~傑出~
♪ BGM : NARUTO -ナルト- - サクラのテーマ
朝日は十分すぎるほど登り、昼の太陽に移りつつあるというのに我々の主人公たちは、まだぐっすりと眠っていた。ニヴォーラがスラゼに『肥料と果物を外から取ってきて、それからグレーイとアグニズを連れてきて。』とお願いした。スラゼは嫌そうな顔をし渋ったが、結局は了承した。寝室へ入るとそこにはアグニズが独りぼっちで寝ていた。スラゼは起こそうと乱暴に揺すった。
「おい、起きろ火のエルム!雲はどこに行った!?」と叫んだ。
石炭のエルムはピクリともしなかった。まるで関節のない操り人形の如く、されるがままにグニャグニャと揺すられている。スラゼは、アグニズが死んでいるのではと疑った。息をしているか確かめる為にそっと近付いたところで、アグニズが目を開けた。アグニズは巨大な緑のエルムと、大きくて尖った歯を目の前に見て、驚いて激しく飛び上がり、哀れなスラゼの頭に酷い一撃をくらわせてしまった。
スラゼは鼻から痛みが顔中にジーンと広がるのを感じた。今度という今度はもう怒った!アグニズをキッと睨みつけると…なんと驚いたことにまた寝ている。
「あぁ!」スラゼはうめいた。「神よ、どうぞ我にご加護を!なぜ俺はあんな野蛮なヤツらを家にあげてしまったんだ!?」
その叫び声を聞いて、アグニズがもう一度目覚めた。あくびをしながら上体を起こしうーん、と足を伸ばした後、両肘だけ床に付け、半分だけ体を起こしたような格好でスラゼを睨みつけた。
「おい、雲はどこにいる?」と激しくスラゼが繰り返した。
アグニズは肩をすくめた。建築者は眉を吊り上げ拳を握りしめた。今にも石炭のエルムを殴りそうな雰囲気だ。しかし、そうはしなかった。ひょっとすると、グレーイは散歩にでも出かけたのかもしれない。そして今頃ディオネの村はパニックに…。ここは神の園と違い、来訪者を快く迎え入れてはくれない。
家中をくまなく探したがどこにも雨雲の姿はなかった。昼食を用意している連れの元に戻って、グレーイが見つからないと告げた。実は、ニヴォーラは灰色の雲がどこにいるかを知っていた。迷うことなく、真っすぐにアプルが休んでいる部屋へと向かい、扉を開けた。
そこではグレーイが奇妙な格好で床に倒れていた。ニヴォーラは吹き出すのをこらえられなかった。その笑い声を聞いてグレーイが飛び起き、そしてグレーイが飛び起きたのを聞いてアプルの目がパチッと開き、飛び上がるように起き上がった。まるでドミノだ。まあ、ドミノは立っているものが倒れていくので正確には違うのだが…。
「ほらね!」とニヴォーラが配偶者に笑いかけた。
彼女はアプルの意識が戻ったことに大変満足しているようだ。昨日と比べて体の色がどことなく柔らかく見える。赤い血管は明るいピンク色に、緑の肌は萌黄色のような柔らかい緑色になっている。昨日の厳粛で重々しい雰囲気は消え去り、親しみやすくなっていて、それが肌の色にも現れているようだ。アプルに近付き、こう尋ねた。
「アンタ、気分はどうだい?」
「げ…元気です。」と消え入りそうな声でアプルが答えた。
ディオネ一族を見るのは彼女にとって初めてだった。話に聞いたことはあっても、こんな見た目だとは想像もしていなかった。ニヴォーラの鋭い歯並びを間近で見、背筋が凍る思いがした。
「もし辛かったらいつでも言いな。」とニヴォーラが続けた。「まだケガをした自分の姿を受け入れるのも大変な時期なんだから。アンタにはもう少し休息が必要なのさ。だから、ゆっくり休んで、もし助けが必要ならいつでも呼んでちょうだいな。」
「あ、ありがとうございま…」
アプルが言い終えるよりも前に、アグニズが部屋にドタバタと駆け込んできて、入口にいるスラゼにぶつかりそうになった。驚きのあまりりんごは毛布(というより人工芝マットに似ているのだが)を口元まで引き上げた。部屋の中にいるグレーイを見つけると、アグニズは目を細めた。
「やっぱり!」と彼は叫んだ。「この部屋から何か物音が聞こえてきて、よく寝れなかったんだ!しかも一晩中も!!!!!」
