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ナーアヴェン~ある雨雲の物語~  作者: シャムローズ
第四章:グレーイの帰還
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~雲壌~

~~ NARUTO -ナルト- -大蛇丸のテーマ

 デュオルクが石を呑み込んだ瞬間、その姿は変貌を始めた。否、変貌などという生やさしい言葉では表現できない。まるで神話の怪物が現実世界に這い出てきたかのような、そんな姿への変容だった。


 体は膨れ上がり、血管は闇を纏ったかのように黒く太くなった。凶暴な咆哮を上げながら、その姿は刻一刻と変化を続けた。まるで永遠とも思える時間が過ぎ去った後、ようやくその恐ろしい変身劇に幕が下りた。


 デュオルクの姿は、もはやデュオルクとは呼べないものになっていた。全身を這い回る血管、倍近くに膨れ上がった体躯、異様なまでに肥大した筋肉。そのどれもが、かつての彼の面影を消し去っていた。そして眼球は漆黒に染まり、その瞳の奥底で、赤い光が妖しく揺らめいていた。そして、肩から背中にかけて広がる毛皮のような髪の毛…


 しかし、それらすべてを凌駕する恐怖がある。それは、デュオルクのジンだった。グレーイのジンなど、比較にすらならない。まるで蟻と象ほどの差があった。

 胸の穴が塞がり、水が止まった瞬間、グレーイの不安は頂点に達した。雲には臓器を再生させる能力はないのだ…


 『鬼』と化したデュオルクは、呼吸すら困難そうだった。咆哮の後の静寂は、まるで嵐の目のようだった。戦士たちは、恐怖に震えながらその姿を見つめていた。中には、恐怖のあまり逃げ出す雲もいた。残ったのはたった二つの雲。だが、それは勇気があったからではない。ただ、恐怖で足が動かなくなっただけだ。ウルナーも同様だった。


 そんな中、ムーフェだけが笑っていた。友が自らを犠牲にする姿に、感動したのだ。どんな代償を払っても町を守ろうとする姿。雲の歴史上、前代未聞の出来事だった。ネフェリアの長は、もはや住民とは似ても似つかぬ、新たな生き物と化していた。


 目の前で繰り広げられる長の怪物への変身劇を見ても、グレーイは怯まなかった。今までのことを思えば、ここで負けるわけにいかないことには変わりがない!


 その様子を見ながら、グレーイは右手に力を貯めていた。さあ、来い。先手必勝だ。デュオルクがこちらを振り向いた瞬間、グレーイは一瞬たりとも迷わず巨大なツの波を放った!


 爆発が全てを吹き飛ばし、厚い土煙が再び立ち昇った。しかし、その煙幕を引き裂くように、デュオルクが姿を現した。傷一つない姿で。


 そのままグレーイの頭を片手で掴み、もう片方の手で握りこぶしを作って顔面に叩き込んだ。息する間も与えずすかさず膝蹴り。そして、まるでおもちゃのように彼を回転させ、塔めがけて投げ飛ばした。灰色の雲は壁を貫通し、床を激しく横滑りし、塔の遥か後方で地面を転がった。


「グレーーーーーーーイ!!!」ウルナーの悲鳴が響き渡ったが、その声はグレーイの耳には届かなかった。


 グレーイが体を起こそうとする間も、デュオルクの攻撃は止まらない。デュオルクの拳が向かってきた。グレーイは、間一髪でそれを避けたが、さっきまで自分がいた場所の地面が大きくへこみ、砕けていた。デュオルクの速度は、その巨体に反して、驚異的なまでに上がっていた。


 ハルの石が、デュオルクの能力を桁違いに引き上げたのだ。


 デュオルクの攻撃は、まるで止まない雨のように続いた。グレーイは必死に避け続けた。もし一発でも喰らえば終わりだ。そうなる前に動かなければ。グレーイに残された道は今やたった一つ。一撃必殺、だ。


 グレーイは、デュオルクの猛攻を避けながら、力を集中させ始めた。今や避けるのは、呼吸をするよりも難しくなっていった。だが、数分後、ついに敵を倒すだけの力を掌中に収めた!


