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~肉食~

~~ ひぐらしのなく頃に - ミチシルベ

 何時間も何時間も、3エルムと1羽は休むことなく飛び続けた。パリは寝不足だった上に背中にグレーイを乗せていた。グレーイは自分の力だけで飛んでみようとしたが、上手くリズムが掴めず遅れをとってしまったので、諦めてパリの背中に乗ることになった…それでも目を見張るような進歩ではあるのだが。アンシャンドラクトの件で悲しい気持ちはもちろんあるが、それと同じくらい、心の中は感謝でいっぱいだった。


 アグニズはアプルを軽々と運んでいた。全く疲れていないように見える。生まれた洞窟では嫌われてはいたものの、天才で知られていた。ネフェリアのウルナーのような感じだ。通常はこのレベルに達するまで鍛錬が必要だが、そんな苦労はしたことがない。


 やっと、説明に聞いていたのと似たような場所が見えてきた。巨大な湖と、神の園よりも密集した森に挟まれた村だ。あそこに噂の肉食の一族がいるのだろうか?


 太陽は沈みかけ、みんな疲れが出てきた。アグニズでさえ疲れを感じてきたところだ。ここが目的の場所であってくれ、とみんな願った。


 まだ文明が発達していない村のようだ。木の幹のような巨大な杭に囲まれ、木でできた塀の真ん中に、威風堂々と扉が構えていた。その後ろには木で出来た家々が建っているのが見える。しかも、塀も扉も家々も、全てがツタやコケで覆われていた…。


 グレーイ、アプルを背負ったアグニズ、パリは扉の前に立ち、アグニズが扉を何度か叩いた。しかし返事はない。


「町の中心に降りた方が良かったんじゃないか?」アグニズに聞こえないようにそっとグレーイがパリに聞いた。


「バカね。そんなことしたら村のみんなを怖がらせちゃうじゃない。特にコイツが。」と、扉の前のアグニズを顎でしゃくりながら答えた。


「しかも、なんでアイツがアプルを背負ってるんだ?」雨雲が不満を漏らした。


「飛んでる間に答えは出てるんじゃないの?もし、頭から出てる炎のことを心配してるなら、心配無用よ。戦ってない時は無害だから。」


 頭の炎だけを心配しているのではなかった。神の園をめちゃくちゃにし、愛するものを奪った炎の一族出身のエルムと、行動を共にするのが耐えられなかったのだ。しかも、グレーイはまだあの悔しさを忘れられないでいた。苛立ちが心を食むのを感じる度に、グレーイは指を噛んだ。


 突然大きな足音が聞こえた。こちらに少しずつ近付いてくる。そして数秒間の静寂。次に不気味な声が鳴り響いた。


「そこにいるのは誰だ?」


「我々は旅行者だ。」アグニズが答えた。「ケガをしているものがいるんだ。腕のいいヒーラーに診てもらいたい!」


 返事がない。扉の向こうのエルムに声が届いているか確かめる為に、アグニズはもう一度扉を叩いた。またもや返事は返ってこない。だが、ジンは嘘をつかない。まだ扉の後ろに何者かがいるのを感じる…石炭のエルムは段々イライラしてきて、真っ赤になりこう叫んだ。


「おい!寝てんじゃねぇだろうな!?ヒーラーに会いたいんだ!言っとくが俺らはニヴォーラの友達だぞ!」


 ニヴォーラがアグニズが探しているエルムの名前のようだ。ハルの石を知っているという…


「貴様…今ニヴォーラと言ったか?」扉の後ろから声が聞こえた。


「ああ!」アグニズが答えた。「てめぇまだそこにいるんじゃねぇか!」


「ニヴォーラの友達と言ったが、名を聞かせてもらおうか。」


「さっき言った通り、俺らはただの旅行者だ。俺の名はアグニズ。仲間が3ついるが、内1エルムがかなりの重症なんだ!」


 また静寂。アグニズはみるみる怒りで真っ赤になった。馬鹿にされてると思ったのだろう。アグニズの堪忍袋の緒が切れたところでやっと答えが返ってきた。


「この扉は使用禁止だ。」と冷たく声が言った。「お前たちは入れない。」


 どうやら信頼されていないらしい。アグニズはその言葉に耳を貸さず、アプルをそっと地面に置いた。するとみるみる表情が変わり、ジンが攻撃的になった。もう片方のアグニズが戻ってきた!


 腕を扉の方に伸ばし、火の球を出現させた。アーティシュだ。ドアを粉々に吹っ飛ばすつもりらしい!