アグニズは機転の利かない男だ。アプルの顔は、恥ずかしさのあまり赤からオレンジになった。ニヴォーラは大声で笑い、グレーイはオロオロとし、スラゼは恐ろしい表情をしていた。石炭のエルムに何か一言言ってやろう、と思ったが、あまりに楽しそうな妻の姿を見て思いとどまった。ニヴォーラは窓の方に歩いていき、ひそひそ声でこう尋ねた。
「友達のフクロウはなんていう名前なんだい?」
「パリだ。」とアグニズが答えた。「なんでだ?」
ニヴォーラがいくら静かな声で話そうと、マジマルには完璧に聞こえていた。一連の大騒ぎ、特にアグニズのうるさい声で目が覚めてしまったのだ。
ヒーラーは窓を開け、下を覗いた。もちろんパリは精霊たちを呼び出して姿を消し、同行者の分も含めてジンの気配も隠していたが、ニヴォーラには、パリが一晩中そこから動いてないことが分かった。家の周りを見渡し、誰もいないことを確かめてから叫んだ。
「なぜこっちに来ないんだい?いつまで外に一羽ぼっちでいるつもり!?」
パリは自分の存在感を消そうとしていた。みんながその様子を興味深そうに見守った。ニヴォーラは、パリがこの家に入るには大きすぎることも分かっていた。
「お前は何をふざけてるんだ?」と夫が聞いた。
「このままにはしておけないじゃないか!」とニヴォーラ。
「でも昨日はそうしたじゃないか…」
「だからだろ?今日はそうしないの!」
スラゼは唇をキッと結び、肩をすくめた。ニヴォーラとの口喧嘩では勝った試しがない。ニヴォーラとスラゼは似た者同士の様に昨日は見えただろうが、実はかなり違う。
「パリ、アンタそこにいるんだろ?」ニヴォーラが窓から声をかけた。
「アタシは家に入るには大きすぎるし、第一、外にいる方がずっと楽なのよ!」と、やっとフクロウは姿を消したまま答えた。
「おやまあ、でもアンタ、マジマルでしょ?違う?第二形態、ってやつがあるんじゃなかったっけ!?」
風がヒューっと吹き抜けた。パリの顔色が変わった。この秘密だけは、誰にも知られたくなかった。マジマルに第二形態があることを知るエルムは少ない。そして、パリは自身の第二形態が大嫌いだった。父のロカルンの死後、もう長いこと変身していない…
上の部屋にいるエルムは全員何の話をしているのか分からなかった。
「第二形態…?何のことだ…?」グレーイが口を開いた。
「マジマルには第二形態があるのさ。」とニヴォーラがピースサインをしながら答えた。「もう少し小さいサイズに変身することが出来るんだよ。私は実際に見たことはなくて、話を聞いたことがあるだけなんだけどねえ。ほら、例の『ナラ長老』が教えてくれたのさ。」
「そうなの!?知らなかった!!!」とグレーイが叫んだ。
「俺もそんな話は初耳だ。」とスラゼが少しむくれた顔で付け加えた。
好奇心に後押しされ、グレーイは窓へと飛び跳ねていき、パリに声をかけた。白の貴婦人がどう反応するか考えもせずに。
「パリ!中に入ってこられるなら、なんで変身しないの!?」
「余計なお世話よ。」と姿を消したままのフクロウが冷たく言い返した。
「たまには協力的になれない?」
「あのね、あんた調子に乗り過ぎじゃない!?言っておくけど、アタシはあの姿がキライなの。分かった?それとも上に行ってもう一度言わなきゃダメ!?」
「あー!なんて残念なのかしら!!!」と、突然ニヴォーラが叫んだ。「私、今日の為に最高の料理を用意したのに。アンタにも味わって欲しかったけど…でも、外に運んであげるなんて、期待しないでちょうだいね!」
スラゼは妻に、パリが持って行った食べ物にどれほど凄い勢いで飛びついたかを話して聞かせていた。それでニヴォーラはパリが食いしん坊だと知っていたのだ。しかし、フクロウからの返事はなかった。グレーイは何か言おうと思ったが、ニヴォーラに引き寄せられて止めた。これ以上言っても仕方がない。議論は終了したのだ。
数分後、彼らはアプルを休ませるために部屋に残し、一階へと降りてきた。下に着いたその時、そこにいた…白の貴婦人が…。
そこにいた誰も、このような姿になると想像もしていなかった。スラゼでさえ、口をあんぐりと開けていた。誇り高き姿、白い体、そしてメスライオンのたてがみのように頭に生えている大きな羽…間違いなくパリだ!
