~邪雲~
~~ドラゴンボール超ブロリー - フリーザ軍誕生
雨雲を除いて、そのナニカが空中で立っていることに驚いている様子の雲はいなかった。下から見ると、それが雲なのか他のものなのか区別が付かなかったが、とにかくオーラが他の雲とは比べ物にならない。しかも彼らと違い危険だということを示していた。
「俺様は簡単な質問をしただけだが?」とみんなを黙らせた。
すると、大きな鼻の戦士が答えた。バーダルと雨雲の前では強者だと気取っていたが、この浮かんでいる物に向かって、しどろもどろに話し始めた。
「あの…実は…その…アンシャンバーダルがこのよそ者を連れてきまして、それで…」
「貴様は俺様を愚弄しておるのか?」空からの声が荒々しく言葉を遮った。「この町にこやつが入る前から、存在には気付いておったわ!俺様が聞いたのは、この場所で貴様らが何をしておるかだ!」
話し方においても他の雲とは一線を画していた。声は厳かで重々しく、口調は荒っぽいどころか、無礼にさえ聞こえた。それでも、誰もこのものに反抗しようとしなかった。きっと特別な地位についているのだろう…噂に聞いた副町長なのだろうか?
意外なことに、バーダルは発言することを決心したようだ。自信がある様子で進み出て、大きく、力強くこう言った。
「水を汲みに行く途中、山のもう少し下でこの若雲に出会ったのだ。生まれたばかりじゃよ…お前さんならこやつに会いたがると思ったのだが!」
「バーダル、あんたまで俺様を馬鹿にしているわけじゃないといいが。」と謎の生物が答えた。「どうやらあんたの年齢も佳境に入ったようだな。今まであんたに対しては寛容に接してきたが、忍耐にも限度があるのだ。」
雨雲は、誰かがアンシャンにこんな風に話すのを見るのは初めてだった。言わずもがなこの態度は気に入らなかったが、黙っていることにした。他にどうしろと?哀れな雨雲は少し自分の置かれた状況を理解した。
「では知っておるのだな?」老雲が問いかけた。「今言ったようにこやつは生まれたばかりだ…僭越ながら聞こう、この新生雲は何の罪を犯した!」
「皮肉は勘弁してくれ…それと何度も言わせるな。」相手が答えた。「あんたは我々の町に雨雲を入れてしまった…まだしっかりと意識があるのか、このボケ老雲が!」
「なぜ直接彼に話しかけない?怖いのか?」
アンシャンバーダルは、負けず劣らず挑発的な態度ですかさず言い返した。二者の間には、明らかに緊張の糸が張りつめていた。主人公は出来ることなら絶対に関わりたくない、もめ事の渦中に巻き込まれてしまっていたのだ。
そして雨雲は、この状況にますます失望した。こんな扱いを受けるようなことを何かしただろうか?我々雨雲はペスト患者のように考えられているのだろうか?その答えはまだ分からなかったが、一つだけ分かったことがある…我々を上から見下ろし続けているこの存在の全てが憎い。
突然、周りの全ての埃を巻き上げながらソレが地面に降り立った。ようやく正々堂々と姿を現した…結局、ソレも間違いなく雲だった。とは言っても、明らかに他の雲とは違っていた。
まず、背がとても高い。2mはあるに違いない!そして、下半身は、葉っぱが織り込まれた皆と同じ服で覆われていたが、スカートのように腰回りまでしかなかった。なので、彼の盛り上がった筋肉を見ることが出来た。言うまでもなく、彼自身が、彼の放つオーラと同じくらい存在感を放っていた…
しかしながら、一番近くにいた雨雲を見て硬直してしまったのは彼の方だった。数秒間、彼はじっと動かず沈黙していた。瞳孔が2つの小さな種子のようにぎゅっと縮こまった。表情は翳り、衝撃を受けているようだ…
突然、主人公は自分の顔めがけ、真っすぐ強烈なげんこつが飛んでくるのを見た。瞬く間に一陣の風が彼を押し、その拍子に地面に転がってしまった。彼の前にバーダルが立っていた。老雲はその大立者の一突きを片手だけで止めていた。
「一体どうしたというのだ?」老雲は落ち着き払って尋ねた。
「あんたはこの俺様が怖がっているかと聞いたのか?」片方が何事もなかったかのような表情を取り戻しながら答えた。「こんなやつ、俺様なら瞬きする間に完璧に粉々にしてくれるわ。おい貴様、雨雲、起きろ!」
しかし、雨雲は起き上がることができなかった。地面で震えながら這いつくばったままだ。今何が起こったのか全く分からなかった。一瞬の出来事だった…唐突過ぎて事情が飲み込めず、白い巨雲に何を言われたのかさえ理解が追いつかなかった。
「起きろ!」叫びながら白雲は繰り返した。
そう言われて雨雲は起き上がった。無気力に次の言葉を待っていた。やっと現実世界に意識を戻せた時、次の質問を突きつけられた。
「貴様の名は?」
名前?こんな質問を投げかけられたのは初めてだった…そう、雨雲には名前がなかった!雨雲は冷や汗をかきはじめた。今、一体何と答えるべきだろう。でも名前を言わないと恐らく…おしまいだ!
