~天命~
~~ NARUTO -ナルト- Alone
グレーイは町の隅にある木の陰に座っていた。真正面に、ここから少し離れたところに建っている、塔の次に重要だという建物が見える。その建物は広大な土地に寝転がる3階建ての家のように見えた。バーダルはグレーイにここで待つように命じ、貯蔵庫と呼ばれるその巨大な建物に入っていった。
バーダルがグレーイに教えてくれたのは、そこにはヒーラーと呼ばれるものらがいて、内部ではこの世に一つしかない水、魔法の水を作っているということだけだった。好奇心旺盛なグレーイは中に入って、自分自身の目でそれが何なのかを見てみたかったが、でも邪魔者扱いされることも分かっていた。
グレーイは雨雲がこんな風に扱われる理由を理解しようと決意した。ちょっと色が違うだけじゃないか…いや、僅かな差しかない!それなのにあの反応はなんなんだ?なぜ長はあんなにも雨雲を憎んでいる?
きっと他に理由があるはずだ…この謎の答えが!
そんな風にあれこれ考えていた時、何か小さな木で出来たものが、グレーイを覆い隠してくれている木の葉の中から飛び出し、顔面にぶつかってきた。痛くも痒くもなかったが、ただただまるで悪夢でも見たかのように驚いて飛び上がった。それで雨雲は、小さなボールに似たものを拾い上げた。オレンジくらいの大きさで、塩一粒くらいの重さしかない。
「おーい!それちょーだい!!」という声が突然聞こえてきた。
小さな生き物が頭の上をふわふわと浮かんでいた。それは子供だった。手を「ちょーだい」と言わんばかりにこちらに差し出していたので、何も考えずにそうした。この子供の反応はかなり不思議なものだった。全く怖がってはいないようだったが…グレーイのことをじっと見続け、こわばった笑顔をこちらに見せた。
「あなた、雨雲でしょ、違う?」と聞いてきた。
その瞬間、グレーイから笑みが消えた。しばらくの間、この小さな雲がどういう反応をするか怖くて、答えるべきか否か悩んだが、見た目は嘘をつかない…なのでこう答えた。
「ああ、そうだ…グレーイという名だ。」
「うちの名前はウルナー!」ワクワクした様子ですぐさま答えた。「雨雲を見るのは初めて!ねえ、友達に見せたいから、ちょっとそこまで付いてきてくれない?そうしないと信じてもらえないからさ!」
「えっ…と…わからない…」もごもごとグレーイが言った。「いや…ごめん…ここでアンシャンバーダルを待ってるんだ。ここから動かないように言われた…」
「バーダルおじさん?よく知ってるよ!というかみーんな知ってる!そっか…じゃあ、今夜ここに戻ってこられる?学校が終わった時間に!」
「えっと…町から出て行って、町の外にいないといけないんだ。だから今夜、ここには戻ってこられないと思う。」
「ああ!」突然ウルナーが叫んだ。「どこに行くか分かった!バーダルおじさんの小屋だね!そうでしょ?そっか、ならそこに行くよ!バーダルおじさんはうちらに会えるの絶対喜ぶもん!」
「どうだろう…まあ、本当にそうしたいなら…多分…」
「あなたいい雲だね!」と雨雲の言葉を遮った。「絶対だよ、じゃあまた後でね!」
そう言うと満面の笑みを浮かべて飛んで行ってしまった。グレーイは今何が起きたのか分からず、そこに根が生えたように突っ立っていた。
するとアンシャンバーダルが貯蔵庫から帰ってきた。ネフェリアの住雲みんなが使いまわしたかのような、ボロボロのカバンを引っ提げている。グレーイがそれは何かと聞く前に、バーダルが木で出来た大きな瓢箪型の容器をグレーイにほうってよこした。
「これは?」空中でそれを受け止めながらグレーイが聞いた。
「甦りの水が入った水筒じゃよ。」
「普通の水とは違うの?」
「全くもって違う。」笑いながらバーダルが答えた。「我々の体は常に水を作り続けておるが、それはただの淡水なのだ。特殊なミネラルとヒーラーの生命エネルギーが含まれた井戸水である甦りの水を、ヒーラーたちが一生懸命作っておる。そのミネラルが混ざっていないと、甦りの水とは呼べん。」
グレーイには全部を理解することはできなかった…が、たった一つ分かったことがあった。この水は他のものとは違う…水筒を開け、口まで持っていき、ほんの一口ゴクッと飲んだ。途端、新しい感覚に包まれた…それはまるで冷たい空気が体の中に入り込んできたような、まるで命そのものが体の中に入り込んできたような感覚だった!
