~邂逅~
~~ ドロロ - Junikishin (Twelve Demons)
グレーイは、底なしの海に沈んでいく感覚の渦の中にいた。夢もなく、視覚もなく、音もない。あるのは、虚無に飲み込まれていく感覚だけ。ニヴォーラが話していた邪悪な霊に、命を取られてしまったのだろうか?とにかく、この感覚は決して心地よいものではなかった。体が完全に麻痺していて、何か強力な力が動きを封じているかのようだった。
突然、目が開いた。パニックになり、ゼーハーと息を切らしながら起き上がった。まだ洞窟の中にいるようだったが、傾斜がない。雨雲は巨大な洞窟の真ん中にいた。果たしてここは同じ洞窟なのだろうか?突然、グレーイは背後に何かの存在を感じた…でもこれは、仲間のジンではない!
振り返ると、手に火のついた松明を持っている、何か大きなものの陰が見えた。それはアプルが持っているはずの松明だ!
グレーイは、それが一体何なのか、はっきりと見分けることができなかった。確かなのは、ソレが非常に大きいということだった。白い筋肉が松明の火に照らされ、輝いていた。ツイていないことに、洞窟の作り出す暗がりに隠れ、その顔が見えないのだ。だが、ソレが発するジンを、なぜか知っている気がする…
「そこにいるのは誰だ!?」とグレーイが叫んだ。
洞窟に笑い声が響く。とても特徴的な声だ…グレーイは、この声を知っている…悪夢の続きを見ているのか?いや、今回は現実だ!
「灰色の雲よ、俺様のことをよもやもう、忘れたわけではあるまい?」
ヤツだ。この声、この白い肌、この巨大な体。疑いの余地もない。そう、ヤツだ、雲の町の長、デュオルク!
「いや、そんなことありえない」とグレーイは何度も思った。ここ、ベール大陸の真ん中にある、ネフェリアから何千キロも離れた洞窟にいるなんて、そんなことあり得るはずがない!
グレーイは何も言わなかった。信じられなかった。突然、謎のソレが松明に顔を近づけた。光に照らされ浮かび上がった顔は、グレーイが決して忘れることのできない顔だった…数ヶ月前に、グレーイをネフェリアの地下に幽閉しようとし、罵り、屈辱を与えた雲本人だ。
だが…どうしてここにいるんだ?
「おい、寝てんのか?」とデュオルクが尋ねた。
「お前なのか!?ここで何してる!?俺の仲間はどこだ!?」
雨雲はパニックに陥っていた。こんな状況に出くわすなんて、全く予期していなかった。最悪の敵が突然眼前に現れ、うろたえた。頭のてっぺんから爪の先までガクガクと震えた。だが、逃げ出すつもりは、ない!
「ヤツらがどこにいるかなぞ、知る必要はない。」と雲の長は答えた。「今ここにいるのはお前と俺様だけ。邪魔者は誰もいない。」
「お前!!!ここで何をやってる!?答えろクソったれが!」
声が枯れる勢いでグレーイはどなったが、デュオルクは微笑んでいる。雨雲の言葉が響き渡る前に、デュオルクは何かを投げつけた…それが地面に落ちると、奇妙な割れる音がした。グレーイはそれを見たが、それが何なのかわからなかった…いや、もしかしたら理解したくなかったのかもしれない。
「これが答えだ!」とデュオルクが吠えた。
それは、アンシャンバーダルの頭だった。
グレーイはその場に凍り付いた。手足の先から血が固まっていき、どんどん体中が動かなくなる思いがした。強烈な寒気と眩暈、そして生まれて初めての、強烈な不快感。自分の顔を隠すように手で覆った。胸が少しずつ締め付けられるのを感じる。そして突然、嘔吐した。神の園での悪夢が、再び襲ってきているかのようだった…
いや、それよりもっと残酷だ!
