~訓練~
~~バクマン。 - 解説と憂悶
一週間の間、グレーイは一心不乱に瞑想を続けた。毎晩、終わることにはヘロヘロになっていた。その終わりの見えない一週間を耐え抜いた後、アンシャンドラクトは彼に実践に移ることを提案した。
「鬼ごっこをしよう。」と古いナラの木はまるで子供のようなこと言った。
「鬼ごっこって何ですか?」とグレーイは聞き返した。
ルールは単純なものだった。グレーイに課せられた課題は、ただ葉っぱに触ること。触ることだけ出来ればグレーイの勝ちだ。しかし、単純というのは簡単という意味ではない。そこから三週間が過ぎた。しかし、未だにグレーイは葉に近づくことすらできずにいた。アンシャンドラクトは、雨雲の頭上でからかうように揺れ続けた。
それでも、一ヶ月の訓練を経て、グレーイはナミアの球を連射できるようになった。自分自身でも驚いたのだが、ヴァハを使って飛ぶことにも成功した!他の雲と比べれば遠く及ばないものの、ドラクトの教えは実を結んでいた。
しかし、ツに関しては全くダメだった。全力を尽くしたし、過去に使ったことがある力なのに…どうにもならなかった。
一日に二度、グレーイはパリに会いに行った。休息と気分転換のためだ。ひょっとしたら現実逃避だったかもしれない…死んだ動物を貪るパリの横で、グレーイは果物を食べた。パリの食事の様子を見て胸がムカムカした。それでも、視線は常に神の宮殿に向いていた。空に映るあの姿に魅了されていたのだ。
グレーイの日常も、少しずつおかしくなり始めた。アンジールの妹を覗き見する癖がついてしまったのだ。罪悪感を感じつつも、一目見たいという欲望に抗えなかった。グレーイは、このまだ名前も知らないエルムに、完全に心を完全に奪われていた…
裏庭を行き来して植物の世話をする彼女を時々見かけた。その様子を遠くからじっと、目を輝かせながら見た。それとは裏腹に、彼女はグレーイの存在には気付いていないように思えた。
しかしある日、ドキッとする出来事が起きた。彼女が、分厚い黒曜石の板に映る自分の姿を見ながら、三つ編みを直している最中、グレーイはドアを少しだけ開けた。驚いたことに、自分の顔が緋色のエルムの鏡に映った。まるで、彼女がわざと「覗き」の顔を映すために鏡を置いたかのように…
グレーイは慌てて逃げた。デュオルクから逃げたときよりも早い速さで。雨雲が消えて行くのを見て、美しいエルムは口元に手を当ててくすくす笑った。
グレーイが非常に驚いたことに、このエルムが大半の時間をアンシャンドラクトと過ごし、日々話し掛けていることだった。アンシャンから返事は決して返ってこないにも関わらず、彼女は自分のエルム生を全ておじと、その家に捧げていた。
ある、運命的でグレーイの心に永遠に残り続ける日の朝。緋色のエルムを長いこと覗いた後で階段を降りていたら、急に誰かに声をかけられた。
「グレーイ!」声の主は、イチジクの葉のエルム、アンジールだった。溢れんばかりの笑顔だ。「もうトレーニングを始めていると思ったよ!上で何をしていたんです?」
「ア、アンシャンドラクトに、会いに..」一番会いたくないエルムとの突然の遭遇に、心臓がどくん、と跳ね、グレーイはとっさにつっかえながら言った。
「へぇ!おじがそんなに印象的だったとは!あっ!それなら...もう妹とは会ったかな?」
「う、うん!もちろん!」と、グレーイは嘘をつき、緊張した微笑を浮かべた。「そういえば、移住計画はどうなったの?」
「ああ、その話!」とアンジールは笑って言った。「それは忘れた方が懸命かな。」
「どうして!?」
「正直に言うとね、ビジョンについて話したら、評議会の殆どのメンバーからバカにされてしまって。」
「そんな…」
「大丈夫さ。」と、アンジールはグレーイの肩に手を置いて彼を安心させた。「希望は常にある。それに、最悪の場合でも、僕たちは自分の身を守る術を知っている!」