「それで?」巨雲が意地の悪い笑みを浮かべながら言った。まるで雨雲の心を読んだかのようだった。「名前がないだなんて言わないでくれよ!」
彼が確信を持っていることは火を見るよりも明らかだった…若いこの主人公に新しい感情が芽生えた――このゴーレムのようなヤツをぶちのめしたい。そしたらもうその質問には答えなくていい!怒りが、制御できない程血管中を駆け巡り始めた。拳を握りしめたその時…
「こやつの名前はグレーイじゃ。」
グレーイ?その名は雨雲の脳内に長いこと響き渡った。完全に理解するのに数秒を要した。バーダルがわたしに名前を付けてくれた。予期せず、やっと名前を手に入れたのだ。不思議なことに、その名を聞いてから、心配や不安が消えていった…雨雲はグレーイになったのだ。
「グレーイ?」巨雲は眉を吊り上げながら言った。「なるほど…俺様はデュオルクだ。シウ大陸で一番大きな雲の町であるネフェリアの長で、軍隊の指揮官であり、理事会の会長でもある。貴様がここに何をしに来たのか知らないし、興味もない…なぜなら貴様は今すぐ来た場所へ帰るんだからな!」
彼はただの巨頭ではなかった、むしろそれ以上だった…デュオルク、ネフェリアの長!それが彼と我々の間に溝がある理由だった。もしグレーイがこの町に住みたいとなると、彼の承認を得ねばならない。それは骨折り損のように思われた。
「何を言っているんだ?」バーダルが聞いた。「言ったじゃろう、こやつは生まれたばかりだと。新しい雲なのじゃ!こやつには行く当てなどないのだ!ネフェリアにもホスピタリティがあった時期が…」
「正真正銘、あんたはバカになっちまったんだな。」と冷淡にデュオルクが話を遮った。「あんたは俺様が何を考えているのか分かってるし、あんたも目を覚ますといいんだがな。いずれにせよ、あんたが誰よりも一番よく分かっていることだろ!雨雲は災いと破壊をもたらす。こいつに教えてやらなかったのか!?この雲族は呪われてるんだ!」
「こやつは雲じゃ。」アンシャンが繰り返した。「こやつの一族だって我々と同じじゃ!」
「こいつらが我々と同じになることなど一生ない!」グレーイの方に顔を向ける前に町の長は叫んだ。「俺様はこの町の責任者だ。そしてこの町に住むものの安全を保障せねばならん!俺様が言ってることが貴様に理解できるか、グレーイ?それなら、今すぐ…ここから立ち去れ!」
「プライドの高いお前さんがわしらにそんな怯えた姿を見せるなんて思わなかったのお、デュオ。」バーダルが高慢な態度で言った。「評議会の皆を招集して決定させた方が賢いと思うがのお。それにこれは法で決まっておる。お前さんの一存で決めることは出来ぬよ。」
「ふん、そう思うか?」デュオルクが嘲笑った。「まあ、あんたが正しい。それどころか完全に正しい!感情に流されてしまったことは詫びよう…あんたが言った通り評議会を開催しよう。いつも通り3週間後に開かれる。その時までならここにいて良い。」
「ああ、それでこそ常識のあるお前さんじゃ。」安心してバーダルが言った。
「まだ終わっておらんぞ。」デュオルクが口を開いた。「あんたたちは町の外で寝泊りするんだ。思い違いでなければ、古い使ってない小屋を持ってるよな?」
「お前さんはわしを村の外に追いやると?」困惑して老雲が聞いた。
「まるであの頃みたいじゃないか?」町の長がせせら笑った。「これは俺様でなくあんたが選んだということを忘れるなよ。裁くまでは何があってもこの町に立ち入らせんからな!信じてるぞ、バーダル。俺様はあんたが法を守ることを知っている。討伐部隊を率いていたあんただからこれくらいのことはしてやる。ただ俺様は、あんたが二度も同じ過ちを犯さぬことを期待しておるぞ…」
この言葉を聞いた後、アンシャンバーダルはデュオルクに背を向け、睡蓮の方へと向かい始めた。すると、笑みが長の口元に広がった。まるで戦にでも勝ったかのように。
「なあバーダル、『グレーイ』の存在を知ってしまった今、あんたの愚かな言動の理由が分かったぞ。」最後にデュオルクは付け加えた。「あんたが腹の底で何を考えてるのか分かるぞ!これはお前だけの問題ではないことを思い出せ。そやつの種族が何をしたかを、片目で眠ることになった理由を思い出せ。」
「ああ、それ以上はもうよい、デュオ。」バーダルが答えた。「片目のわしでも何がネフェリアにとって良いか分かるわ…そして何が良くないかもな。」
バーダルとグレーイは再び歩き始めた。今回は反対の方向へと。
雨雲が思索にふける一方、奇妙な出会いが彼を待っている…