5話 優しい表情
彼女にはどんな色が似合うだろうか……。
セリスさんの顔をまじまじと見る。
黒髪ロングのストレートヘアー。
少しツリ目がちの紫色の瞳。
形の良い鼻と口…………。
それらが絶妙なバランスで配置されている。
お世辞抜きで、彼女は綺麗だと思う。
セリスさんといえば、やっぱりこのクールな瞳が特徴的だと思う。
「ちょっと! ……そんなに見られると、恥ずかしい……んだけど……」
「ご、ごめん。つい集中しちゃって」
「それなら……い、いい……けど」
そんなに相手をジロジロと見たら、不快にさせてしまうのはもっともだ。
だけど、彼女に似合う色は分かったぞ。
「これなんか……どうかな?」
僕が選んだのはダークブラウンだった。
落ち着いた色合いが、彼女のクールな魅力を更に引き立ててくれるはずだ。
「うん、じゃあ……これにする」
「セリスさん、本当に僕が決めちゃっていいの?」
「眼鏡に詳しいトリスタンが選んだんだから、大丈夫……でしょ?」
「そう言われると……なんか緊張するね」
随分と僕を信頼してくれているけど、セリスさんは気に入ってくれるだろうか。
正直なところ、僕はドキドキしていた。
店員さんにさっき決めたフレームを伝えると、すぐに出来上がるから待っていて欲しいという。てっきり、細かい調整とかあって引き渡しは後日になる……のかと思っていたけど、専用の魔道具で簡単に出来るらしい。
異世界は変なところで便利だと感心してしまった。
数分後、セリスさんの眼鏡が完成した。
出来上がった眼鏡をかけたセリスさんは鏡を見ている。
「すごい……よく見える! それにこの色も気に入ったわ」
セリスさんはクリアに見える視界に感動しているようだった。見えるって大事だもんね。
僕は『色が気に入った』という言葉にホッと胸を撫で下ろした。
「セリスさんにそう言ってもらえて良かった……」
「ねえ、トリスタン。どう……かしら。眼鏡……変じゃない?」
こちらを振り向いたセリスさんを見て、僕はハッとした。
いつも鬼の形相だったセリスさんの表情が、先ほどと全然違う。
凶悪な眉間のシワも、凄まじい眼力も無くなっていて……。
とても自然体で穏やかで……目つきの鋭いクール系眼鏡女子がそこに居た。
「セリスさん、その眼鏡……すごい似合ってると思います!」
「そ、そう……」
「知的美人って感じだよ。それでいて、クールでありながらも親しみやすい感じもする。それに……セリスさんがもともと持っていた可愛さが更に強調されてて……すごく魅力的だ」
「くぅ…………」
「……セリスさん、大丈夫?」
「…………も……もう……やめ……」
セリスさんは苦しそうに明後日の方を向いてしまった。
時々忘れそうになるが、今日のセリスさんは具合が悪いのだった。
用事も済ませたことだし、セリスさんは家でゆっくり休んでもらったほうが良さそうだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「そう…………よね」
というわけで、僕たちは店をでて帰ることにした。
帰り道、セリスさんはどこか元気がなかった。
その姿は、思い悩んでいるようにも見えた。
セリスさんは時折、僕を見ては下を向いてしまう。
彼女の体調が気になるものの、女子の扱いに慣れていないから、こんな時になんて声を掛けたらいいかわからない。
気の利く言葉でも掛けてあげられたらいいのに。
そう思っていると、セリスさんは意を決したように口を開いた。
「トリスタン。……あなたって、こういうことに慣れてるの?」
「こういうことって?」
「その……女の子と買い物に行ったり……ってことよ」
「うーん。女子とこういう風に出かけたことはないね。セリスさんとが初めてだよ」
「私とが……初めて……」
「うん」
前世と合わせて考えても、女子と買い物に行ったことは無いと断言できる。
妹はノーカンだろうし……。
「そう、なんだ……」
「僕こういう経験がないから、きっと……セリスさんを退屈にさせちゃったよね」
「た、退屈だなんて……してないっ!!」
セリスさんが急に大きな声を出したので、僕は驚いてしまった。
「……それなら良かったよ」
「……あなたがいてくれて……まあまあ、楽しかった……わ」
「僕も今日は楽しかったよ。ありがとう」
「うん、こちらこそ……………………ありがとう」
そう言うと、セリスさんは恥ずかしそうに微笑んだ。その表情には、以前のような威圧する感じはまったく無い。とても穏やかな優しい表情だった。
彼女を見た僕は、不思議と心が温かくなるのを感じていた。
だけど、その暖かさは。
僕が初めて経験するもので……。
どこから来る暖かさなのか、自分でも分からなかったけど、とても心地良いものだった。