ほんの少し飲んだところで、直ぐに飲むのをやめた。まるで自身が強化され、力がみなぎってくるような、疲れることなく何か月もいられるような気がした。
「動物たちと同じように、我々も活力を補給する必要があるのだよ。」とバーダルは続けた。「言わずもがなやつらよりは少ないが、それでも我々も飲み食いしなければならないのだ。これを一口飲めば、まるで3食食べたかのようになる。さらに、この水はほとんどの病気を治すと言われているのだよ。世界中がこれを欲しがっているのじゃ、小僧!」
白い老雲はカバンを開き、グレーイに中身を見せた。
「ここに果物と野菜、それに水筒も3本ある。これでこの先数週間はもつじゃろう。まあ、ほとんどお前さんが必要なものじゃな…」
グレーイは聞いているふりをしていた。というのも、その言葉たちは右から左にすぐに流れていってしまったのだ。まだ甦りの水を飲んだショックの最中にいた。しかし、連れが出発してしまっているのに気付いて、急いで後を追いかけた。
睡蓮での旅は終わり、ウルナーが言うところの小屋へは徒歩で向かうことになった。しかし、アンシャンが辿っている道はおかしなものだった。小さな孤立した小道を通り、大回りしているようだ。
「出口に行くんじゃないの?」とグレーイ。
「お前さん、気分が良くないだろう。だから雲が誰もいない道を選んでおるのだ。」
バーダルは、グレーイが何も言わなくてもどう感じているのかを見事に言い当ててみせた。そしてこの時、この老雲の賢さを真に実感した。その一方で、雨雲はアンシャンにとってただのお荷物なのではないか、と感じていた。ネフェリアに来るべきではなかった。バーダルは警告してくれていたのに…
「至って普通のことじゃよ。」白い老雲は叫んだ。「お前さんと一緒にいて安らげるものといると、お前さんも安らげる。困難な状態にあるものはお前さんまでその状態に引き込もうとする。立ち振る舞いとは鏡のようなものなのじゃよ。ここの雲たちの気持ちがお前さんの心を傷付けた結果、息が詰まってしまったのじゃろう。まあわしが言いたいのは、悔やむ必要などないってことだ。」
「アンシャンバーダル、ありがとう…でも、もしあんたが代償を払わないといけないなら、これ以上助けてもらうわけにはいかない。自分の力で町を出て遠くへ行き、二度とここには帰ってこないと誓う!」
「愚かになることも、愚かな考えを持つこともやめんか!これはわしの選択であって、お前さんのではない。わしがしたくてこうしているのだ。お前さんのような生まれたての雲が、わしのやることに口出しするでない!」
この雲がこんなに優しく、そして挑発的でもいられることに驚きを隠せなかった。しかし、グレーイはバーダルが根っからの善良で誠実な雲であることを知っているのでこの態度が少し可笑しかった。バーダルのしかめっ面に笑ってしまった。
今は、なぜ雨雲がこんなにも嫌われているのかを知りたかったが、タブーであるかのように質問すべきではないことだと思い、その場では何も聞かず、代わりにこう聞いた。
「わたしより随分と小さい雲たちを見たのだが…なぜあいつらはあんなに小さいんだ?」
「子供たちのことか?普通なら学校へ行っておるが…もし見かけたのなら休み時間中にこっそり出てきたんじゃろう…まあよい。我々は天命を選ぶことが出来ないことは伝えておこう。」
「天命だって?」困惑しながらグレーイが繰り返した。
