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<連載版>悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた  作者: ちくわ食べます


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9話 姉妹会議その3

「……刺激? 心の準備? よくわからないけど……じゃあ無難に贈り物とかはどう?」

「贈り物か……それならいいかも」

「いいでしょ。セリスが心を込めた贈り物を渡すの。そうしたら、きっと彼にも気持ちが伝わるんじゃないかな?」


「心を込めて……」

「そう。大事なのはセリスの気持ちだよ。ちゃんと心を込めて感謝するの。そうしたら感謝の気持ちってさ、きっと相手に伝わると思うんだ。お姉ちゃんはそう思ってるよ」


 ……感謝の気持ち。

 私の気持ちを……感謝を、トリスタンに伝える。


 アイリスの言葉がストンと胸に落ちた。

 

 眼鏡を作ってから見える世界が変わった。

 世界がクリアに見える今、世界は以前と全く違うものだった。

 学園での授業も楽になったし、目も疲れない。

 

 以前、助けてもらったことも含めて。

 トリスタンには返しきれないほどの恩がある。

 

 ――私はこの感謝を伝えたい。

 

 そっとアイリスに視線を戻す。

 

 ちょっとタレ目で。ほんわかしていて。

 次期王妃のくせにガードが緩そう。


 ぽわ~んとした雰囲気の姉だけど……やっぱりお姉ちゃんなだけはある。

 

 どうして今まで苦手に思っていたのだろう。

 私は、馬鹿みたいだ……。

 

 

「気持ち……ね。気持ちも大事だよね。でも私は……気持ちだけじゃなくて、ちゃんとお礼がしたい」

「うわあ……セリスも成長してるのね。お姉ちゃん嬉しい」

「う、うん。それで、アイリスはさ……こういう時ってユージーンにはどうしてるの?」

「えっ!? ゆ、ゆ、ユージーン?」


 目を泳がせて……取り乱したりしてどうしたのだろうか。

 いったい、その反応はなんだろう。

 

「何でうろたえてんの。あんたの婚約者の話なんだけど?」

「うん、婚約者……そ、そう、婚約者だよ~。ユージーンはねえ。うん、甘い物とか好きかな」

「へぇ、甘い物……」

「そう、カヌレにクッキー。マドレーヌにパイにマカロンでしょ。お茶会で用意されたお菓子をおいしそうに食べるのよ。男の人って甘い物好きなんだなって。食べてる姿がかわいいくて……」

「そう…………」


 正直なところ、ノロケ話はいらなかったけど、いい情報は聞けた。

 

 あのユージーンでも甘い物が好きらしい。

 爽やかでキラキラした完璧王子っぽいのに……意外だ。

 

 王太子であるユージーンでも好きなら、トリスタンだって食べてくれるかもしれない。

 甘いものと……私の感謝の気持ち。


 うん、なんか分かった気がする。

 

「つまり、手作りのお菓子をプレゼントすればいいのね!」

「え、セリスが作るの? 本気で? で、できるの? 料理とかやったことないよね!」

「何その反応。料理人に教えてもらえば大丈夫でしょ。それに、大事なのは味よりも気持ちよ」

「いや、味も大事…………ううんなんでもない。あの、でもね……セリスちゃん? まさか本当に、自分で作るわけじゃないよね?」


 なぜか不安そうだけどなんだろうか……もしかして、アイリスも一緒に作りたいとか?


「じゃあ、アイリスも手伝ってくれるよね?」

「……私は、その……味見!? そう、味見ならできるよ! ほら、第三者の意見って重要でしょ?」


 私は貴族だからこれまで料理なんてしたことがない。まともな味のものが作れるかと聞かれれば不安があるのは確かだった。

 

 アイリスの言うように第三者の意見というのは重要だ。

 自分の意見だけだと、どうしても偏ったものになりがちだからだ。


 それにアイリスに味見をしてもらうのには大きな意味があるだろう。


 彼女はゆくゆくは王妃になる人物だ。

 未来の王妃が認めた品ならば、国のお墨付きみたいなものではないか?