「そうだね。それに神もいる!降りてきて助けてくれるかも!」
「神か… うん、本当にいるのならね。」
「え?」
緑のエルムはただ笑った。気さくにグレーイの肩をポンと叩き、おじの部屋へと向かって行った。しかし、グレーイが立ち去ろうとした時、アンジールが彼を呼び戻す声が聞こえた。グレーイは踵を返し、階段の上にいるアンジールを下から見上げる格好になった。
「グレーイ、忘れるところだったよ!」とアンジールは叫んだ。「パートナーと子供たちから散々言われてたのに…僕の家族が君に会いたがってるんだ。もし良かったら今週うちに来ない?もちろん、嫌じゃなければ!」
「ありがとう!」と、主人公は喜びに満ちた顔で答えた。「とっても嬉しいよ!」
「それなら完璧だ、友よ!」
グレーイは幸せだった。灰色の雲はついに認められたのだ。今や誰にも恐れられることなく、真の友を得て、新しい師匠まで見つけた。なんという皮肉だろう…孤独を望んでいた彼は、今やこの土地が与えてくれるものを拒むことが全くできなかった。
グレーイは心優しく、どちらかというと単純な雲だった。まるで子供の様に、他者を信用せずにはいられなかったのだ。
空に浮かぶ神の宮殿を見つめながら、彼はここに連れてきてくれた神に感謝し、初めて祈った…いつまでもこんな生活が続きますように、と。
喜びでいっぱいの彼は、ドームの中でアンシャンドラクトに合流した。早く訓練を始めたくてたまらなかった。実際、師匠はドームに入るや否やすぐに彼の情熱を感じ取った。
「なんだなんだ!?」と彼は叫んだ。「何があったのだ!?」
「今日こそやってやるぞ!」とグレーイは声高に宣言した。「俺、やる気満々です!」
「おいおい、わしの姪で目の保養をしたお陰かね!?」と、驚くべきことにドラクトが答えた。
グレーイの顔にはバツが悪そうな変な表情が浮かび、体の色は恥ずかしさでサッと黒くなった。何かつぶやいたが、アンシャンがそれを遮った。
「わしを誰だと心得る?」と古い樹は大笑いした。「お前さんのことを見ていないとでも思っていたのか?まあ心配するでない!わしも若い頃は、ええと…まあ、それはそれとして!」
「アンシャンがそんな風に叫ぶ声は、本当に俺以外には聞こえないのでしょうか?」
「一つ、今叫んでいるのはお前さんの方じゃ。そして二つ、前に言った通り、わしが作ったこの壁は全ての音を遮る!」
「でも、なぜそれをどうやったのか教えて下さらないんです?それはナミアでもジメンでもない!それはエルムの力でもない、何か別のものだ!」
「そんなことどうでも良かろう!ほれ、それより移住計画のことを話してみい!」
「それはあなたが言っていた通り…でも、それはアンジールのせいじゃない。問題は評議会だ!もし俺が…」
「それはよくわかっておる。」とドラクトはずっと真剣な調子で言った。「あやつらが決定しなければ、何も起こらない。わしらが声を上げ続ける必要がある。わしらの声はつまり、アンジールが代弁してくれとる!」
「俺も行きます!評議会に!」と雨雲は大声で言った。
「無駄じゃ。権力者の頭は固い...訓練に集中するのじゃ!グレーイ!ここにいる理由を忘れるでない…お前さんはもっと強くなるためにここにいる!バーダルのために!」
「忘れていません!」
「それなら、続けようではないか!ナミアは良くなったが、ヴァハについてはまだまだじゃ。これがどうにかならない限りお前さんがツを使いこなせる日は来ない!」
「アンシャンの動きが速すぎるんです…ついていくのなんて不可能だ!」
「頭の中で不可能と思っとる限り、それは不可能なままじゃ!お前さんさっき、やる気満々、とか言ってなかったか?」
グレーイは密かにあることを隠していた。今回は何かを企んでいる!
一方、密かに知れず炎が近づいてきていた…