「なんと!」とデュオルクが嘲笑った。「どうした? こんなことで参ってしまうのか?俺様を失望させるなよ。まあ、少し話をしてやろう。お前を慕っていた小娘、ウルナー…あのチビがお前を探しに出かけた。ほどなくしてソイツの死体が見つかった。だから、俺様は正義を執行する必要があった。誰かが罪を償う必要があった、分かるか?だが、お前はそこにいなかった…」
グレーイの耳には、デュオルクの話が全く入っていかなかった。バーダルの顔を見るのに苦しんでいた。暗闇の中でも、水滴が垂れ、口を開け、白目を剥いたその顔がはっきりと見えた…
再びグレーイは失敗したのだ。白い大雲は、恍惚と独り語りを続けるが、グレーイの心は痛みと怒りに沈んでいった。『失敗、出来損ない、失敗、出来損ない…』この言葉が頭の中を巡り続けた。唯一掲げた目標だったのに、それすら達成できなかった。
しかし、グレーイは考えを改めた。ここで諦めるなんて自分らしくない。悪いのは俺ではなくむしろ、この「下劣な馬鹿野郎」じゃないか!と思い始めた。こいつが殺したのだ、こいつこそ全ての元凶だ!生まれた時からずっと、デュオルクが全ての苦しみの中心だった。今回は絶対にこいつを逃がすわけにはいかない。
一瞬のうちに状況は逆転した。グレーイはデュオルクの顔を押さえつけ、その体を壁に叩き込んだ。更に力を込めてめり込ませ、そして手を離した。それはこの憎い大雲の顔面に、容赦ないパンチを食らわすためだった。その衝撃で、数秒間音が鳴り響いた。
もう一撃がデュオルクの方頬に打ち込まれた。さらにもう一撃、そしてもう一撃…何度も何度も繰り返し打ち込まれるパンチは、まるで嵐のように巨人に襲い掛かった…その一撃一撃にはヴァハが込められており、激しい音は外にまで聞こえるほどだった。
顔が傷だらけでぐちゃぐちゃになったデュオルクは、膝をついた。しかし、まだ終わりではなかった。グレーイはデュオルクを持ち上げ、潰すように再び壁に押し付けた。雨雲は殺意に満ちた表情を浮かべ、怒りと制御不能さで歯を鳴らしていた。
因縁の相手と決着をつける直前に、グレーイの目は奇妙に輝き、口元には不気味な笑みが浮かんだ。普段のグレーイからは考えられない残忍さだ。グレーイは自分を失っていた。
「バーダルを殺したのは俺様ではない!」まだ話す力の残っていたデュオルクが吠えた。「お前が殺したんだ、グレーイ!お前だ!!全ての不幸は、お前の惨めな存在の結果だ!この呪いはお前がくたばるまで続くぞ!!!」
グレーイの感情はぐちゃぐちゃで、動転し、理解力を失っていた。自分はいったい何をしているんだ?本当にこいつの命を終わらせるのか?それは本当にすべきことなのか?それが本当に解決策なのか?
「やれ、グレーイ、俺様を殺してみろ!!」とネフェリアの長は雷鳴のような声で、まるで心を読んだかのように叫んだ。「俺様はただの犠牲者に過ぎない!殺し、破壊し、呪い、そして世界を蝕む…それが、お前の存在理由であり、神がお前を作った理由だ!」
そして笑った。高々と笑った。その大きな笑い声がグレーイの心に響き渡り、思考を乱し始めた。目からは涙がこぼれ始めた。グレーイの敵はもはやデュオルクではなく、自分自身だった。「どうして?」と哀れな雨雲は自問自答した。
「くそったれなデュオルク…くそったれな神…くそったれな旅、くそったれなこのエルム生!まとめて地獄に落ちてしまえ!!!!!!!!」
こうしてグレーイは拳を握りしめ、怒り狂って誰も制御できない獣のように、叫び声をあげた。その叫び声は、洞窟全体を震わすほどだった…
突然、灰色の雲が獣のように叫び続ける中、奇妙なぼやっとした光が天井を裂くのが見えた。洞窟全体が光に包まれた。次に、低く唸るような音が聞こえ、その後に叫び声が続いた。その叫び声は普通のものではなかった。それはエルムの叫び声ではなく、まるでモンスターのもののようだった…
全てが白くなった。グレーイは気を失い、再び無意識の中に落ちた。
全ての事件は絡み合っているが、全く意味を成していない…
この洞窟の中で、一体何が起こっているんだ?




