第一話 天照らす赤き太陽
神の戦争。
それは神々の代理戦争である。
神は死者の魂を選りすぐり、異世界、『虚地』へと転生させた。
転生者は代行者と呼ばれ、力が、武器が与えられ、そして殺し合う運命にあった。
――これはその最後の一人、【天照】の代行者である。
◇
(ああ……俺はここで死ぬんだな)
奴は強盗だった。よりにもよって、家族が旅行に行っていたときだった。
部屋に入ってきたとき、奴が刃物を持っているのが見えた。それにもかかわらず、俺は命よりも財産を優先した。
――死ぬことはないと思っていたから。ここは、皆の家だから。だから、俺は抵抗した。
結果、俺は奴に腹を刺された。
段々と体が冷えていくのが分かる。
ドクンと脈打つ心臓が、死へのカウントダウンをしている様に思えた。
(家族に……何も残してあげられない)
お金も、命も失って……俺は何も残せない。
意識が朦朧としてくる。
――死にたくない。
奴への怒りと恨みが込み上げてくるようで、しかし残るのは後悔だけ。
『心配いりません』
誰だ? ああ、お迎えか。
『彼には天罰が下るでしょう』
そうであることを願いたいな。
『赤城 太陽。貴方にはまだ役目があるのです』
役目、か。来世では俺、何か残せるかな。
『ええ』
そう言って貰えると……安心……だな。
『ええ。勝つのは、私達ですから』
◇
そよ風が体に当たって気持ち良い。
草が揺れ、サァーッという音が聞こえてくる。
「…………?」
『目覚めましたね。こんにちは、太陽』
「!?」
誰だ? というか、俺は……どうしたんだ?
『私は天照大御神。貴方をこの世界へ転生させたのです』
カミ……? この世界……? 転生? どういうことだ。
自分の頬を両手で勢いよく叩く。
――痛い。
……俺は今、生きているのか?
『はい。そしてここは虚地、という世界です』
虚地……地球では無いのか。
『はい』
そうか…………。まあ、いい。残せなかったんじゃない。残さなかったんだ。
きっとお互い、新しい人生を歩むために。
『……役目があると言いましたね。早速果たして貰いますよ』
…………ああ、折角貰った命なんだ。こんなただのおっさんでも果たせる役目なら、どんな役目でも果たしてやる。
『心強いですね』
寝そべっていた状態から立ち上がり、辺りを見回す。
見渡す限りの草原が広がっており、所々木が生えている。
太陽が燦々と降り注ぎ、木陰から漏れ出す光が眩しい。
ここは気持ち良い所だな。
それで、役目ってのは何なんだ?
『私達は今、戦争をしています。なので貴方に……天照大御神の代理として、戦って頂きたいのです』
戦う? そんな、俺は武術の心得とか、武器の扱い方とか知らないし……
実際、包丁持った男に殺されてるし。相応しくないのでは?
『いいえ。貴方には【天照】の素質があった。それだけです』
素質……? 心当たりはないんだけどな……
『実際に使ってみれば分かるでしょう。光を一箇所に集め、放出するように念じるのです』
こうかな……光をギューッとして……ハアッ!
腕を前に伸ばし、掌に光が集まる。
光が強くなり、白く輝いたとき。光が前方に放たれ、草原に命中する。
命中した部分の草が黒く焦げ、白い煙を上げている。
『よく出来ました。やはり、私の目は間違っていなかったようですね』
『この力は【天照】。太陽の力です。多少身体能力も向上させましたから、十分戦えるでしょう』
身体能力も? ちょっと走ってみるか。
位置について……よーい……ドン、って速ァ!?
学生のときより速い気がするぞ。
『気をつけて下さい。他にも貴方と同じ”代行者”が沢山居ますから』
エージェント、つまり代行者、か。
向こうの背後にも神がいるのか?
というか、今どうやって会話してるんだ。全く違和感を持たなかったぞ。
『私の声は貴方にしか聞こえません。貴方の思考を読み、貴方の脳に直接語りかけています』
俺、神に対してタメ口だけど良いのか?
『構いませんよ。そもそも、こちらの都合で転生させてしまったのですから』
させられたとは思ってないけどな。
『…………。!! 右側、代行者の反応有り。戦闘の準備を!』
何だって。右側……何も居ないじゃないか。
『私達神は遠くからでもお互いに存在を感知できますので。恐らく向こうもこちらに気付いているでしょう。くれぐれも気を付けて』
取り敢えず【天照】を撃って様子見をするか。
『良い判断だと思います』
「【天照】!」
光が伸び、奥にあった木に命中する。
木は命中した部分から発火し、黒煙を出して燃え上がる。
「どうだ?」
『別に【天照】と言う必要は無いのですよ?』
良いんだよ、折角こんな力があるんだ。少しくらい格好つけたいだろ。
『来ます! 避けて』
「ッ!」
咄嗟に左に躱すと、すぐ横を”水を纏った槍”が通った。
「危なかった。あれは何だったんだ?」
「何だったかって?」
「!?」
突如背後に男が現れた。
全く気が付かなかった。こいつは何の神の力を……!?
「さっきのは……【三叉槍】さ」
「ぐ!?」
巨大な水の拳が、太陽の腹に叩き込まれた。
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