表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したら陰陽師でした。まったりスローライフが望みなのですが』穏やかなる陰陽術師、異界知識で静かに無双中  作者: 米糠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/39

第三十話 大蜘蛛のあやかし 1

 静流がようやく本体に還り、ぐいと肩を回していると――


「……師匠、入いりまーす!」 


 軽やかな声とともに、灯乃の声が扉の外から響いた。


 静流が「ああ、はいはい、灯乃入って良いよー」と返すより早く、ガラリッと勢いよく引き戸が開く。


 風間彦馬がぬっと書斎に入ってきた。その後ろには、灯乃と、なぜかリナ、さらにはイヅナの姿もある。


「今日はクロちゃんいないの? まーた一人でこもってなにしてるんです〜」と灯乃が口を尖らせつつ部屋に入る。



「また、一人で変な実験してたんでしょー!」

 リナは興味深げに式盤のほうへ目をやり、イヅナは勝手に部屋の棚を覗き込んでいる。


「うっさいなー、なんか来客多くない……?」と静流が呟いたが、彦馬が無言で手を挙げてみんなが騒ぐのを制した。


「……静流。面倒なあやかしが出た」


 その一言に、静流の表情がぴりりと緊張する。


「詳しく教えて」と静流が身を起こすと、彦馬は腰を下ろさぬまま、低い声で語り始めた。


「場所は、村の北、竹林の奥。山の裏手にでかい蜘蛛のあやかしが現れた。最初は獣を狙ってたが……昨日、薪取りに来た旅の若い男が襲われた。遺体は……骨だけ残ってたそうだ」


 静流が「っ」と息をのむ。


「……喰われた、ってこと?」


「間違いねえ」


 彦馬がうなずいた。


「でかい蜘蛛って……あの、山の蜘蛛?」とリナが眉をひそめる。


「似たような種類だが、以前に出た“夜巣喰らい”とは違う」と彦馬は即答する。


「体長は三メートル、脚を広げると五メートルはあるかもな。背に赤紋がある。目撃した猟師が言ってた。人の味を覚えたそいつは、……村のすぐ裏に大きな巣を張り、人が巣にかかるのを待ち構えるようになった」


 部屋の誰もが表情を曇らせる。


「完全に村人狙いに切り替えてるんだね……」と静流が呟いた。


「そうだろう。絶対自分の狩場として定めたんだ。こうなると、こっちから仕掛けなきゃいなくならねえ」

 そして彦馬は、いつものように、ぶっきらぼうに言った。

「討ちに行くぞ。静流、お前の力を貸してくれ!」


「……わかったよ」


 静流はちょっとめんどくさそうに即答する。いつもと変わらぬ声音だったが、眉の奥に光るものがあった。


 そんな緊迫した空気の中――


「お頭! あやかし退治ってことは、うちら《影渡り》の見せ場ですよ! 静流様に、いいとこ見てもらいましょ!」

 いつも間にやら庭には斥候カシワ、情報係モモエ、参謀サンザシ、爆薬師ホオズキ、護衛のゲンザ、狙撃手ユエ、盗賊団《影渡り》のメンバーが勢ぞろいしている。


 その女頭目・黒羽のイヅナ、が肘をつきながら、にやにやと笑って言った。

「お前ら、自分たちが弟子にする価値あるってとこ、しっかり見せるんだよ!」


 静流は、少しだけ彼女に目をやったが、返す言葉はなかった。


 かわりに、式盤の上に未乾の符を一枚、すっと置く。


「少し準備するから、みんなも装備を整えて一時間後に再集合ね。今日は蜘蛛の巣払いだよ!」



 それから一時間後。


 分院の正門前には、装備を整えた面々が続々と集まり始めていた。空は昼下がりの薄曇り。蜘蛛退治にはちょうどいい、じめっとした天気だ。


 静流は肩に小さな携帯式の術具箱を下げ、符の束を腰に差して現れた。


「みんな、揃ってる?」と静流が声をかけると、


「はーい、師匠! 灯乃、準備完了ですっ!」と元気に返す灯乃。その肩には、小型の護符弓と麻袋が揺れている。


「私はまだ心の準備が……蜘蛛って気味が悪いのよね。……私は大丈夫、私は大丈夫……」

 リナはぶつぶつ言いながらも、護身用の短杖と護符袋をしっかり装備していた。


「師匠、蜘蛛って毒持ってる系ですかね? 爆薬って効くのかな〜」

 ホオズキが爆薬の詰まった革袋をぽんぽん叩きながら聞いてくる。


「巣の素材によるけど、火は効く。爆発も有効だから期待してる。でも、森が燃えるのは困るから、やりすぎないでね」と静流がすぐ返す。


「うう……ホオズキ、またやりすぎそうだな」とサンザシがため息をつき、


「今回は偵察から始める。俺の見せ場だからな。要するに俺が先行するから任せてくれ……」と斥候カシワが低く言いながら、マントのフードを目深にかぶる。


「さーて、的が動いたら撃つだけよ」

 狙撃手ユエは小さな弓を背負い、指を鳴らして気だるそうに笑う。


「前に出るのは俺だ。お頭に何かあっちゃ困るからな」

 無骨なゲンザが斧を肩に担いでうなずいた。


 そんな彼らを、いつものように肘をついて壁に寄りかかりながら見下ろすのは、女頭目・イヅナだった。


「ふふ……良いねぇ。こうしてみると、うちの連中もずいぶん様になってるじゃない」


 静流は、ちらりとイヅナに目をやる。


「イヅナ。今回は、君達《影渡り》だけで退治してくれていいんだよ」


「勿論、最初っからそのつもりですよ、静流様。どーんと任せちゃってくださいよ」

 イヅナはふっと笑うと、腰の短剣に手を添える。


「……ま、万が一ってこともあるから僕も危なそうなら援護するよ。大蜘蛛が相手だから、巣に足を踏み入れた瞬間からが戦いだ。気を抜かないでね

 静流は符の束をぱたぱたと軽く叩く。


「大丈夫です、わかってます。静流様」


 静流はクロだけでも呼んでおこうかと思ったが、イヅナのやる気に水を差さないように呼ぶのをやめた。どうせ一声かければ現れるんだしね。


「で、彦馬は?」


「――ここだ」


 低い声とともに、分院の裏門から風間彦馬が現れた。竹の槍を背に、しっかり戦闘用の装備に着替えている。


「……しかし、ホントにあの蜘蛛、ただのあやかしじゃないかもな」と彦馬が低く唸る。


「どういう意味?」と灯乃。


「……俺の勘だが、あいつ“狩りを楽しんでやがる”」


 一瞬、皆の背に冷たい風が吹いたような気がした。


 静流は軽く頷くと、前を向いて言った。


「じゃあ、そろそろ行こうか。目標は竹林の奥の大蜘蛛の巣」


 そして、背を向けたまま、こう付け加える。


「――全員、油断しないこと。巣に踏み入るってことは、もう戦場に入ってるってことだからね」


「了解っす、師匠!」と灯乃。


「はーい、気をつけまーす」とリナが手を振る。


「よっしゃぁ、張り切って行くぞー!」とモモエが先走る。


 そして一行は、分院の門を後にし、湿った空気の森へと足を踏み入れていった。


 

ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