~怪物~
~~ ファイナルファンタジー X - 幻想
グレーイとバーダルは、緑に覆われた並木道を横切った。森からの帰り道だったが、こちら側に階段はなかった。この坂道には、木々や、やぶや葉っぱが地面の至る所に散らばっていて、つまづかないようにするのが難しかった…
空気は美味しかったが、木々の間を横切って流れる風は強かった。多くの野生動物がこちら側にはいた。リス、イタチ、そしてたくさんの鳥たち。この並木道を歩くザクザクとした音は、まるで心地よいメロディーかのようにグレーイの耳に響いた。これは森の歌だ。
それはここに来るまでにした、長くて孤独だった旅路を思い起こさせた。グレーイは歩くのは好きだが、だんだんと疲れ、イライラし始めた…
「まだかかるのか?」と思わず聞いた。
「そう焦るでない。」唸るようにアンシャンが言った。「それに、わしの小屋はここにはない…」
「なんだって!?」とグレーイが叫んだ。「それならどこに行くんだ!?イタチの巣か!?」
「ちょっとは静かに話せんのか、愚か者!お前さんを古い友に紹介するのじゃ!」
バーダルは大きな木の近くで止まり、枝をじっと観察し始めた。しかし何もない。果物一つさえない。突然、手で木の幹を叩き始めた。老雲が狂って、寝ている木を起こそうとしているかのようだった。そしてこう叫んだ。
「お前さんが寝てないことなど分かっておる!これ以上叩かせるな!」
古い友とは、きっと目には見えないくらい小さくて、下にいるものなのだろう、と目を凝らして見たが、グレーイには何も見えなかった。すると、枝の一本が、何かに憑りつかれたかのように勝手に動き出した。グレーイは鳥肌が立った。
「邪魔するんじゃないわよ!」謎めいた声が喋った。「アタシの睡眠を邪魔しやがって、分かってんの?」
「わしはお前さんの為に出来ることは全部した、お前さんもちょっとは努力しんか!」
その声は力強く、深みがあったが、なにより、それは雌の声だった!しかし、グレーイがその時疑問に思ったことと言えば「木が喋れるのか!?」だった。
一度たりともアンシャンバーダルが生きた木と知り合いだとは想像もしなかった…ゆっくりとバーダルに近付き、小さな声でこう聞いた。
「こ…この木があんたの友達なの…?」
笑い声が森に響き渡った。枝に静かに止まっていた鳥たちは、一斉に飛び立った。森が揺れ動く中、何かの影がさっきまで動いていた枝のあたりに現れた…動物の影だ!
丸くて白い顔に付いている2つの真っ黒な粒が、下にいる2つの雲を見つめていた。次に鋭い爪が生えている巨大な足が現れた。枝にとまっているこれは、あの大立者、デュオルクより更に大きかった。優に2メートルはあるだろう。
それは本物の怪物だった。気圧され、全くの無意識のうちに、グレーイはバーダルを掴んでいた。酷い冷や汗をかいている。
「きょ…巨大な…フ…フクロウだ…」ごにょごにょ呟いた。
その生き物の顔が突然グレーイの方を向いた。その目はグレーイのよりも更に深く、更に黒かった。見つめていると眩暈がしそうなほどに。
「口の利き方に気を付けな。」冷たくその巨大な生き物が答えた。「アタシはそんじょそこらにいる底辺のフクロウとは違う。アタシは雌のメンフクロウ。この辺の山の女王で、白の貴婦人と呼ばれてる!名前はパリよ。」
雌のメンフクロウだって?グレーイは雄のフクロウと雌のフクロウの違いはよく分からなかったが、一つ知っていることがある。雄であれ雌であれ、フクロウはこんなに巨大ではないし、自らを透明にすることも、話すこともできない!
