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~疑念~

~~ 逆境無頼カイジ- This World III

 「えっ!?なんだって!?」グレーイがその知らせを聞いて驚愕して叫んだ。「ちょっと待ってよ!本気で言ってるの!?」


「大丈夫よ、あんたは独りぼっちにはならないわ。」フクロウがため息をついた。「それに、ここのエルムたちは優しいのよ。信用できるわ。」


「いやいや、それはそうかもしれないけどさ、いつまでも頼りっきりになんかなれないよ!!!」グレーイが焦燥を吐き出した。「なんで戻らなきゃならないんだ!?」


「聞いて。アタシはただの気まぐれで、自分や父が生まれた地を去るつもりなんかないわ。バーダルとの約束を守るため、それだけのためにここに来たの。今はもう、借りは返した。マジマルがエルムたちに干渉することは、普通はない。覚えておくといいわ。」


「君が一生を木にとまって過ごすわけがない!アンシャンバーダルはどうするつもりなんだ?見捨てるの?そんなの嘘だろう?君の父さんだって、そんな風には生きてなかったはずだ。だって君自身が言ってたじゃないか…お父さんは、()()()だったって!」


 沈黙が訪れた。グレーイの言葉は生意気だが、それなりに筋が通っている。そして実際、パリ自身もどちらの道を選ぶべきか分からなくなっていた。彼女は強いマジマルだったが、父を失ってから、生活には全く『()』がなくなってしまった。そう、パリには目標も、野心も、生きる理由すらもなかった…


 しかし、ここではっきりさせておかなければならない。パリの表情が陰るのを見て、グレーイは一歩後ずさった。今にも食い殺されそうな鬼気迫る様子だった。


「アタシに話すときは口を慎みなさい。ちっぽけな雲よ」と、パリは低い声で、しかし威圧的に言った。「私を母親か何かと勘違いしてる?これはあんたの戦いであって、私のじゃない。私の父に迷惑をかけたのはあんたたちよ!あんたたちの争い、戦争…私はもう二度とそんなことに巻き込まれたくないのよ。木の上で静かにしてる方が百倍マシだわ!」


「時間をくれ!少しでいい!俺はデュオルクとその軍団よりもずっと強くなる。そのレベルに達したら、俺も戻るつもりだ!アンシャンバーダルのことが本当に心配なんだ…実はさっき…」


「知ってるわ。あんたが不思議な光景を見たこと」


「え?でも…どうやって?」


「そんなことどうだっていいでしょ…バーダルが捕らえられていることも知ってる。あの連中のやりそうなことなんて見え透いてるわ。」


「だったら、なおさら!そこからバーダルを助け出した後なら、俺は君に干渉しない。約束するよ。その後好きなように生きればいい。だから、お願いだ、パリ!君がいないと、何もできない。やり遂げられるかどうか…」


「またあんたはそうやって他人に頼ろうとするのね。そんな調子じゃ、どうせ上手くいきっこない。あんたには精神力が足りてないのよ。あんたね、バーダルのことより、自分の心配をしたら?それに、あんたの今のレベルじゃ、デュオルクに勝つなんて何年先になるんだか…」


「そんなことないよ、ちょっと見ててよ!」


 今回は、グレーイはナミアを簡単に物質化させて見せた。量はとても少なかったが、それでも大きな進歩だ。しかし、グレーイは自分の『()()』を見てパリが爆笑することなんて夢にも思わなかった。


「ブラボー!」パリは大声で笑った。「水一滴!あんた、本当にダメね…あのちっちゃなウルナーでさえ、指一本でそれくらいやってのけるわよ。」


「頼む。せめて、ほんの少しでいいからチャンスをくれないか。1年なんて言わない、ほんの数日でいいんだ!。そしたらさっき笑ったことを後悔させてみせるさ!だからそうだな…6週間くれ!6週間以内にツを使えなかったら、もう何も頼まない。俺一人で戦いに行く。」


「あんたバカじゃないの…」


「これ以上ないくらい公平な提案だろ!受け入れてくれよ!アンシャンバーダルが君にとっても大切な存在であることくらい知ってるよ!だから、見捨てたりしないってことも!」


「はは、あんたって本当に面白いわね。」パリは引きつった笑いを浮かべながら言った。「その面白さに免じて、ちょっと考え直してみるわ。明日答えを出すわ。だから今はどっか行って。眠いのよ…。」


