表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第四話 冥界の神と救世主

 ―――【冥界(アヌビス)】。それは触れた対象をミイラにする力である。


「……これで最後か」


『ああ』


「他の代行者(エージェント)の気配はするか?」


『ふん、俺の感知能力を舐めるなよ。断言できる。周辺に代行者(エージェント)はいない』


「そう言うなら間違いないな」


 西大陸にある、城塞都市アテナイは、パルテノン神殿を中心に円形に築かれた、西洋の街だ。だが、街にあった活気は、今はもう無い。

用があって南大陸から来たが、丁度今その用事を終えたところだ。


「しかし……大きな街だった。お陰でかなりミイラを確保できた」


 アテナイの人口は約六十万人程で、今俺のミイラ達は合計約百万人だ。

これなら誰にも負ける気がしない。


『そうだな。しかしアビス、油断は禁物だぞ』


「わかってるさ」

 

 梟が死んだのは確認した。

街の住人も、【冥界(アヌビス)】で全てミイラにした。ならば、ここにもう用は無い。


「なら帰r」『後方、代行者(エージェント)だ!』


 何だと?


「やあ」


 こいつ、いつの間に!?


「僕は【(スピリ)―――」

「死ね!」


 アヌビスの感知能力でさえこいつを感知できなかった。

間違い無い。こいつは強い。だからこそ、速攻で殺す!!


「うわぁ……【冥界(アヌビス)】のアビスは血の気が多いなぁ」


 知ったことか。

しかし……何だ? この胸騒ぎは。


 ミイラの軍勢が奴を囲んでいる。

ミイラが剣で切り、槍で突き、矢を放っている。


(……おかしい)


 ミイラが奴の肉を裂き、骨を砕き、息の根を止めんとしている。

奴はもう瀕死であろうが、ミイラは攻撃を止めない。


(何か……何かが、違う)

 

 ミイラが奴を滅多刺しにしている。


(何で。どうして、抵抗しないんだ……!)


 ミイラが奴の首を落とす。

さらには胴、四肢まで切り離し、松明を持ったミイラが肉塊となった奴を燃やした。


(何故感知できなかった?)


(何故抵抗しなかった?)


(何故……何故こんなに、寒気がするんだ?)


 いや、これは予感だ。何かが起こる予感。


「…………さっきは随分とやってくれましたね」


 馬鹿な。

今……俺の目に映るのは奴の姿。

奴の遺体は燃えているが、まだ骨が残っている。なら、ここにいる奴は誰だ?

再生する力を持つものは知っている。だが、これは……!


「私は【救世主(キリスト)】のノーマン。ありがとう、アビスよ」


 【救世主(キリスト)】……? 【救世主(キリスト)】だと……!?


『逃げろ! お前では奴に敵わん!!』


「ッ!」


「不思議に思いませんでしたか? この街の人口が爆発的な増加を続けていたこと」


「…………!」


「あれは【聖霊(スピリトス)】がやったことです。そして今、私の【救世主(キリスト)】によって―――」


 クソ、このままじゃ追いつかれる!

仕方ない、一か八か反撃を……!


『やめろ!!』


 ミイラが突き出した剣は、あまりにも呆気なく、奴の心臓を貫く。


「ぐふっ……これを……待って……いまし、た……よ」


 まただ。また。

不快極まりないこの寒気は、一体何だというのだ!!


 奴がその場に崩れ落ちる。


『アビス逃げろ!! 今!! すぐに!!』


 一体、何をそんなに……?


 刹那、奴は光り輝く。


 ◇


 パルテノン神殿の周りに在った街、アテナイ。

アテナイは一夜にして成り、日々拡大を続けていた。


 【加護】は日に日に力を増し、代行者(エージェント)達はアテナイが強大になり、己と敵対することを危惧していた。

だが、本当に危惧すべきはこの事ではない。


 代行者(エージェント)達は大きな勘違いをしている。アテナイの拡大が、力の関与しない自然なものであると。

しかし街の拡大には、【守護者(アテナ)】以外の誰か(エージェント)の力が、明確に関与している。


 私はその誰か(エージェント)の名を知っている。

その名はノーマン。【三位一体(トリニティ)】のノーマン。


 私は彼が起こす未来を知っている。


 ―――戦いは聖霊の目覚めから始まり、争いは父の眠りで終わる。


 これは私が、()()を知る【全知】が、唯一知っている()()である。


 ◇


「―――【再臨(セカンドカミング)】」


「あ……あ゙あ゙あ゙あ゙……!!」


 光が皮膚を、肉を、骨を焼くように感じる。

まるで犯してきた罪を裁くように。


 光が神々しさを増す。

視界は白く染まり、意識は遠のく。


(俺は……お、れは……どうなって……? わ、私、は……)


「貴方に会えて、本当に良かった」 




 ―――生ける者には審判を。




 ―――死せる者には命と忠誠を。




「……こんにちは、アビス。私に忠誠を誓いますか?」


 光より現れた、復活せし兵士達が、じっとアビスを見つめている。


「……ハッ。このアビス、命尽きるまで貴方様に尽くす事を誓います」


 アビスがひざまずくと、周りの兵士達も跪く。


「ありがとう。私が、皆を救ってみせます」




 ―――それは神の国の完成を意味する。




 ―――今ここに、新たな秩序が誕生した。




 ◇

 

 それは再臨によって、生者を従え、死者を蘇らせる。

約十万人の兵士達、()()()()、一人の代行者を率いて、それは軍を成す。

やがてそれは光を以て奈落の闇を裁き、闇からはかつての守護者が現れるだろう。


「やはり手を組んでいたな……! アスピーダ、そしてノーマン!」


「……どうかされましたか?」


「想定外の事態が起きた。……アアル。協力してくれる代行者を出来る限り集めろ。今すぐにだ」


「……はい、アルフォズル様」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