~才能~
~~ 七つの大罪- Yosay & B»A
それから3週間という長い間、毎日グレーイは教え上手なアンシャンバーダル監視の下、一心不乱に練習に励んだ。まずは、基礎固めからだ。
エルムの体から放出されている不思議なオーラは、ジンと呼ばれる生きたエネルギーだ。エルムの力はこのジンから来ている。よってジンが強力であるならば能力も高い。ジンがないエルムは生きていない。だからジンが入っている甦りの水は回復の力があるのだ。
雲の力は2つの要素に分けられる。水と空気、つまりナミアとヴァハだ。この2つの要素を混ぜたものをツと呼ぶ。ツは主に攻撃に使われる。非常に強力な水を噴射することも、迫撃砲のように分裂する水の玉を出すこともできる。
こういった説明と簡単なデモンストレーションの後実践に移ったわけだが、バーダルの忠告通り、グレーイには全くもって才能がなかった!
毎晩、グレーイはクタクタで、ご褒美は生のじゃがいもか、時々出てくる人参だけだった。もっと最悪なことは、小指の先ほども成長しないということだった。3週間の間、グレーイは筋肉をつけただけだった。時々、バーダルが悲しそうな目を向けていた。失敗を補う為に、主人公はじゃがいもをその数だけ食べるのだった…
午後が終わろうという頃、子供たちはヌベと一緒にやってきた。グレーイはすっかりこの子たちのことが好きになっていた。いつもチームを組んでるウルナーは特にだ。もっとも、グレーイを勝たせられるのはこの子しかいないのだが…この習慣が続き、ヌベと子供たちは毎日来るようになった。
グレーイは、どんなに疲れ果てていても、友達だと思える彼らが来るのがいつも楽しみだった。遊んでいる間、バーダルはヌベと話していた。遠くの方で笑いあってる2雲の姿は、まるで砂場でじゃれ合って遊んでいる子供たちを見る親のようだった。
とうとう評議会の開催が明日に迫ったある日、グレーイは未だに成果を上げられずにいた。バーダルが課した厳しい訓練のお陰で肉体は強くなったが…それだけだった。ナミアもヴァハも使えるようにはならなかった……なぜだ?理由は謎に包まれていた…
いつものごとく、ヌベと子供たちが追放された雲たちのもとにやってきた。大事な日の前日だから、とヌベはあるものをグレーイとバーダルにもってきた。それは野菜と一緒に炊いた米と、そして…不思議な円くて平たいものだ。
「これはなんだ?」とグレーイが聞いた。
「これはりんごのタルトよ。」ヌベがにっこりと答えた。
そう聞くや否や、子供たちがどっと押し寄せてきた。グレーイは一口食べてみてどうしてか分かった。アンシャンバーダルのじゃがいもとは比べ物にならない!別世界が広がっていた。次に料理の方も食べてみた。雨雲が温かいものを食べたのは、雲生で初めてのことだった。これは大変なごちそうだった!
バーダルでさえたらふく食べていた。みんなが食べている中、ヌベはグレーイのことをじっと見つめていた。雨雲の口に合わないのではないか、と心配しているようだった。
「ヌベ、何から何までありがとう。」口の中にいっぱい詰め込んだままグレーイが言った。「これは本当に…美味しすぎる!」
「非常に美味しい!」バーダルが訂正した。
「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しいわ。」先生が答えた。
ご馳走を堪能した後、少し休憩することにした。子供たちは遊び、ヌベはいつも通りバーダルと話している。その一方、グレーイはみんなから離れたところに座り、ふくれていた。エルムの能力を使うのに向いていないのではないか、という固定観念に縛られていたのだ。ウルナーにはその気持ちが良くわかった。だから彼のもとへ行き、こう言った。
「知ってる?学校ではね、上手く飛べない子がいっぱいいるんだよ!」
「飛べないどころか、わたしは1センチも浮かべないんだ!」足元に転がってる石をウルナーの方に蹴りながらグレーイが愚痴った。「だから飛ぶなんて…もういいよ!」
「だけど、数日前に生まれたばっかじゃん!」
「アンシャンバーダルによると、少なくともナミアを使うことは出来るはずなんだって…殆どの雲に生まれつき備わってるからって。でも、わたしは、それすら出来ない!」
「ナミアだったら一つアドバイスしてあげれるよ。あのね、水っていうのは私たちの体の一部なの、体のパーツだって言い換えることもできるよ!」
「君は上手いんだよ、ウルナー。わたしとは違う!アンシャンは、雨雲は他の雲より簡単に出来るって言うんだけど…多分、わたしが生まれた時何か間違いが起こったんだ。評議会の決定の後、神に会いに行こうと思うんだ…それで聞いてくる!」
小さなエルムが震えるほど、断固とした態度で言い放った。たった一つ確かなことは、グレーイは自分の無能さに打ちひしがれている、ということだ。
「ほら!やめやめ!」ウルナーが口を開いた。「遊ぼうよ!気分転換になるよ!」
評議会に呼ばれる前最後の勝負だったので、持てる力は全て発揮する覚悟だった。この試合は一番長く、そして接戦だった。日も落ちたのに、どのチームも抜き出ることができずにいた。みんな同点で、次に点をとったチームが勝ちだ!
