疲れる女のプロローグ
「どうしてだよ。」
女は、ひどくストレスをかんじていた。
「なんで私ばっかりこんな忙しくしてなきゃならないの。」
ほんとにつらかった。
女は会社員だった。入社から3年がたち、そこそこ仕事を覚え、社内事情も把握して円滑な人間関係を築き上げてきた。女の勤める会社は、一部上場、社員5000人以上の大手企業、年収は500万程度、世間的にはすごいじゃない!と羨まれるような企業だった。
3年経ち、スキルを身につけキャリアアップしたと女は思う。
経済的にも安定してきた。
周囲も認めてくれるようになった。
彼らは口をそろえて言う。
『さすがだよね』
『いい会社で、実力もあって、ほんとにすごいよ』
『順調な人生ってこういうことをいうんだろうね』
そうやって、実家の母も、弟も、祖父母その他親戚も、友達も、
みんな示し合わせたように言うのだ。
暗に匂わせるのだ。
『あなたは本当に幸せ者だ。
まわりに感謝し、もっとがんばりなさい。
不平不満を言うなんてとんでもない。』
周りがそういうのもわかる。理解はできるのだ。
自分が他人という立場から自分をみたら同じように考えるだろう、と。
「それでも」、と女は思う。
実際はそんなにいいものではない。
社内では、まだ役職なしの下っ端で、飲み会だって断れない。
ある程度一人で仕事をまわせるから、仕事をたくさんまわされて。
オーバーワークなのに、まだまだ仕事をまわされる。それでも断れない。
「こんなの、体のいい作業員だろ。」
女は、ひどく疲れていた。
そうしたころから女は夢を見るようになった。
夢の中で、彼女は城に暮らしていた。
おそらく、その国の王女なのだろうと思う。
城には多くの侍従達と、王子がいた。
女は、その国の国民すべてに愛されていた。
はじめて夢を見たとき、夢の中で目が覚めた。
というよりは、王子に起こされた。
夢の中の彼は少し驚いた表情をつくり、その後とても愛おしそうに女をみた。
躊躇いがちに手を伸ばし、女の頬に触れた。
『ずっと君が起きるのをまってた。』
そして女を抱きしめた。
『僕と結婚してほしい。』
それから、女は夢の中で王子に会うようになった。