 この攻撃は、辺り一面を更地にしてしまうほどの威力を持っている。だからそれを一点に集める必要がある。針の先ほどの一点に。そうすればこの一撃で、デュオルクを倒せるかもしれない。いや、倒さなければならない。確実に頭は吹き飛ばせるだろう…とグレーイは頭の中でイメージした。


 こんな手段を取りたくはなかった。だが、もう選択の余地はない。


 デュオルクの大きな動きの中に隙があるのを見つけた。勝利の女神がこちらに微笑んだかのような、千載一遇のチャンスだ!


 グレーイは、その隙を逃さすまい、と後方に跳び、敵に向かって腕を伸ばした。しかし、攻撃を放とうとした瞬間、鬼のような見た目のデュオルクが、まるで瞬間移動したかのように接近し、頭をグレーイの手に頭を押し付けた。


 グレーイはよろめいた。この近距離で、あの量のツを放てば、自分も消滅してしまう。渋々攻撃を中止せざるを得なかった…


 その代わりに、グレーイは近距離での激しいヴァハの放電で、デュオルクを押し返した。デュオルクは少なくとも5メートルは後退し、グレーイ自身も反動で後方に弾かれた。


 この激しい放電の後、デュオルクは一瞬、彫像のように静止し、頭を空に向けた。そして、ゆっくりと頭を戻し、そしてまるで狂犬病にかかった犬のように激しく頭を振った。もちろん、この攻撃は全く効いていないようだ。さらに悪いことに、グレーイは苦労して集めた力を、まるで砂漠に水をまくように無駄にしてしまった。


 しかし、巨雲との一瞬の接触で、グレーイは何かを感じ取った…まるで太陽を素手で掴んだかのような焼ける感覚だ。


 疑いの余地はなかった。デュオルクは接近する直前、薄皮一枚ほどの薄いバリアを張っていたのだ。それは紛れもなく、アンシャンバーダルを地下牢に封じ込めた際に使われたのと同じものだ…


 つまり、この神秘的な力の源はハルの石だったのだ!


 今度はデュオルクの番だった。長の手の中に小さな黒い玉が現れた。その玉からは途方もない破壊力が溢れ出ていた。そして躊躇いなど微塵も見せず、デュオルクはグレーイめがけて、その恐るべきエネルギーの波を放った。


 それは空気でも水でもなかった…言うなれば、漆黒のレーザー。まるで暗闇そのものが襲いかかってきたのかと思うほどの、闇より濃い黒であった。


 グレーイは、まるで死神の鎌から逃れるかのように、咄嗟に空中へ飛び上がった。そして、彼の目に恐ろしい光景が飛び込んできた。


 デュオルクの攻撃は、まさに神の怒りのごとく、全ての物質を文字通り消し去っていた。その神秘的な黒い流れに触れたものは、まるで存在そのものを否定されたかのように、跡形もなく消え去った。ほこりすら、破片すら残さない。地面には、まるで世界を二分するかのような巨大な直線が刻まれていた。


 グレーイは咄嗟に空中に飛び上がり、辛うじて回避した。下を見ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。デュオルクの攻撃は文字通り全ての物質を消し去っていた。その摩訶不思議な黒い流れに触れたものは跡形もなく消え去っていた。ほこりも破片も残さず…地面には、その攻撃の跡である、巨大な直線が刻まれていた。


 もし、この攻撃が当たっていたら…考えるだけで背筋が凍る。

 その時、デュオルクはその力の使い方を完全に理解した。その瞳に慈悲も容赦も浮かんでいない。この巨雲が宿すのは、グレーイを今度こそ完全に消し去る、という強い意志だけだ。


  グレーイの視線の先で、デュオルクはゆっくりと、奇妙な手の動きで何かをし始めた。何かを書いているようだ…手を一度動かす毎に、空中に大きな黒い立方体が作り上げられていった。そしてそれは、グレーイを取り囲むように着実に形を成していった…


 完全に閉じ込められる前に、グレーイは残り少ない体力を振り絞り、ヴァハの力を使って全力で後方へ飛び退いた。そしてそのままぐったりと地面に大地に転がった。


 デュオルクの手によって完成した黒い立方体は、中身も宇宙の様に真っ黒であった。そして何の前触れもなくそれは爆発した。まるで日本の剣の切先がぶつかり合うような、耳を貫く鋭い音が空間を切り裂いた。もし、グレーイがその立方体の内部に取り残されていたなら…まるで初めからグレーイなんて雨雲はこの世にいなかったかのように、跡形もなく消え去っていただろう。


 グレーイはもう立つことすら出来なかった。もう体力は限界に達していた。だが、不幸なことに、戦いはまだ終わっていない!