グレーイをじっと見つめていたが、不意に顔を、まるで首の骨を折ろうとするかのようにぐるんっと回した。雨雲を見て動揺しているかのように見えた…頭を色々な方向に忙しなく動かし続けた。グレーイは石になったかのように硬直し、連れの傍を離れなかった。口を開こうとすることもできなかった。
「あんたの友達は言葉も出ないようね。」パリが嘲笑った。
その時、グレーイは、自分がバーダルの肩を掴んでいることに気が付いた。恥ずかしくなって突然手を離し、視線をそらした。気まずい時間が少し流れた後、勇気を出して白の貴婦人の方に勇敢にも向き直った。
「怖くなんかないぞ!」と毅然とした態度で言い放った。
「ふーん、そう。でも、誰もそんなこと、一言も言ってないわよ。勝手に告白しちゃったわね。」
バーダルはグレーイの引きつった顔を見てクスクスっと笑った。まるで、「このメンフクロウがお前さんの親じゃ」と言われたかのような表情だった。
「パリや、我々はわしの小屋へ向かう。お前さんの助けが必要なのじゃ。」
「あー…助けね。」パリは溜息をついた。「なるほどね、だけど、ちょっとばかし問題があってさあ…」
「なんだ、その問題とは?」
「めんどい。」
「そんなことだと思った…ほらパリ!一回くらいは楽をさせてくれ!」
「もし、もっとイケメンを連れてきてくれていたなら、協力してやったかもしれないけど…けどコイツは…ダメ。あんたの好みではあるのかもしれないけど、アタシの好みじゃ全くないのよねぇ…てか、なんでアタシがあんたを助けなくちゃいけないのよ?」
「分かったよ。」バーダルは溜息をついた。「次は獲物と甦りの水を持ってくるから。」
「ねえ、話はそんだけ?ならアタシ休みたいの。やることがいーっぱいあってさ…分かる?例えば…そう、寝ないといけないし。来てくれてありがとうね。あんたもありがと、ブサイクな雨雲ちゃん。だから…」
「一年間毎月獲物を持ってくる!!!」急にバーダルが叫んだ。
「わお~、でもさあ、あんた、あの古ーい小屋に本当は行きたがってるんでしょう?それにバーダル、食べ物なんかでアタシのことが釣れると?アタシが誰だかお忘れじゃないでしょうね?」
「そうじゃ。」
「じゃあ、話してみてよ。何をして欲しいの?」
バーダルが事情を説明した数分後、パリは飛び立った。羽ばたきで木々を揺らしながら空へと消えていった。アンシャンといると、驚きが尽きない。あのメンフクロウは格別だった。なんという性格!あのデュオルクでさえ、この白の貴婦人よりも怖くはなかった…
「あの怪物はあんたの小屋を掃除し行ったのか?」グレーイが聞いた。「どういうことだ?」
「まず、怪物ではない。雌のメンフクロウで名前はパリじゃ!」
「動物たちは今まで見たことがあったが、あんな風じゃなかった…フクロウはあんなサイズではないし、透明にもならないし喋りもしない!父親がおしゃべりなカメレオンか何かでない限り!」
「いいところに気が付いたの!」笑顔でバーダルが答えた。「あやつはマジマルなのだ。マジマルとは、エルムみたいなもんで、何百年も生きることが出来る。遠い昔、あいつの父君と友達だった。瓜二つじゃ。見た目も性格も…」
「それは質問の答えになってないぞ!」
「はあ…神ならもうちょっとお前を賢く作れただろうに!」アンシャンは文句を垂れた。
不思議なことにグレーイは笑った。こんな風にバーダルが返事をすることに慣れて、可笑しく思えた。間違いなく、この物語の主人公は、これ以上いない先導役に出会ったのだ。
「マジマルと会えるのはとても稀なことなんじゃ。しかしパリはここにずっと住んでおる。」アンシャンバーダルが続けた。「あやつはこの地域の静けさが好きでの。それに、ここはあやつの父君が亡くなった場所でもある。父君が生きておった間、片時も傍を離れんかった。いつもくっついておったよ…今も、死から何年も経ったというのに、未だに深く愛しておるようじゃ。」
「あいつ、そんな思いやりのあるようなフクロウには見えなかったけど…」
「小僧、お前さんが一番最初に覚えるべきは…絶対に、どんなことがあろうとも、見た目や第一印象を信じてはならぬ、ということじゃ。それがエルムであろうと、テンであろうと、雌フクロウであろうと、何であろうとじゃ!わしを信じろ、パリは良いやつじゃよ。」
「分かったよ。でも、まだ彼女がどうして小屋を掃除しに行ったか教えてくれていない。」
「年齢のせいか、すぐ脱線してしまうの…要するに、わしの小屋の周りでは、全ての種類の野生動物が暮らしておって、わしは動物を殺すのが大嫌いなのじゃ。胸が痛むからの…マジマルは精霊を呼び出せるから、その方が簡単なのでな。」
「精霊だって!?」
「ああ!」バーダルが叫んだ。「神よ、どうぞお助け下さい!もう小僧の質問に答えるのはうんざりじゃ!ちょっとは休ませてくれ!それについては後で話そう…」
グレーイは追及はしなかったが、また空想を描いていた。こんなにも知らないことがあるとは。他のエルムにマジマル、神、そして今度は精霊ときた!
数分後、やっと目的地に到着した――バーダルの小屋だ。どこから見ても、木製の荒れ果てた掘っ立て小屋のようだ。2雲で使うには十分な大きさである。今にも崩壊しそうなほどボロボロだ。扉すらない…
グレーイは、なぜデュオルクが、鼻先でバーダルのことをせせら笑っていたのかが分かった。しかし、雨雲にとってそれは気にならなかった。星空の下で眠ることも嫌ではなかった…彼はたった一つのことに夢中になっていた。この世界と、その謎について!神がこの世界を作ったのには、ちゃんとした理由があるに違いないのだ。今、何としてでもその理由を見つけ出したい!
その前に、なぜ雨雲が違う存在だと、むしろ有害な存在だとすら思われるようになったのかを知る必要がある。それが彼が一番に求めている答えだ。ネフェリアの歴史、雨雲の歴史、この世界の歴史。知らなくては!
「そこで少し待っておれ。」バーダルが命令した声で、グレーイは現実へと引き戻された。「お前さんを驚かせたいことが一つある…」
グレーイはやっと数日過ごす場所に到着した。
その間に、ゆっくりとこの小屋に向かってくるものが数名いる…