表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/51

~醜貌~

~~ゼルダの伝説 : ムジュラの仮面3D - Stone Tower Temple Theme

 長い旅が始まった。ベール大陸のあちこちを巡り、沼地をいくつも見つけた。だが、そのどれもが目的の場所ではなかった。ディオネの村を出発してから、7か月。数々の冒険をくぐり抜けたが、そのどれもが空振りだった。つまり、今のところ、成果なし、だ。しかし、悪いことばかりではない。冒険を通して、新しい絆が彼らの間に生まれていた。


 言わずもがな、グレーイとアグニズを除いて、だが。時間が経てば受け入れられるかと思いきや、そうでもなかった。未だにグレーイは、火のエルムの存在を真に受け入れることができずにいた。完敗した記憶を払拭できないばかりか、アルドン帝国とアグニズを同一視していたのだ。


 こうして、本人も気づかぬうちに、彼は自分がネフェリアで受けた差別を、無意識のうちに繰り返していたのだった。



 アプルは飛べないので、パリの背に乗って旅をしていた。この組み合わせが、いつしか最も親しくなった。この1羽と1エルムはいつも一緒で、しかも共通の趣味まで見つけていた。植物だ。時には、ただ静かに何時間も自然の中で過ごすこともあった。とりわけ、広大な花畑がお気に入りだった。


 風に揺れる花々、優しく香る大地。そうした静かで穏やかな瞬間は、他の2エルムと共に過ごす時間とは、あまりにも対照的だった…


 この7か月の間に、グレーイは飛躍的に成長した。最高の雲のエルムと比べても、遜色なく飛べるほどに。厳しい鍛錬続け、時には真夜中に姿を消すこともあった。そういう時は、何キロも先まで飛び、そこで瞑想や、バーダルから習った戦闘の訓練をしているのだ。師の言葉は、今も鮮明に残っている。


「わしはお前さんに戦闘技術の基本は教えた。だがよいか、強くなりたければ忘れるな。外面より内面を鍛えるのだ。自己を律し創造的であれ。忍耐強くこの道を進めば、お前は無敵になる!」


 パリはグレーイに、拒否されると分かってはいても『アグニズと一緒にトレーニングしたらどうか』と提案した。結局、グレーイは独りでも急速に成長した。瞑想すればするほど、ミナモト、原初の要素を近くに感じるようになり、その能力は増していった。


 しかし、グレーイは本当に雲の都に戻り、ドゥオルクと対峙する準備ができているのだろうか?雨雲自身はそう確信していた。だがその前に、あの不思議な石を見つけなければならない。


 この冒険は終わりが見えず、しかも風景はどれも似通っていた。まるで、同じ場所をぐるぐる回っているかのようだった。さらに悪いことに、カザンはベール大陸の北部を支配し、今や西部を包囲していた。 旅は日に日に困難を増していた。パリの能力がなければ、道をとっくに閉ざされていただろう。



 それでもグレーイは、生命力溢れる、色鮮やかなこの大陸の上を飛ぶのが大好きだった。その色は、季節とともに変わり続けた。そこにはすべての香りがあった。ラベンダーの香りがお気に入りだ。


 灰色の雲は、何度も花畑の中で眠りに落ちた。実を言うと最初は、アプルに近づくために、花を好むふりをしていただけだったのだけど。



 こうして、グレーイは旅を楽しんでいた…だからといって、いつ終わるか分からないこの旅そのものを好いていたわけではない。村々、宿屋、そして他の旅行者が道を教えてくれ、運が良ければ、地図を手に入れられた。それから、恐ろしい沼地を、何時間も何時間もかけて調べた…結局徒労で終わるのだが。それでまた振り出しに戻る、ってわけだ。


 雨雲はイライラし始めた。アンシャンバーダルを見捨てているような気がしていた。不安な気持ちは日増しに膨らんでいた。しかし、パリは断言した。アグニズの助けなしでは、ネフェリア相手には勝てない、と。彼らは取引の中の、自分たちの役割を果たさなければならなかった。それも、早急に。


 だが、一体どこに『くそ石っころ』(とザグニがたまにそう呼んでいる)があるというんだ!?


 ある日。その日もまた沼地を訪れていた。でもその沼地は、今まで見たどんな沼地よりもおどろおどろしく、どこまでも陰鬱だった。木がありとあらゆる方向に生え、顔の上にアメーバが張り付いているかのように、重たい湿気で満ちていた。そして極め付きは…今の季節が秋だということだ!更に足を踏み入れたくない場所になっている…


 数時間の捜索の後、彼らが見つけたものといえば、大量の枝、枯れ葉、そして、くるぶしまで浸かる、湿ってどろどろしている土だけだった。


 しかし、逢魔が時を迎えた頃、アプルが突然叫び声を上げて仲間たちを呼び寄せた。彼女がそんなことをするのは珍しい。全員が駆けつけると、皆が驚愕する光景が待っていた。


 沼地を囲む大きな山々の一つの後ろに、パックリと穴が開いている。そう、本物の洞窟だ!!!