今夜は、一雲として勝ちを譲らなかった。なんて試合だ!みんな息を切らして、どうやったら点を取れるのかほとんど分からない状況だった。でも、勝利のためにはここで限界を越えなければならない。ここが踏ん張りどころだ!
全てナンバスの肩にかかっていた。最後に得点をしたので、ボールを投げる権利があるのはこの雲だ。勝つためには、チームメイトがそれを捕まえなければならない。しかし、ずるはダメだ!ボールは絶対に、チームメイトが偶然見つけられないような場所に投げなければならない…
だからナンバスはボールをナミアで満たして重くし、みんなから離れた場所を選んだ。驚くことに、この小さなエルムは数を数え始めた。5…4…3…2…そして、目にもとまらぬ速さで動き、ボールを森の方へ投げた。最後まで数えないとは、ナンバスらしいイタズラだ!
そこから一秒もたたないうちに、子供たちは全員飛び立った。グレーイも、いつも通り息を切らしながら走った。もちろん、ボールを捕まえるチャンスは巡ってこなかったが、それでも諦めることだけは絶対したくなかった。
いずれにせよ、ウルナーは先手を打った。大人の雲ですら捕まえられないほどの力で投げた。この大胆不敵な少女はこの最後の投球、最後のゲームに全エネルギーを注ぎ込んだ。彼女の、そしてグレーイの勝利を確信していたのだ!
ボールは木の後ろに落ちた。こうなるのは初めてのことではなかったが、今回もウルナーは力の限り駆け出した。この速さは、彼女自身も軌道をコントロールできなかった…友たちは歩みを緩めたが、ウルナーはまだアドレナリンが放出され、無我夢中のままだった。
気付いた時には、木の幹へ向かって飛び出していた。もう後ろに下がるには遅すぎた…
体の向きを変えて木と反対方向へ移動すれば良かったし、生まれ持った才能があるからそれが出来たはずだった…しかしついてないことに、もうそんな力は残っていなかった。体が動くことを拒否した。少しでもスピードを遅めようと、腕をありとあらゆる方向に動かしてみた。しかし何も変わらない。
もう、あの硬い木にぶつかるしかなかった。しかもこのスピードでは一大事になりかねない!
不思議なことに、誰も心配していないようだった。それもそのはずだ。誰もがウルナーは受身を取るだろうと思っていた。せめてそれが彼女に出来れば…彼女のその才能と、学校で一番になるほどの天分があったとしても、まだ子供なのだ!
衝撃の前に、怖さで突然体が固まってしまった。どんどん木に近付き、そして誰も何も出来なかった。誰もそれが危険だと思っていなかったからだ…グレーイ以外は。
ウルナーの助けを求める声を聞いたのは雨雲だけだった。一瞬の間、周りのすべてのものが止まった。友が衝突したら死んでしまうことが分かった。でも、何ができるというのか?飛ぶことすらできないのに…無力なのに!
しかし、予期せぬことが起こった。
考える前に、彼は腕を挙げ、ナミアのボールを作り出していた。方向転換し、ウルナーが向かっている木に向かって、全力でそれを投げた。あっという間にその小さなボールは森に到着し、巨大な水の塊となって弾けた。そして分裂し、物凄い衝撃波をもたらした。
ウルナーは突風によりグワンと後ろに投げ飛ばされた。爆風は他の子供たちにも届き、みんな風にあおられ飛ばされそうだった。パニックだった。誰も何が起こったのか理解できなかった。聞こえるのは恐ろしいほどの暴風が空気を震わす音と、子供たちの叫び声だけだった。
グレーイは、自分自身が作った竜巻から自分の身を守らねばならなかった。無意識に、反射的に動いた…
目を開けてみると、森の一部分がきれいさっぱり無くなっていた。数週間前にグレーイが生まれたところよりも、10倍ほど大きなクレーターがあるだけだった。そう、つまりこれが、雨雲の力なのだ…
グレーイはようやくエルムの力を使うことに成功した。.
しかし…どんな価値があるんだろう?