど。そっくりなだけで、全く違うものかもしれない。
「まぁま! おすし、たべたいっ!」
外見はおっさん、中身は赤ちゃんのくせに食事の趣味は大人と変わらないのだな。
たくさん栄養が必要なのかよく食べてよく眠る、それがおっさんだ。
けもままもぱいぱいちゃんも器用に魚をさばいている。
そう言っても魚がいるわけじゃない。
魚の切り身が水槽の中を泳いでいて、それを網ですくってさばいているのだ。
色んな意味でぶっ飛んだ世界だった。
「ぱいぱいサマ、酢飯ができました」
「ヤヨイちゃんありがとうございますわ〜〜」
けもままたちがお寿司をにぎっている。わさび抜きだった。個人的にはわさびはつけすぎなくらいが好きなタイプなのだが。
「あぅ、おいちぃっ、おいちぃっ!!」
おっさんたちはけもままの手料理を美味しそうに食べている。
「おじさま〜お醤油をつけるともっと美味しいですわよ〜〜」
「うわっ、おいちっ!」
「おじさま! お酒もありますよ!」
けもままはおっさんのためにお猪口に日本酒のような透明な液体を注いでいた。至れり尽くせりだ。
「うまっ! うまっ!」
お酒を飲んで顔が赤くなっている。
「マスター、マスター?」
「え、どうしたの?」
人工知能ロボットのヤヨイが制服の上にエプロンをつけていた。
「マスターは召し上がらないのですか? 同じおじさまなのに……」
うーん、なんか恥ずかしいんだよな。この世界では当たり前のことなのかもしれないけれど。
「マスター、ワタシはマスターにも召し上がってほしいです」
「それいいねっ!」
けもままが俺のために脂の乗った大トロらしきものを大きめに切ってくれた。
「わさびってある?」
「ありますけれど、辛いですよ?」
「それがいいんだよ」
けもままはわさびを擦り始めた。チューブではなく擦るところからやってくれるなんて最高じゃないか!
「どうぞ〜〜みんなで作ったお寿司ですわ〜〜〜」
「あれ? なんか見慣れないものがあるけれど……」
なんだろう、見覚えがあるんだけれどよく思い出せない。まあ、地球に居た時は料理を作っていなかったから知らなくても無理はないか。
「いただきますっ!」
お寿司はどれも荒波の中を泳ぐ味がした。新鮮で美味しい。ただ、一つ違和感のあるものがある……美味しいんだけど、魚というよりは肉に近い……。
「あ、それ! 鳥刺しだよっ! あたりだよ!」
スーツを着た頭のいいおっさんが慌てて俺のそばに駆け寄ってきた。
確か、鳥刺しって美味しいけれどよく処理をしないと食中毒みたいなものになることもあるんじゃなかったっけ……。
「食べたらまずかったですか?」
俺は自分の体を心配した。病気になったらどうしよう。考えてみたら医者とかいるのだろうか?
「いや、凄くレアだよ! 当たりだよ!」
そういう意味のレアか。
その後も食中毒になることはなかった。美味しすぎる鳥刺し。いつかまた食べたい。そんなことを思ったのだった。




