~羊雲~
~~ ドラゴンボールZ- Mind Power …気…
予定通りウルナーは、バーダルの小屋の近くに、頼んだもの一式を置いていってくれた。甦りの水のお陰で、一行はすっかり元気を取り戻した。アグニズは、周囲が焦げた匂いと、バリバリと木を食べる音に吐き気を催していることも知らず、熱々のシチューを味わっていた。
ウルナーは一行に、ちょっとサプライズも用意してくれていた。りんごのタルトだ!グレーイの裁判の前日に、ヌベが用意してくれたのと同じものだ。嫌な思い出も蘇ってきたが、それでもタルトは最高に美味しかった。パリでさえ一切れペロッと食べたほどだ。
「アプル、あんたって美味しいのね!」とパリが笑いながら言った。「こんなに美味しいって知っていたら、とっくにあんたのこと食べちゃってたのに!」
その言葉にグレーイたちはデザートを囲んでしばらく笑い続けた。こんな風に心も体も回復したのは、いつぶりだろうか。
決戦の時まで、あと1日ある。
やろうとしていることは、至って単純な陽動作戦だ。まずアグニズが、真夜中に真正面から町を攻撃する。つまり、軍隊と大砲を一手に担うのだ。アプルはその戦いの背後に待機する。アグニズに何かあった時に、救い出してもらう役割だ。
石炭には長い間戦ってもらわねばならない。なぜならその間に、グレーイとパリがバーダルを助け出しに行くからだ。町に精霊の力で姿を消して入り、アグニズが襲撃を開始するのを待って、地下牢への入口にいる見張りの気を失わせる。バリアを壊してバーダルを救い、出来るだけ早く町から出る!
牢屋から出るのが一番の正念場になりそうだ。バリアを破壊する為に力を使ったら見つかってしまうだろうし、そうすれば、アグニズが抑えてくれている雲の軍隊が、作戦を理解してしまう。全てはネフェリアの戦士の技量にかかっていた…みんな経験の浅い若い戦士だ。大丈夫だと主人公たちは確信していた。
過剰なまでに…
そして、最後の休息日だと思ったあくる日、朝日が最初に引き連れてきたのは、些細で、けれど全てをひっくり返すようなものだった。
美味しい食事に舌つづみを打ち、幸せな満腹状態のまま、グレーイたちは次々と眠りについた。隠れることもなく、無防備なまま…今夜の見張りはアグニズの役目だったが、アグニズを信頼することは、まさに火遊びだった…
みんなが深い眠りについている時、どこからか喧噪が聞こえてきた。叫び声だ。そう、叫んでいるような…助けを求めるような声だ。その声で、パリが最初に目を覚ました。そして目を覚ました瞬間、自分たちがしてしまった愚かな過ちに気付いて、ハッと息をのんだ。
ここまでは誰も来ないと、どうして信じていた?アグニズが真剣に見張りをしてくれてるとでも?ああ…この気の緩み、怠惰と無防備、何よりもゾッとするほどの自惚れと、傲慢さ…これら全部が、今、牙をむこうとしている。
パリは山の上方に、飛んでいる雲の一群を見つけた。物凄い速さで、ネフェリアの町の方に逃げている。大きなフクロウは止まっていた木から降り、みんなを起こそうと、耳をつんざくほどの叫び声を上げた。
アグニズが再び寝ようとしているので、パリはその頭を引っ掴んで、空中に投げ飛ばした。グレーイとアプルは、ゆっくりと地面に落ちてくるアグニズの様子を、混乱した様子で見ていた。
「アタシたち、なんてバカだったのかしら!!!」とフクロウが唸った。「見つかっちゃった!あそこ見て!ほら!何日も前からここにいるのに、よりによって今日見つかるなんて…昨晩のうちに行動を起こしておくべきだった!また神にしてやられた、ってわけね!」
確かに空には、ネフェリアに向かって狂ったように飛んでいく雲たちが見える…潜入作戦は行動する前に失敗してしまった…しかしグレーイの表情は諦めていなかった。そして一言こう言った。
「友よ、みんなごめん。」
そして突然、ネフェリアに向かって飛び立ち、雲の一群を追い始めた。グレーイにとっては戦いは今、始まったのだ。
パリは答えることも出来なかった。パリの知る限り、グレーイが「友」なんて言葉を使うのは初めての出来事だった。それに面食らい、ただ静かに、遠ざかっていく雨雲を見ることしか出来なかった。
アグニズもまた、厳めしい顔でグレーイを見つめていた。突然頭の炎が大きくなり、例によって肩まで燃え広がった。
パリは狼狽えた。グレーイを手助けする為に、また新しい策を練らないと…グレーイはネフェリアと立ち向かうために、独りで行ってしまった…例え複数で行っても、正面突破はリスクを伴うというのに。
もちろん石炭は違う意見だった。パリが何か言うのを待たず、静かにこう言った。
「初めてあのクソ雨雲と意見が合ったな…」
ザグニが姿を表した。