 それでもなんとか立ち上がろうとする最中、不気味な影が彼の上に覆いかぶさった。デュオルクの巨大な影だ。デュオルクはその手に黒く煙る長剣を振りかざし、グレーイの頭にその刃を突き刺そうとしていた!


 こんな力恐ろしい力が、ハルの石に宿っていたなんて…ああ、この感覚は久しぶりだ…もっとも嫌いな感情が体中を駆け巡っている。「恐怖」だ。


 まるで水面に跳ねる石のように、グレーイは跳ねるように後退した。しかし同時に、デュオルクの剣が大地に叩きつけられた。その衝撃で地面が割けた。しかし、今回割けたのは地面だけではなかった。


 その瞬間、鋭い痛みがグレーイの身体を貫いた。剣先が、顔と胴体を深く切り裂いたのだ。額から顎へ、そして胸から脇腹へと続く、長く斜めの傷跡。そこからは、水と蒸気が流れ始めていた。


 グレーイが感じたその痛みは、これまでに感じたどんな痛みとも異なっていた。数秒後、最初のチクチクとした感覚はさらに悪化し、痛みは百倍にも酷くなった。雨雲はその場に崩れ落ち、顔を覆ったまま痛みに悶え絶叫した。


 まるでその傷口が顔全体を焼き尽くしているかのような錯覚に陥った。生涯消えることのない傷を負ってしまった。耐えがたい激痛に抗おうと唸り続けるグレーイを見て、デュオルクはしゃがれた笑い声をあげながら雨雲に向かって歩み寄っていった。


 誰も気づかぬ間に、空の遠くの方から一羽の巨大なフクロウが、まるで矢のごとくグレーイに向かって突進していた。背にはアプルを乗せている。グレーイが苦境に置かれていることを察知し、救援に来たのだ。


 ザグニは後方に留まり、ネフェリアの戦士たちを引きつけていた。実はこの役目を嬉々として受け入れていた…


 その間、デュオルクが静かに歩みを進める中、ムーフェは勝利を確信しほくそ笑んでいた。ウルナーはグレーイの惨状を目の当たりにし叫び続けていた。立ち上がって、お願い!でもその声はグレーイには届いていなかった。意識が混濁し、目の前に命を奪おうと立つデュオルクの存在すら、気づかなかった。

 デュオルクがその黒い剣をグレーイの心臓に突き立てようとしたその瞬間、ウルナーは目を閉じ、絶叫しながら勇敢にも彼に向かって駆け出した。


 その光景を目にしたパリとアプルも声を上げた。しかし、いくらフクロウの飛行速度が驚異的であっても、自分たちがこの危機的状況からグレーイを救うには、まだ距離があり過ぎる…!


 グレーイの最期が迫り、アプルの体は全身石のように硬直し、全身が黄色に染まった。まるで魂が抜け落ちたかのように、終わりの鐘が鳴ったかのように。


 そしてついに、デュオルクの剣が、グレーイの心臓めがけて一直線に振り下ろされた。


 剣身がその身を貫く。


 鈍い音が辺りに響き渡る。


 水が四方八方にしぶきとなり飛び散った。まるで岩が海に落ちたかのように。


 その水がグレーイの顔に勢いよくかかり、その衝撃で意識を取り戻した。ふと顔を上げると、そこに見えたのはデュオルクの黒い剣に貫かれた背中だった。痩せこけ、ネフェリアの住民が着る服をまとった背中…


 何が起きたのか理解するまで、永遠とも思える数秒が続いた。しかし、次第に残酷な現実がめりめりと音を立てて脳内に入り込んできた。混乱し切った雨雲の目の前にいたのは、紛れもなくアンシャンバーダルだった。灰色の雲を守ろうと、デュオルクの剣に貫かれた姿の、師匠だった。


 再び、守られてしまったのか…


挿絵(By みてみん)

バーダルは、本能的に愛弟子を救うために身を挺した。

ショックでグレーイは動けないまま立ち尽くしている。

本当に使命を果たせずに終わってしまうのだろうか?

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― 新着の感想 ―
圧倒的な変身描写と絶望感…!デュオルクの鬼化、黒いバリアとレーザー、そしてグレーイの絶体絶命。読んでる間、息が詰まるほど緊張感がすごかったです。ラストのアンシャンバーダルの盾シーンには思わず涙…。次は…
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