見た目はエルムにそっくりだ。しかし、みんなを面食らわせていたのはその姿ではなく、その美しさだ。なんと綺麗な顔で整った目鼻立ちをしているのだろう。顔のパーツの全てが見事に調和している。薄い唇、真っすぐに筋が通った鼻、大きくて真っ黒な瞳…。
一番驚いているのはアグニズだ。見慣れないパリの姿と、その美しさに狼狽していた。そしていつも通り、考えなしに叫んだ。
「こんなイカす姿になれるんなら、なんでもっと早く教えてくれないのさあ!」と、下品に褒めた。
パリは明らかに気分を害したようで、顔をそむけた。もし家主がいなければ、家中の全ての壁を壊す勢いでアグニズをぶん投げていたところだ。
グレーイの目には、パリはもうあの大きな生き物だった頃と全然違うように見えた。まるで別マジマルだ。一番最初に彼女を見た時は恐怖を覚えたものだが、今は彼女は本当に傑出した美しさだ。グレーイはショックで黙っていた。燃える炭ほど馬鹿じゃない。パリを怒らせる?それは愚かなアイデアだ。
「おやまあ!」ニヴォーラが笑った。「これが噂の第二形態かい!改めてようこそ我が家へ!さあ、美味しいご飯をおあがりなさいな、べっぴんさん!」
エルム姿のフクロウは微笑んだ。この姿になることを強いられもちろん腹は立っているが、ご飯のためなら仕方がない…しかも、エルムのベッドをずっと試したいと思っていた。そのチャンスを満喫しなければ!
マジマルのほとんどが動物の姿でいることに慣れ、第二形態になりたがるマジマルは稀だ。パリも例外ではない…。しかし、変身すると能力が何十倍にもなるのだ。なんて皮肉!
何も言わず、突然パリはアプルに会いに二階へと上がっていった。寝室に入ると、赤りんごは既に笑っていた。
「何がオモシロイのよ?」と腕組みしながらパリが尋ねた。
「ふふ、ごめんなさい。お会い出来て嬉しいわ、パリ。私が眠っていた時、あなたの声をたくさん聞いていたの。あなたはとても強いマジマルね。感心したわ!」
「別に感心されるようなところなんてないわよ。」とフクロウはせせら笑ったが、アプルの言葉に喜んでいるのが見え見えだ。「今は少し良くなっているといいのだけど。」
「元気よ。心配し…」
その時、またアグニズが、まるで怒った闘牛のような勢いで部屋に飛び込んできて、パリを押しのけた。そしてそのはずみにパリは地面に倒れてしまった。
「おっと失礼!」面食らった様子で叫んだ。「君たち、女子会ってやつでもしてんのかい!?」
前回と同じようにアプルが口元まで毛布をサッと引き上げた。パリはアグニズを昨日やったようにぺちゃんこに踏みつぶしたいという強い衝動にかられた。何も言わずアグニズをキッと睨みつけた。頭の中でシミュレーションはばっちり出来ている。しかし、落ち着きを取り戻し起き上がり、腹の底で思っていたことを全部ぶちまけた。
「グレーイが正しかった。あんたにはうんざり!あんたが誰であろうと、なよなよしてるアグニズであろうと、脳みそが足りてないアグニズであろうと、もうあんたにはウンザリ!!!」と冷たく言い放った。
アグニズは顔をしかめた。白の貴婦人がこういう反応をすることくらい予想出来ただろうに。後悔で満ちた視線を投げかけるだけで、一言もその口からは言葉が出てこない。ただ顔を歪めている。
「アタシ、思いついたの。」とパリ。「大人しい時のあんたをアグニズ、そして頭がオカシイ時のあんたをザグニ、って呼ぶのはどう?」
「えっと…わかった。」石炭が呟いた。「じゃあ…出ていきます。」
「ええ、今すぐよ!さよなら!仰る通り、今『女子会』してんのよ、分かった!?」
アグニズはひどく落ち込んだ顔でそそくさと退散した。他に何が出来ただろうか。パリに反抗しようと試みたが、カザンと帝国に立ち向かっていくより怖そうだった。