そしてまるでロケットのように飛び、グレーイの後を追いかけた。パリはため息を吐いた。賽は投げられてしまった。もうやるしかない。背中にアプルを乗せ、雲の町へと飛び立った。
ネフェリアの城壁からさほど遠くないところで、グレーイとアグニズが数メートル前にいるのを発見した。空中で静かに止まり、何かを言い合っている。2エルムは、全速力で近付くパリとアプルに目を向けた。グレーイの目は揺るぎない決意で満ちていた。
そして、何も言わずにグレーイはネフェリアの町へ猛進した。
当然、雲の群れは既に城壁の中だ。門を通過する際に、雲たちは警備兵に対し、迫り来る危険に備え、町を守るように叫んでいた。「灰色の雲が帰って来たぞ!」と。
そのため、グレーイが到着した時には、既に全ての大砲がグレーイに向けられていた。戦士たちはすぐに発砲を開始した。驚いたことに、これらの大砲は雲の力を帯びており、一発ごとに強力なツを放っていた。
グレーイは不意を突かれたが、幸運なことに今やヴァハをほぼ完璧に操れるようになっていたので、初弾全てを避けることができた。しかし、第二波が一秒も経たないうちに襲いかかってきた。
雨雲はこんな攻撃をされるとは思ってもみなかった…今攻撃を一発交わしたばかりだが、自分の近くにもう一発攻撃派が来ていることにハッと気が付いた。
今回はもう逃げられない。そんな時間がない。一瞬で腕を伸ばし、手で攻撃を止めようとした。しかし腕一本分の力で止められる代物ではないことは、グレーイもよく分かっていた。
攻撃が届く直前、グレーイはツを放った。その波が目にも留まらぬ速さで飛んでいき、空を裂くような爆発が起こった。その爆風でグレーイは、城壁からかなり離れた地面に吹き飛ばされたが、見事な反射神経のお陰で無傷で済んだ。
しかし攻撃の手は、グレーイが立ち上がるのを待ってはくれなかった。
グレーイは完全に不意を突かれた。今のグレーイにならこの攻撃を避けたり、身を守ったりすることは容易だったが、なぜか足が動かなかった。こんなにも展開が早いとは思っていなかった上に、大砲がこんなに危険なものだとも思っていなかった…
軍隊の攻撃力は並外れている。雨雲はネフェリアの力を明らかに過小評価していた。侵入は思った以上に困難だったのだ!
土壇場になってパリが目の前に現れた。精霊を召喚し、素早く周囲にバリアを張り巡らせてくれた。
ツはその巨大な盾に激突し、その衝撃波でパリとグレーイはまるで風船のように弾き飛ばされた。これがネフェリアの大砲の威力というわけか!
「あんた、いつになったらバカ卒業すんのよ!?」とパリが立ち上がりながら言った。「急いでバーダルを助けに行って!後はアタシたちに任せて!早く行けこのアホンダラ!」
グレーイがそれに答える間も与えず、メンフクロウは空へと高く舞い上がり、鋭い鳴き声を上げた。その獰猛な叫び声に驚いて青ざめ、戦士たちは数秒間足を止めた。
その時、ザグニがパリに追いついた。空中でパリの隣に並び、見えない重りを持ち上げるように両拳を肩まで持ち上げ、そして、轟々たる戦闘の咆哮を上げた。巨大な炎がザグニを包み、体の周りを旋回した。戦う準備が整ったようだ。
新たな敵の登場にネフェリアの戦士たちはパニックに陥った。そして直ちに大砲を敵へと向けた。メンフクロウは変身する暇もなく、パリとザグニは二手に分かれ、空中でジグザグに動きながら、攻撃とツの爆発を避けた。
「ザグニ!」白の貴婦人が呼びかけた。「アタシはこの動物の形を保つわ。アイツら、アタシのこと怖いみたいで、アタシをマークしてる。アタシが引き付けておくから、あんた、その隙に攻撃して!」
「俺に指図するんじゃねぇ、この小鳥め!」
まるで子供のゲームのように思えるが、実際はそうではなかった!
グレーイはそんな仲間の様子を見て一瞬微笑み、そして全速力で町へと飛んだ。雲の戦士たちはどうすることもできなかった…ザグニがお決まりのアーティシュの球を投げつけ始めていた。その攻撃に対抗している隙に、灰色の雲が侵入するのを許してしまったのだ。
戦士たちはグレーイが頭上を通り過ぎ、ネフェリアの塔に向かって真っ直ぐ進むのを一瞬だけ見た。
その戦場から少し離れた木の一番高い枝に、アプルはいた。パリがここに降ろしたのだ。そして祈っていた。誰に祈りを捧げているのかは、自身にも分からなかったが、大切な友達たち、特に今は離れたところに行ってしまったグレーイに、悄然としながらも、心の底から祈っていた。
「あなたが神であろうと、他の誰かであろうと、お願いします。私のお願いを聞いてください。私の友達をお守りください。そして、私の元に無事に帰って来れるよう、ご加護を…」
グレーイが遂にネフェリアに帰還した!
町の反対側で、デュオルクは近付いてくる雨雲のジンを感じ取っていた…




