表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/51

~誕生~

~~アスラズラース - 震える心(Instrumental)

 まずこの物語は、人類がいない世界で始まる。この惑星には雄大な景色が広がっていて、山々は女王として君臨し、シウ、ベール、カルシネという3つの主要な大陸を治めている。この世界の主人公は、動物や草花や無生物だ。


  ある日のこと。雲は北に集まり、空は薄暗いベールで覆われ、山々の輪郭はぼやけていた。突如、激しく唸るような轟音と共に光が空を砕き、静寂は破られた。


 山のふもとの闇の中心に、光を放つ不思議な球体が現れた。しかしそれは数分後に無くなった。消えることのない黒い煙を残して。雨でさえその煙に打ち勝つことはできなかった。ようやくこの煙が消えた時には、そこに巨大なクレーターが出現していた。


 そのクレーターの真ん中に、おかしな見た目のナニカが転がっていた。20代の若い青年のように見える…いくつかの点を除けば。「ソレ」の肌はくすんだ灰色で、髪は霞のようだった。それは髪というよりも、クレーターを隠していた真っ黒な煙に似ていた。


 何日も眠った後、「灰色のソレ」の目が開いた。白い瞳の表面に、ゆっくりと瞳孔が現れた。その瞳は吸い込まれてしまいそうなほど深く、黒かった。


 それからその生き物はゆっくりと起き上がり、明るく光り輝く空の方へ頭を持ち上げた。何時間も周りを取り囲む全てのものをじっと見つめ、味わった。この世界の色も空気もすぐに気に入った。




 突然「ソレ」は歩き始めた。まるで誰かに呼ばれたかのように。何日も飲まず食わず、休むことすらせず歩き続けた。小さな森を横切っている途中、全ての種類の生き物と出会った。虫やリス、イタチに、オオカミの群れまで。


 これらの不思議な生き物に近づいてみたくて眺めていたが、逃げられてしまった。どうやらこの惑星には、自分と同じ種類の生き物はいないのかもしれない。少なくとも、この長い旅路の中では出会わなかった。


 旅の途中、山々に囲まれた大きな渓谷を横切っていると、一際大きな山の前に着いた。それは天空を切り裂くほど大きく、立派であった。地面から古く大きな階段が頂上まで切り開かれていた。もちろん「灰色の生き物」は登った。



 半分ほど登ったところで、異様な雰囲気に気が付いた。頂上から、おびただしい数のナニカの気配を感じ、それは登れば登るほど、強くなっていった。終わりの見えない道のりの中、こちらに向かってくる、別の生き物の存在に気が付いた。さて、君なら快くもてなすかな?


 数秒後、遠くからその気配の正体が分かった。その生き物は自分によく似ていた。


 しかし、「アレ」は自分とは違って、とても透明で光り輝いていた。肌は生成りで、髪は、自分のものと同じく霞のようではあったが、純白であった。その髪は、腰のあたりまでゆったりと垂れ、まるで煙でできた滝のよう。


 天使がまっすぐ空から降りてきた。そう勘違いしそうになる。


 その天使は、その体に緑色の風変わりな布をまとっていた。随分と古いらしく、あちらこちらに黄ばんだような染みがついている。その生物は相当の年齢に見える。60代、いや、もっとか…


 その老君は片目しかなく、右目は、体にまとっているのと同じ布で覆われていた。瞳孔は色を失い、眼球の表面にやっと見えるくらいだった。この風変わりな老君は、ゆっくりと階段を降りてきた。考え事にふけっているらしく、「灰色の生き物」に向かってまっすぐと歩いてきた。、「灰色の生き物」がそこに立っているのにようやく気が付いた時には、あまりに驚きすぎて、仰向けに倒れてしまった。「灰色の生き物」の方は、老君の目の前まで歩いていった。その老君は、まるで幽霊を見たかのように小刻みに震えながら、やっとの思いで立ち上がった。


「灰色の生き物」の方も負けず劣らず驚いていたが、怖さ半分、好奇心半分だった。老君の方は、片目で、「灰色の生き物」の頭の先からつま先まで神経質にうかがった後、ついに口を開いた。


 「わ、わしはネフェリア村のアンシャン、バーダルだ!き、貴様は誰だよそ者!ここに何をしに来た!?」


「灰色の生き物」は黙っていた。目を大きく見開き、その老君を見つめ続けていた。しばらくの沈黙ののち、バーダルが再び口を開いた。


「答えろ、よそ者!答える気がないのなら、お引き取り願おうか!」


「わたしがここに来たのは…誰かがいる気がしたからだ。」 と「灰色の生き物」は仕方がなく答えた。


「な、なんだって?」隻眼(せきがん)の生き物は混乱した様子で尋ねた。


「わたしは目覚めて、そしてここに来た。階段を見つけたから登った。そしたらナニかが頂上にいる気がした…それだけだ。」


「と、ということは…つまり…お前は生まれたばかりなのか…?そうだとしたら、いつ着いたんだ?」


「まだ着いていない。途中だ。」


「そういうことではない、この惑星にいつ着いたのかと聞いたのだ、この愚か者め!」


「愚か者」は、この隻眼の生き物が、何を言っているのか全く理解できなかった。それどころか、この変わり者の年寄や、その不愉快な質問に腹が立ってきた。


「…今見ているのは、目覚めてから5個目の太陽だ。」


「やはりか…そうだと思ったわい。こないだの嵐は珍しく強烈だったからの…また同じ種族に会うなんて思ってもみなかった…お前、まだ自分の名前も無けりゃ、自分が何物かも分からないんだろ?」


「わたしは…」


 図星だった。言い返したかったが出来なかった。


「その通りだ。」最終的に認めざるをえなかった。


「教えてやるよ、お若いの!」ぷっと吹き出しながらバーダルが言った。


「お前は雨雲だ。そして最初に言っといてやる。お前は他の生き物とは違うんだ。お前の雲生(くもせい)は険しいものになるぞ…特にここ、シウ大陸ではな。」


 雨雲?その言葉は長いこと心に響いた。つまり、それがわたし…雨雲。


 ようやくここから物語が始まる。そして名前のない雨雲の運命も動き出す。


 運命、これほど謎に満ちたものはない。ある者は、運命は手のひらに書いてあると言うし、またある者は神様が知っているものだという。さらにまたある者は、全くもって信じてないという。雨雲は、その時は運命などという言葉は、全く気にしていなかった。しかし、間もなくその運命とやらを呪うことになる。そして、長い旅路が始まるこの場所にたどり着いたことさえも。


挿絵(By みてみん)

バーダルは雨雲の雲生は波乱に満ちるだろう、と予言した。

なぜだろう。そして雨雲のどんな部分が他と違うというのだろうか?

全てはじきに明らかになるだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Ce passage est captivant et très immersif. J’aime particulièrement la richesse des descriptions et l…
灰色というキーワードが気になって読み進めていくと、雨雲だったことに驚きました!着眼点が斬新で、どこか西洋の昔話を感じさせるような雰囲気もあり、今後の展開がとても楽しみです(^^)
情景がはっきり浮かぶ素晴らしい文章と、引き込まれる文体がとても魅力的です。雲から生まれたソレが一体なんなのか、とても気になります!ゆっくり読ませていただきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