パリとアプルは会話を再開した。マジマルはりんごのエルムの目を真っすぐ見つめ、単刀直入にこう言った。
「アプル、もし体調が良くなったら、ここに残った方がいいわ。ニヴォーラがあなたの面倒を見てくれる。アタシたちはまた旅に出るから。」
アプルは動じなかった。彼女の瞳は決意に満ちていた。突然、彼女は下を見、深い溜息をついた。まるで決意を固めているかのように。そして頭を上げ、こう言った。
「ねえ、あの晩、グレーイを私のところに送ってくれたのは神様の仕業だと思うの。」
「どういう意味?」
「一緒に行かせてください!」アプルが率直に言った。「あなたたちの旅のお手伝いがしたいの。あなたたちと行くように、という声が聞こえたの!」
「聞いて。真剣に頼んでくれてるようだからアタシも正直に言うけど、アタシたちの旅は危険だらけよ。危険以上。事実を受け入れなさい。自分自身を重荷だと思う日が来るわ!」
「もしあなたを説得できるなら言うけど、私、ニヴォーラに負けないくらい優れたヒーラーなのよ!」と熱意を込めてアプルが言った。「私が生き残れたのは、この力のお陰でもある!」
パリは黙った。もしアプルが本当にニヴォーラと同じくらいの力を持っているなら話は違ってくる。ニヴォーラのお陰でアプルの顔色は良くなり、グレーイの腕も良くなった。しかし、その言葉を鵜呑みにしてもいいのだろうか…例えそれが本当でも、この狂った旅に巻き込んでいいのだろうか…一方にデュオルク、一方に恐ろしいカザン。どちらに行っても地獄。
アプルの居場所はその中にあるのだろうか?
パリは、首元にかかっていてくすぐったい頭の羽の束をどかした。アプルはパリの様子をじっと見ていた。パリを迷わせることに成功したようだ。アプルは、木に止まっているフクロウの姿のパリも見たことがある。その姿が実に印象的だった。変身後も、あの威厳は健在だ!
「神は、あなたを救うためにグレーイを送ったわけで、あなたを危険な旅に巻き込むためじゃないでしょ!?もっと多くのモノを失うかもしれないし、この件はあなたには関係ないことじゃない!」とパリは厳しく言い放った。
その言葉を聞くや否や、アプルの目から涙が零れ落ちた。一粒、二粒…頬を伝って流れ落ちていく。パリはまさかアプルが泣き出すなんて思ってもみなかった。慌ててアプルに落ち着くよう頼んだ。
「どうして、カザンが私や、私の家族や、私の故郷にした仕打ちを知っていて、そんなことが言えるの!?」りんごが悲痛な声で訴えた。「私との出会いは、アグニズとの出会いと同じくらい意味のあることよ!そして私は、あなたたちにお返ししなければならない恩がある!」
その言葉の後、アプルは怒りと悲しみに打ち震え、顔をそむけた。グレーイが拗ねている時と同じだ。パリは、アプルというエルムが、こんなにも強い意志を心の奥底に秘めているなんて、微塵も思っていなかった。りんごの言葉は率直で、誠実だった。
「そうね…考えてみるわ。」パリがアプルの肩に手を置きながら言った。「とりあえず今は休まないと…」
同じとき、一階にある食堂では、昼食の準備が整いつつあった。スラゼ、アグニズ、そしてグレーイが、薪と今夜食べるものを探しに出掛けている間、ニヴォーラは鶏肉とパプリカのシチューを、キノコのソースで仕上げていた。この良い香りが二階にいるパリの元まで届き、パリは変身して良かった、と改めて思った。
アプルの方は反対に、この匂いにはそそられなかった。誰か、美味しいフルーツを持ってきてくれないかな…
こうした平和な時間を過ごしていても、冒険者たちは旅の目的を忘れてはいない。
ハルの石を見つけるための危険な道へとまた歩みだすまで、もうすぐだ。




