7話 姉妹会議その1
ここからが短編版の続きになります。
「はぁ…………」
私は自室のベッドに横たわって、盛大なため息をついた。
トリスタンと一緒に眼鏡を買いに行ったあの日から、彼のことが頭から離れない。
彼のことは前から気になっていたのに、もっと気になってしまったといえば良いのだろうか……。
『セリスさんは真面目だし、気遣いだってできる優しい人だよ』
『セリスさんがもともと持っていた可愛さが更に強調されてて……すごく魅力的だ』
あれから数日が経つというのに、思い出すと今でも悶絶してしまう。
馬車が通ったときに泥水から私を守ってくれたあのたくましい腕、男らしい胸板……。
ああ、もう1回抱き寄せて欲しい。
「くぅ~…………」
ベッドの上をゴロゴロ転がっている自分に気がついてハッする。
「私、なんか変な人みたい……」
こんな風になってしまうのは、もっと彼と話がしたいけど出来ないせいかも知れない。
トリスタンとは軽い挨拶以外に接点を持てていないのだ。
普段ほとんど人と話さないからか、トリスタンを見ると緊張するからなのか。どっちなのかわからないけど、話しかけようとすると固まってしまう自分が恨めしい。
「どうしたらいいのかな……」
ベッドの上で思考の波に飲まれていると、ドアがノックされる音で現実に引き戻された。
「ヤッホー。お姉ちゃんですよ~。入っていいかな?」
ドアの向こうにいるのは姉のアイリスだった。
ここが自宅である以上、誰が来たのかは何となく分かっていたけど。
転がっている姿を見られるのも恥ずかしいので、私は急いでベッドから降りる。
「どうせ……嫌だって言っても入ってくるんでしょ?」
「えっ? そんなことないよ。私、お姉ちゃんだよ? そんな事するわけ無いじゃん。それじゃあ入るね」
アイリスが私の部屋を訪ねてくるのはいつぶりだっただろう。
彼女が学園に入る前くらいだから、2~3年位は前だったかもしれない。
ゆっくりとドアが開くと、アイリスがにっこりしているのが見えた。
「……それで、どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだよね。いいかな?」
アイリスの後ろにはティーセットを持ったメイドもいる。
じっくり話しましょう、ってこと?
……もしかして長くなる感じかな。
ちょっとめんどくさい気もする。
とはいえ、せっかく紅茶を準備してきたのに断るのもどうだろう……。
「……分かった。じゃあ、入って」
「やったぁ。そうこなくっちゃ」
私たちが部屋のテーブルに向かい合って座ると、メイドはテキパキとティーカップを並べていく。
自分の部屋でアイリスと話すなんて久しぶりで変な感じがする。
「ご苦労さま。後は私たちでやるから大丈夫です」
その言葉を合図と受け取ったメイドは静かに退出していく。彼女が部屋から出たのを見届けると同時にアイリスが話を切り出した。
「それでセリス。その眼鏡の評判はどんな感じなの? もう聞きたくてウズウズしちゃって」
「どうって言われても……。私、学園で話す相手なんかいないし……何も言われないけど」
私たちは姉妹だけど、見た目から性格までぜんぜん違う。
アイリスは人懐っこい性格をしていて、見た目も明るい。
私は見た目もキツイし、他人と話すのが得意じゃない。
彼女の感覚だと友達に色々言われたりすると思うのかもしれない。
でも、私はみんなに恐れられて避けられていたりするから……そんなことを言われたりしない。
私に話しかけてくる相手なんて、それこそトリスタンくらいしかいない。
――トリスタン……?
彼の笑顔を思い出して鼓動が早くなってしまう。
……だめ、私の心臓。少し、落ちついて。
「そうなの? セリスの魅力が分からないなんて……勿体ない人たちだなぁ。あっ、でもトリスタン君は違うか」
「はぁっ!? 何でそこで……トリスタン……が出てくるのよ」
もう、なんなのこの人。
いきなりぶっ込んできた。
気持ちを落ち着かせようとしてるのに、また鼓動が早くなる。
……そうか、こっちが本命の話なんだ。
眼鏡の話はジャブみたいなもので、本当はトリスタンと私の関係――つまり恋バナがしたかったのだろう。
「だって彼、すごく褒めてくれたんでしょ?」
「っ…………ぐっ……」
「色を選んだのも彼なんだよね」
「そ、そうよ……前に話した……でしょ」
眼鏡をかけて家に帰った時、それはもう根掘り葉掘り聞かれた。
『セリス、眼鏡すごく似合ってるね。どうしたのそれ?』
『すごいよ。イメチェン成功だね』
『クラスの男子と行ったの? で、名前は?』
途中からキラキラした目になって、眼鏡よりトリスタンのことを聞かれて、さらにはトリスタンと私の馴れ初めまで聞いてきたのだ。
私はその時、気持ちが緩んでいたのもあってフワフワしていたからか、アイリスからの質問にペラペラと素直に答えてしまった。
もちろん、トリスタンとの出会いのことも……。
彼と初めて会ったのは、私の目つきが気に入らないと絡んできた男子に脅されていた時だった。
トリスタンが颯爽と現れて私を守ってくれたのだ。
私は他人から怖がられたりすることはあっても、人に守ってもらうなんて初めてだった。
相手から私を守るように、一歩も引かずに相対する彼の背中は今でも忘れられない。
その少し後でユージーンが来たことで相手は矛を収めて帰っていった。実質的にはユージンのお陰で助かったわけだけど、私にはユージーンよりもその男子……つまりトリスタンの方が何倍も輝いて見えた。
本物の王子よりも、トリスタンのほうがよっぽど王子様みたいで……。
気がついたら、彼のことを目で追うようになっている自分がいた。
彼のことが気になって調べてる内に、その男子の名前がトリスタンだと知ったのだ。