「我々はそれぞれ違う段階で生まれてくる。お前さんのような青年の状態で生まれてくるものもおれば、子供の状態で生まれてくるもの…色々じゃ!稀に既に年老いた状態で生まれてくるものもおるし、赤ん坊の状態で生まれるものもおる!例えばわしは子供の状態だったな。お前さんは幼少期を過ごすことは出来ぬ!」
「それって…不公平じゃないか!」グレーイが叫んだ。「つまり、わたしは幼少期を知ることは不可能で、数年後にはあんたみたいになると!?」
「落ち着くのじゃ。」バーダルは微笑みながら答えた。「今あるものに満足するのじゃ。それと、大人になってからはゆっくりとしか年を取らぬ。お前さんはまだとても若い!」
「待ってくれ…つまり、既に終わりが近い状態で生まれてくるものもいるということか?」
「その通り。それがエルムの性質なのだ。我々は天命を選べぬ。我々に出来ることは、エルム生を出来る限り美しいものにしようと努力すること。この地では、我々老雲でさえも、それぞれに役割があるのじゃ。」
「エルム?我々は雲じゃないのか?」
「雲は数あるエルムの中の一つなのだ。わしも雲である前に、一つのエルムなのだよ。雲のエルムのほかに他のエルムが存在しておる。今のところお前さんはまだ雲生のほんの一部分しか見ておらぬ…小僧、わしを信じろ!」
「もっと聞かせてくれよ!年老いてる分、その目で全てを見てきたんだろう?」
「年老いてるじゃと!?失礼な!『アンシャン』と呼びなさい。でもまあ、そうじゃ…だがもう昔の話じゃ。想像もできないような場所や信じられないような民族がおったわ…」
「分かった分かった、アンシャン。でも、年寄の状態で生まれてきた雲にも、敬意を払う必要はあるのか?」
「ははは!」バーダルが奇妙に笑った。「それはいい質問じゃの。先に言ったように、年老いてから生まれてくることはまず稀じゃ。だが、敬意は払わねばならぬ。高齢の状態で生まれるエルムは、その分の知恵を予め備えた状態でこの世に生を受ける。つまり、今のお前さんよりよっぽど賢い状態なのじゃ。今のわしのようにな。」
その気まずい沈黙を感じ、グレーイは息をすうっと吸った。老君から怒りの匂いを感じ取り、急いでこう答えた。
「エルムが送るエルム生は本当に不思議だ…生まれつき備わる知恵の話も…今、確信した。絶対にエルムが存在する理由があるはずだ。そしてわたしが存在する理由も。あんたが話してくれた天命とやらには、必ず裏があるはずだ!」
「その通り。そしてわしは何があるか知っている。」アンシャンは思わず吹き出しながら言った。
「それは何なんだ!?」目を輝かせながらグレーイが聞いた。
「『何だ』ではなく、どちらかと言えば『誰だ』じゃな。全部神の仕業じゃよ。そんなに興奮しておるなら、一つ約束してやろう。評議会が開かれ、デュオルクがお前さんを村に迎え入れたなら、神のところに連れて行ってやろう。」
「神の!?」
すると無言でアンシャンバーダルは空を指で指し、そしてそれ以上は何も言わずに歩み続けた。神?それが彼らをこの世界に連れてきたのだろうか?再びグレーイは夢を見始めた!
新しい疑問がちょうど生まれた。他の土地、他の村、他の種族にそして…神!バーダルがこの約束をしてくれた今、グレーイの楽しみはたった一つ。早く評議会の日が来ないかなあ!
そして気が付かないうちに、白い老雲は城壁の真ん中にある木や茂みで完全に覆い隠された小さな門へと彼を誘っていた。ここを守っている戦士は全くいない。こうして、2雲はネフェリアの町を後にした。
雨雲は一歩一歩答えに近付いている!
だがその前に、バーダルはまだ秘密を隠し持っているようだ…