 その洞窟は、沼地の10倍気味が悪く、奥が見えないほど深かった。誰か、もしくはナニかが掘ったように見える。地面は滑らかで、道は全員が横に並んで歩けるほど広く、真っすぐ直線に伸びていて、かなりゆとりがある…


 アプルは仲間に、入口の壁に掘られた奇妙な壁画を見せた。アグニズが手を松明の形にし、それを照らした。それは不気味な線で描かれた、奇形の怪物のような顔だった。


「なんだこの下手くそな絵!!!」とアグニズが叫んだ。


 まるでこれは…ドラゴン…じゃないか。


 横顔が描かれており、そこに大きな目、長い顔、そしてサーベルタイガーを彷彿とさせる長い歯が見て取れる。背筋が凍るような光景だ…残りの彫刻はとても抽象的で、時間の経過で消えかかっていた。


 この顔…これこそがニヴォーラが話していたものに違いない!この壁画こそ、ニヴォーラに中に入るのを思いとどまらせたものだ!妹は入ってしまったのだが…


「最初はね、独りで入ろうと思ったの。」アプルが微笑みながら言った。「でもこれを見た後…やっぱりみんなを呼ぼう、って思って!」


「賢明な判断ね。」パリが答えた。


「心配するな!」アグニズが叫んだ。「今から俺が君を守ってやる!」


 また指を噛んでいたグレーイは、噛むのをやめて火のエルムを意地の悪い目つきで睨んだ。


「だけど、中からするこの臭いはなんだ!?」鼻をつまみながらアグニズが不満をもらした。「めまいがしそうだ!」


「お前のことを置いていってもいいんだぞ!」グレーイが吐き捨てた。


 ザグニが表に出てくるのはそれだけで十分だった。この傲慢で怒りっぽい火のエルムの一面は、頻繁に現れるようになっていた。主な原因はグレーイによる、繰り返される挑発だ。


「そうか?」ザグニが答えた。「だけどここに来るまで、てめぇ、大したことしてねぇよな?俺間違ったこと言ってるか?雨雲よぉ!」


「次の言葉に気を付けろ。さもないとたき火どころじゃ済まさないぞ。」


「待ってくれよ、ちょっと思い出させてくれ。」石炭が嘲った。「えっと…なす術もなく俺にコテンパンにやられて、パリの背中で古い糞のように意識を失ってた、哀れな愚か者はどこの誰だっけ?」


 煙のようなグレーイの髪の毛がユラユラと揺れた。ザグニの方に進んだが、アプルに止められた。この光景はすっかり日常茶飯事だ。パリは止めようともしない。りんごのエルムに全て任せている。なぜならグレーイはアプルの言うことは必ず聞くので、その方が簡単だからだ。


「コイツを守ろうってんだろ、アプル。」ザグニが続けた。「でもよ、こいつが吹っ掛けてきた喧嘩だぜ。こいつ自身が自分で何とかしなきゃなんねぇんだ!神よりも自分の方が上だと思ってんのは、こいつなんだからよぉ!」


「聞く耳を持っちゃダメよ、グレーイ。お願い。」とアプルが囁いた。


 数秒間石炭のエルムをじっと見た後、顔をそむけた。どちらにせよ、今はこんなことで言い争ってる時ではない。


「ここには蛙も、鳥も、他の動物もいない。」パリが気付いた。「草は枯れ、木の葉は落ちてる…」


「秋だからじゃないか?」とグレーイが言った。


「それだけじゃない。」白の貴婦人が返した。「空気は薄いし、木々たちは元気がない。全て同時に倒れ始めてるみたいに見える。まるで全部の木が一斉に病気にかかったみたい…しかも、今日始まったことじゃない。この臭いからすると、かなり前からこの状態なのよ。だから、秋のせいじゃないわね。」


「怖がらせるなよ…」とアグニズがしかめっ面で言った。


 石炭のエルムは普段の調子に戻っていた。みんな、この突然の「交代」にはとっくに慣れ、アグニズとザグニの見分けもつくようになっていた。


「なんにせよ、あんたはここに残った方がいいわね。ニヴォーラと妹の話、覚えてる?中で何が起こるか分からないし、何かあった時の為に誰かは外で待っていた方がいい…一番強いエルムが。」


 アグニズは、滅多に浮かべないような大きな笑顔を浮かべ、グレーイの方は、怒りで暗くなった。しかし、それが事実だということもよく分かっていた。


 アプルは長い木の棒を取ってきて、その半分にナミアを浸み込ませた。それにアグニズが火をつけたが、燃え広がることはなかった。松明の出来上がりだ。


 アグニズを残し、一行はすぐに洞窟の中へと入っていった。中に入ると、地面は盛り上がり、山の奥深くへと続いていることが分かった。自分たちの足音以外、一切の物音もしない。時々、ヒューっと風が不気味な音を奏でながら通り抜けるだけだ。外の沼地と同じく、生き物の気配は全くない。


 その時、ニヴォーラの言葉が冒険者の脳内に一斉に浮かんだ。『石があるはずのない場所』、『狭くて不気味な場所』、そして『恐ろしいナニカの気配』!!!


 そのナニカの気配をみんな感じ始めていた。ここで生きているナニカが必ずいる。何か言う前に、グレーイは頭蓋骨に激しい衝撃を感じた。痛みが全身を駆け抜け、すぐに体が麻痺状態になった。よろけ、地面に倒れ、硬直した。


一体何が起こったのか、グレーイはすぐに知ることになる。

古い知り合いが彼を待っている…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
グレーイの未熟さがいよいよ剥き出しになってきましたが。アプルへの下心も。彼が今後、どのように成長していくのか。子供っぽさがきちんと抜けていくのか。とても楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