「何してるんだよ!?」グレーイがアグニズの腕を掴みながら叫んだ。


「放せ。さもないと扉と一緒に灰にしてやるぞ!」


 パリがグレーイを羽で押し戻し、石炭の腕をかぎ爪で引っ搔いた。黒いエルムは痛みで悶え、数歩後ろに下がった。


「うぎゃあああああ!」パリの方を悲しげな目で見ながらわめいた。先ほどとは完全に別エルムだ。「痛いよお!!!!!!」




 いつものアグニズが戻ってきた。しかしグレーイはカンカンだった。一発殴ってやりたかったが、何かを感じ取ったのかパリにもう一度羽で押し戻された。平静を保ってはいたものの、このアグニズの情緒不安定さには我慢の限界が来ているようだった。


「あんたには優しくしてるんだけど、ねえアグニズ。アタシの忍耐力を試してるわけ?」


「い、いやそんなつもりはないんだ…ごめん。」石炭は目を伏せながら答えた。「ただ俺は…」


「なんでもいいけど、もう少し自分をコントロール出来るようになってくれない?アタシの願いはそれだけよ!」


 アグニス自身、自分の()()()()()()を恥ずかしく思っていた。さっきの恥ずべき行為の後、穴があったら入りたいとさえ思っていた。パリのように自分を透明にしたかったのだ。意外にも、最初に口を開いたのは扉の向こうの男だった。


「城壁に沿って森の中央へ進め。あるところで城壁が途切れて、小さな隙間ができている。そこで待て。」


「了解!」パリが長い溜息をついたのを聞かずにアグニズが答えた。


 壁の向こうにいるエルムは、どうやらグレーイ一行をメインの扉から入れたくないらしい。そうであれば、旅立つしかない。皆は、その太い足音と低い声の不思議なエルムに出会うことを心待ちにしていた…


 長い道のりを歩いた果て、ついに私たちは裂け目のある場所に辿り着いた。森の中には奇妙な雰囲気が漂っていた。冷たい風に揺れるおびただしい葉の音を除けば、他に音は何一つ聞こえてこない。恐ろしくて、この場所に足を踏み入れる獣すらいないのかもしれない……


 そして遂に、太い足音が私たちに向かって近付いてくるのが聞こえた。木々の影から、二つの黄色い光る目が私たちを見つめていた。小さいながらも凛とした眼差しだ。デュオルクと同じような体つきをしているが、よりいっそう雄々しい風格があった。頭に被っているフードがこのエルムに陰気で神秘的な雰囲気を与えていた。そのフードは、赤い血管がぼこぼこと浮き出た緑の肌を覆う服に繋がっていた。


 恐怖を感じさせる出で立ちだが、一番困っているのは彼自身のようでもあった。最初は長い時間をかけて大きなパリをびっくりした様子で眺めていたが、次にその目はアグニズへと移った。頭の先から爪の先までジロジロと見た後、こう口を開いた。


「お前、カルシネ大陸のヤツだろ?違うか?」白いサメのように大きく鋭い歯を見せながら問いた。


「えっ、いや、違うぞ。」アグニズは馬鹿なことに嘘をついた。「俺も()()()()()()だ!」


「あん?」大柄な男が眉をひそめた。「そりゃ一体どういう意味だ?」


「つまり、ベール大陸のエルムに育てられたのよ。」パリが付け加えた。


 幸いなことにこの大男はそれ以上追及しなかった。アプルの状態を見て、首を傾げ、付いてくるように、と合図した。その後の行路は、まったく物音ひとつしない静寂の中を進んだ。この巨漢の親しみを全く感じさせない表情のせいだ。


 5分後、ポツンと建っている古びた一軒家の前に辿り着いた。屋根は神の園で見たものと同じように曲がっていたが、アンシャンバーダルの小屋が巨大になったような家だ。


 この村にある家はどれも10メートルは超えていそうだ。こけやツタ、キノコ、そして何やら奇妙な植物が生え茂っていた。物凄く湿気ている。


「なぜお前たちはジンを発していないんだ?」


 案内役の男は振り返らずに呟いた。



「アタシが精霊の力を使って、存在を隠させてるからよ。」歩き疲れてヘロヘロになりながらパリが答えた。「あんたたちに危害を加えるつもりはないわ。」


「いつからニヴォーラを知っている?」でっぷりとした緑のエルムが続けた。


「なんでそんなこと聞くんだよ?」アグニズは反射的に答えた。「お前にそんなこと関係ないだろ!?」


「まず、そんな口の利き方は慎んでもらおう。そして、それはお前が想像するよりずっと俺に関係があることだ。」


 アグニズは相手の見た目がいくら恐ろしげでも、滅茶苦茶な物言いをしていた。

 グレーイはアグニズを連れてくるのがは失策だったと思っていたが、ここまでとは思わなかった。グレーイとパリの険しい視線に気づき、アグニズは自分がまた失態を犯したことに気づいた。