 

 彼女を認めさせる味が作れたら、トリスタンも喜んでくれるに違いない。


 

 さすがアイリス。

 くだらないことをいい出したりするから本気で追い出そうと思ったけれど、やっぱりお姉ちゃんなだけはある。

 

「分かった。じゃあ、精一杯作ってみる」

「………………うん。む、むりはしないでね。できなかったら作って貰おうね?」


 なぜか不安そうな表情のアイリスを置いて、私は調理場を訪ねることにした。

 

 ◆


「セリスお嬢様……小麦粉を少し入れ過ぎかと」

「大丈夫よ、このくらいなら誤差の範囲じゃない?」


 

「セリスお嬢様……それは塩でございます」

「え? ……も、もちろん知ってるわ。さて、次は砂糖を入れましょう」


 

「お嬢様、それは一体何をお入れになったのですか?」

「あら、よく見てるわね。これはね……隠し味よ」



「あの、お嬢様。 火加減が強すぎるかと……」

「うーん。火加減って思ってたより難しいのね」


 大事なのは気持ち。

 トリスタンへの気持ちだったら、誰にも負けない。


 彼に美味しいって言ってもらえるものを作りたい。

 そして彼の喜ぶ顔を見たい。


「セリスお嬢様、そろそろ出来上がりかと……」

「わかったわ。この紅茶を頂いたらすぐに戻るから……ちょっと待ってて貰えるかしら?」

「はい……お待ちしております……」


 ◆ 

 

「アイリス。クッキーができたから味見してほしいんだけど」

 

 セリスが私を呼ぶ声が聞こえる。

 『時よ止まれ』と念じていたが、ついにこの瞬間が来てしまった。

 

「さあ、遠慮なく意見を聞かせてちょうだいね」


 セリスが堂々と差し出したものを見て、私は驚きを隠しきれなかった。

 

「あ、あの……セリス」

「どうしたの?」


 だが、セリスは平然としている。


 あれ~おかしいな。

 ……なにも疑問に思わないのかな?

 

「これって……食べ物なのよね?」

「当たり前でしょ。何だと思ってるの?」

「いやだな……ちゃんと分かってるって、クッキー……でしょ」

 

 とは言ったものの……。

 皿の上に乗っているのは謎の黒い塊。

 

 これは一体なに?

 絶対にクッキーじゃない!

 本当に食べてもいいやつ?

 

 何かが焼き焦げた様な、複雑な異臭がするんだけど……。

 これを食べ物と認めていいのだろうか?


 …………料理人と一緒に作るって話だったよね?

 それなのにどうしてこうなった……?


 なんで、こんな禍々しい物体が出来上がってしまうの?

 もしかしてセリス、私に恨みでもあるのかな?

 

 

「うん、ど、独創的な形だねぇ……」


 あえて例えるなら、えーっと……バッタかな?

 

「気持ちを込めて作ってみたの。その、形は少し変だけど……絶対に美味しいはずだから」

「……そうか~。お、お、おいしそうだな……はぅぅ」


 形も変だけど、真っ黒な食べ物って……。

 所々に紫色が入ってるのも怖い。


「さあ、はやく食べて感想を聞かせて」


 セリスが一生懸命作ったものを、本人の前で捨てるわけにもいかないし……。

 どうして味見役に立候補してしまったのだろう。


 私も作る側に回ればよかった。


「お、おう……そうだね~」


 見た目は……何かヤバいけど、味はいいパターンもある。

 

 ――信じるよ! マイシスター!

 

 私は思い切って、謎の物体を口へ運ぶ。


「ほぐぅッ!!!」


 なんじゃこれは!!

 

 めちゃくちゃ塩辛いのと、舌が痺れる刺激。

 遅れてやってくる臭みと苦みが、絶え間なく押し寄せ続ける!

 

 こ、これは……やっぱり猛毒なのでは?


 だめだ、はやく吐き出さないと。

 命に関わる!


「ちょっと……アイリス。感想は? ねえ? もったいぶらないで教えてよ!」

「あ、ちょっと……ウグッ……」


 揺らされた勢いで毒物を飲み込んでしまった…………。


 …………。

 だめだ……意識が朦朧としてくる。


 目が……目がまわる〜。

 

「どう? 美味しい? あれ、アイリスどうしたの?」

「う……うぅ」

「えっ!? ちょっとアイリス……アイリス! しっかりして!」

「もうだめりぇす…………」

 

 ――そこで私の記憶は途切れた。

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