プロローグ
よろしくお願いします。
──この世界は退屈だ。
何も変わらない家で、何も変わらない服を着て、何も変わらない朝食を食べ、
何も変わらない道を歩いて、何も変わらない学校に行く。
"普通が一番"という言葉はあるが、正直な話、それは退屈じゃない人が
少しの休息をとるために考えた言い訳だと思う。
ソラはそんな事を考えながら一人、屋上でパンを食べていた。
話す相手がいたわけではない、ただ頭の中で刺激が欲しいというのを反芻して
いただけだった。
「…」
パンを食べた後、席に戻って机に伏して寝たふりをする。
目を閉じた後、ソラは暗闇を心地よいと感じていた。耳から入っていくる情報さえもだんだんと遮断して無音の世界にしてくれるからだ。
周りの喧騒もだんだんと遠ざかっていく…ハズだった。
「…?」
色々とおかしいことが起きた気がした。
まず、どう考えてもさっきまで机に突っ伏してたのに地面に倒れた状態になっている。
起き上がると、辺り一面にカラフルなネオンが張り巡らされた建物があり、その道の真ん中にいたのだ。
「どこ…?ここ…?」
自身の街にも繁華街はあるが、夜ではなかったはずだ。
◇◇◇
ソラは半分、夢だと思いながら街の中を歩き始めた。
まず、思ったことは
「誰もいない…?」
建物自体にネオンが張り巡らされてはいるが、人が住んでいるような気配はどの建物にもない。
ソラはふと上を見上げるとネオンで
”おいでめしませ、神都”
と掲げられている。
「カミ…ト…?」
読み方は不明だが、そこがそういう街という名前なのは分かった。
再び、目線を下に戻し、先に進もうとする。
よく見ると、祭りなのだろうか?
店主はいないのに出店のようなものが並んでいる。
りんご飴、フランクフルト…色々並んでいた。
屋台に目を奪われながら歩いていると
ネオンが煌々と輝く道の中に少女が一人、こちらを見て佇んでいる。
銀髪にサイドから垂れた三つ編み、人の耳に加えて頭の上に獣耳がある。
服は腋が開いた巫女服を着崩しており、顔の頬には赤い模様が入っている。
まさにファンタジーな見た目だった。
少女はずっとこちらを見て微笑んでいる。
ソラは少女にまるで吸い込まれるかのように近づいて行った。
すると少女は口を開いた。
「待っていたよ」
◇◇◇
──少女は感じ取っていた。
この世界に何か変化がありそうな気がすると。
そして、屋根の上から少女は見ていた。
自分たちを捨てた神ではない何かが来たことを。
少女は一考した。
何か面白い登場の仕方はないかと。
どうせならいかにも自分が呼んだかのように現れれば、面白いのではないかと少女は思った。
先回りをして、少女は少年を待つことにした。