「あぁ、すまない!」アグニズは溜息をついた。「実は、昔に彼女に会ったことがあるんだよ。もう忘れられちゃってるかもしれないけど、あれはいつだったか…」


「お前たちがアイツに会いたいのは、治癒の力の為ではないのだな」と巨漢は冷たく言った。


 誰もその言葉の意味が分からなかった。その時、グレーイは疑念を抱きはじめた。結局のところ、彼らはこの男の正体も、どこに連れて行かれるかも知らない。段々きな臭くなってきた。


「何を言いたいんだ?」と雨雲が尋ねた。


「そのニヴォーラは我が一族最高のヒーラーだ。もしお前たちが本当に彼女を知っていたら、初めからニヴォーラに会わせろ、と言うはずだ。だがお前たちはそうは言わなかった。本当の目的を言ってみろ!!!」


 状況は悪化の一途を辿っていた。アグニズはニヴォーラがヒーラーだと知らなかったようだ。正体がばれてしまった。パリにはもはや選択の余地はなかった。本当のことを明かさざるを得ない。しかし、まだその時ではない…。


「ねえ、ここはどこなの?アタシたちをどこに連れてきたのよ?」パリが尋ねた。


「俺の住まいだ。」


「お前の家か。ご招待ありがとう。でも、まずはニヴォーラにこの子を診てもらいたいんだ!」とアグニズが言った。


「そして、それは彼女の家でもある。俺はスラゼ、ディオネ一族の建築者であり...ニヴォーラの夫だ。」


「ふーん…それは何という…偶然…」燃え盛る石炭がもごもごと言った。


「はっきり言っておく。ここに連れて来たのは、あの若いエルムのためだけだ」とスラゼが言い渡した。「決して、お前たちを自分の家には上げん。」


「でも彼女は私たちの友達なんだ!」グレーイが叫んだ。「誓って厄介事はなにも起こさないから!」


「嫌なら他をあたってくれ。もしくはここで大人しく待つんだな。」


 スラゼは非常に頑固な男だった。グレーイはアンジールの優しさを思い出した。そして、かつての居場所であった神の園を思い出すと、涙が込み上げてきた。どうにか涙を堪え、今は違う場所にいることを受け入れた。


 今はそんなことをぐずぐず言っている場合ではない。アプルの無事が何より大事だった。ここで治療を受けられなければ、症状が悪化するかもしれない。グレーイはアグニズの背中で気を失ったままのアプルの姿を見つめた。彼女の呼吸は不規則だった...。


 パリはアグニズに合図を送り、アグニズはアプルをスラゼに渡した。アンシャンドラクトの姪を、何の保証もないままこの緑の巨漢に預けるのは辛かった。スラゼはアプルを腕に抱え家に入ろうとした。グレーイは彼が生きたまま彼女を食らう恐ろしい妄想をした。鋭い歯でアプルの柔らかい肌を引き裂くのでは、と。


「スラゼ!彼女の様子をすぐに知らせてください!」グレーイは遠くから叫んだ。


 しかし巨漢は反応せず、客を慰めもせず家に入っていった...その態度にグレーイはカッとなった。


「1時間経ってもアイツが戻って来なかったら、無理矢理でも中に入ってやる!」グレーイは雷鳴のように叫んだ。


「落ち着きなさい」パリが静かに言った。「1時間経っても、もし戻ってこなかった時はアタシが中に入るわ。どちらにせよ、ジンがもう一つ家の中にいるのを感じるわ。とにかく待ちましょう!」


「その意見に賛成だね。あのエルムにとっては、俺らは見知らぬ旅行者だしな。」アグニズが付け加えた。「あの反応も無理はないでしょ。俺たちは相当怪しく見えてることだろうし。こんな事になってしまい、本当に申し訳ない。」


 グレーイは視線を伏せた。認めたくはなかったが、アグニズの言うとおりだった。グレーイは隅の方に行き、また指を噛み始めた。


 しばらくするとスラゼが戻ってきた...彼に続いて、さらに巨大な影がその後を追ってきた。パリより頭一つ分低い背丈だった。ニヴォーラだ。彼女の体は細くスラリとしていて、スラゼ同様、四十路前後の年齢らしい。服装もスラゼに似ていて、緑色の、皮の縁がトゲで覆われた奇妙なフードをかぶっていた。しかし表情は夫と同じくらい険しかった...。


 客を見ても、ニヴォーラは無表情だった。全く驚いていないようだ。このエルムこそ、彼らをハルの石へと導く鍵なのだろうか?


挿絵(By みてみん)

ついに主人公たちは、肉食種族のヒーラー、ニヴォーラと出会った。

今度はどんな暗い冒険が待っているのだろうか?

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― 新着の感想 ―
スラゼと二ヴォーラの不思議さと神秘性がよく描かれている場面でした。また新たな環境に馴染むことを受け入れざるを得ない、グレーイの不安定さもよく伝わってきました。アグニズの現状はグレーイの未来かもしれませ…
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