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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

境界線は何処

作者: 伊藤実兎

数ある小説家は人間的に劣っているにも関わらず、人を引き付ける才覚を有している。それは、時代を観測する役割を神から与えられたように、天賦のものを発揮し、人を魅了する。

数ある歴史的に著名な作品を見て、なぜ人を魅了するのだろうかと考えれば、天与の恩寵としか言いようが無い。

私が死んだのは、10月18日午前2時を回らない時間だったと思う。

人生という回り道を歩いている中で、私は転んでしまったことが原因で、この道を歩くことを止めようと思った。

最後ぐらいは自分の故郷である福岡県の春日市で、思い出の地である、とある神社で最後を遂げようと思い、車を走らせた。

いろいろと、考え事をしながら車を走らせることが祟ったのか、神の配慮なのか知らないが、山口市の海沿いの消えゆく光の数々が、美しいと思ってよそ見をしていると、けたたましく鳴るクラクションと共にトラックと正面衝突した。

時間が止まることが分かった。不思議とその時、私はとても安堵していたと思う。

衝撃で散り始めたフロントガラスがスローモーションで動いて、それがトラックのライトに照らされて点滅する光景は、今も鮮明に思い出すことが出来る。

車内は徐々に自分のスペースが無くなって、右足が徐々に潰れて骨が肉を突き破り、そこから液体が車の慣性で不規則な漏れ方をしていた。

痛みは無かった。それどころか、その瞬間はまるで、神の御業を見ているように、一つ一つが緻密で、洗練された瞬間だった。

私の視線は、近づくハンドルに集まる。押しつぶされると思っていたからだった。

痛いだろうか?苦しいだろうか?それとも、何も感じずこのまま終わるのだろうかと考えていたが、正解は何も感じず、そのまま暗闇に包まれるだった。

この日、私は死んだ。享年27歳だった。


目を覚ますと、目の前には木造の荒い木目が広がっていた。

何事や、と思っていれば、潰れた身体を視認することが出来る。それどころか私の身体にはあの時、負ったであろう様々な傷一つ付いてはいなかった。

現状が変わることなど無いのだけれど、これは、どういう状況だと周りを見渡せば、私の家賃3.5万円のアパートよりも古い、欧州風の部屋が広がっている。

立ち上がって、ベッド付近の窓から外を覗かせば、そこから見える景色はまるで私が知っている日本なんてものはなく、石畳の道と馬車が走っていた。

「目が覚めましたか」

声の方に振り向くと、目の前には女性が立っていた。私が怪訝そうな顔をしていたのか、彼女は私に近づいてくる。彼女からは金木犀の甘い匂いがしていた。

「ここはどこでしょうか」

適切な言葉がそれしか思い浮かばなかった。それ以上に、彼女から漂う香りはあまりにも現実的で、目の前に突如として現れた状況を直視しようとすればするほど、不安と恐怖が身体を震わせ始めた。

話を聞くうちに、ここが日本ではないことだけは理解できた。だが、突然の出来事に頭が混乱し、私はパニックに陥った。

その女性は誰かを呼び、暴れる私を抑え込んだ。その後、なぜか強烈な眠気が襲ってきて、それ以降の記憶は全くなかった。

次に私は目を覚ますと、またしても同じ木造の荒い木目が広がっていた。

隣には、私に話しかけてきた女性が座っていた。

彼女は私が目を覚ましたことに気付くと、こちらに微笑を向けてくる。

心臓はパニックに陥ったときと同様に高鳴っていたが、二度も同じ光景を目にすれば流石に不安というか、恐怖に近い感情は抑え込めた。

彼女は私のような人間の扱いに慣れていたのだろうか。私の胸に手を置いて、私の話すことをじっと頷きながら聞いてくれた。

「そうですか、貴方はこの世界の外から来た方なのでしょうか」

彼女の言葉には疑問の色が見えていた。それは人が何かを説明するとき、きちんと理解してもいないことを説明するときによく観られるものだった。

「ときどき、この世界には貴方のような人が訪れます。その人たちも、貴方と同様に同じように自分の死んだ瞬間を話すと言われています」

自分の症状を、聞いた話とすり合わせるように彼女は私に話してくれた。その間も彼女からは金木犀の香が私の鼻腔を擽っていた。

彼女はクラリスと自分の名前を私に語ってくれた。太陽のような金色の髪が可憐で、部屋から入ってくる陽光に照らされ姿は一つの精巧なフランス人形を見ている様だった。

「私はこれからどうすればよいでしょうか?」

私は声を震わせながら話していたと思う。別れを告げた自分の人生を、何の配慮なのかもう一度やり直しさせられ、挙句に今までの常識が通じない状態にさせられたのだから。

これなら、右足が潰れて半身不随か、障害を持って日本で目が覚めた方が良かったとさえ思えてしまう。

クラリスは、私に何も告げず突然立ち上がり、部屋を出る。一人にされると、抑え込んでいた不安と恐怖の感情がまた自分の内側から湧き上がってくることが分かった。

震えが止まらない。どうすれば良いだろうかと体育座りをして現実を直視しないようにうずくまる。

「佐藤さん、こちらを見て下さい」

彼女の甘い匂いと慈愛に満ちた声が聞える。怖いと震えながら、視線を向けてみる。

クラリスはこちらの視線に気づいて、微笑んでくれる。彼女は私の座っている隣に座り、私の手を握ってくれる。

「ここは教会です。不遇な人生を生きている人たちや、孤児を引き受ける場所です。今、神父様にも許可を取ってもらいました。」

彼女の瞳には、私を救うかのような柔らかな光が宿り、まるで夜の海に差し込む一筋の月光のように、私の乱れた心を静かに、しかし確実に導いてくれた。


酷く、汚れた時間を過ごした僕にとっては、ここでの生活はとても愉快で張り合いのある一日を過ごしていたと思う。

それは、どうしようもなく幸せというには簡単すぎる言葉で片付けられるようなものでは無かった。

孤児たちの世話と教会で育ている農作物の手入れ


こんな人生を描けたらどれだけ美しく見えるのでしょうか

加筆します。最後は2万文字ぐらいを想定してます。

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