 グレーイは言われた通りに引き下がり、すっかり肩を落として天文台に戻った。パリがいなくなってしまうかもしれないなんて…心配事が倍に増えた。無意識のうちに、パリが助けてくれることを勘定に入れていたのだ。彼女がいなければ、ネフェリアに対して何かするどころか、飛び方を知らないグレーイは戻ることすらできないだろう…


 しかし、最も頭を悩ませている原因は別のところにあった。パリはグレーイの()()()()()()真の友だったのだ。ただ彼女を…大切な友を失いたくなかった。それほどに、グレーイは既に失い過ぎていた。




 巨大な敷物のようなベッドに寝そべりながら、グレーイは自分が見た不思議な光景について考えていた。あの炎は何を意味しているのだろう?カザンとは誰だ?アンジールは何故そんなに心配しているのだろう?そして最後に、グレーイは暗い部屋に閉じ込められていたアンシャンバーダルについて思いを巡らせた…


 その夜、彼は決意した。パリがいようといまいと、訓練を終えたら師匠のところへ行こう!アンシャンドラクトにエルムの力の使い方を教えてもらって、もしアロイと同じような潜在能力が自分にも秘められているなら、恐れるものなど何もないではないか!



 突然、上から物音がした。静かに上に上がり、寝室のドアをそっと少し開けてみた。アンシャンドラクトの葉がいつもよりも輝いて見えた...誰かが座って話している。それはアンジールの妹だった。これまで、こんなに甘い声を聞いたことがなかった。あまりに小声で話していたのでほとんど何も聞こえなかったが、今回彼女の姿をはっきり見ることができた。


 その姿は兄に全く似ていなかった。エルムには血のつながりがないので当然のことだが…。彼女の姿があまりに際立っているので、気付いたら、視線を外せなくなっていた。


 彼女をより一層魅力的に見せているのは、その赤い肌と顔立ちだ。顔は声の音色と同じくらい優しく、優しさが滲み出ていた。グレーイは、彼女に話しかけようとドアをさらに少し前に滑らせた…が、結局そんな勇気は持ち合わせてなかった。ただ長い時間彼女を観察していた。


 やっと立ち上がったそのエルムはドアの方をふと振り向いた。だが、グレーイはすでにそこを離れていて、半開きのドアだけがそこに残されていた。階段を降りていく間に、心臓が普段の10倍も速く鼓動を打っていた。彼女に対する何か奇妙な感情が湧いてくるのを感じていた。


 そして、その夜はアンジールの妹の姿が頭にこびりついて離れないまま眠りについた…




 翌朝、グレーイがまだ深い眠りの中にいると、アンジールがそっと彼の元を訪れた。静かに寝息を立てるグレーイの姿を見て、アンジールが踵を返そうとしたその瞬間、ふわぁ、とあくびをする声が聞こえた。グレーイが体をぐーんと伸ばし、それから…また眠りについてしまった。


 アンジールの存在に気付かないグレーイは、まだ起きるつもりがないようだった…。アンジールがコホン、と咳払いをしたとほぼ同時にグレーイがガバッと起き上がった。


「アンジール!」と彼は叫ぶ。「知らなかった…あっ!えーと…あなたはいつからここにいらっしゃったのですか?」


「そんな話し方はやめて下さいってば!」とアンジールは笑いながら聞いた。「その話し方、僕イヤだな。これからお互い、もっとカジュアルに話しません?」


「あっ!ごめん!元気?」


「気にしないで、冗談です。僕の方が先にそのセリフを言うべきだったのに!それで?よく寝られた?この静かな大邸宅で怖くなかった?」


「全然、よく眠れたよ!」


「そう言ってくれて安心した!」と言った後、何か言うのをためらうかのように一瞬、間があった。「グレーイ、友よ、話さなくちゃいけないことがあって…。」



 そして彼はカザンについて語り始めた。帝王であり王であるカザン。彼の持つ軍隊。アルドン帝国。彼らは真南にある第三の大陸、カルシネ大陸から来た。そしてここ何年もの間、神の園を狙っている。


 カザンは混沌の騎士との異名を持っている。その所以は、進む先々で全てを破壊する、卑劣で、地獄の権化のような存在だから、だと。


 カルシネ大陸の深い鉱山出身で、必要に応じて力を用いて全ての民族を彼の帝国に引き入れていた。彼は最も恐ろしく、最も強大な存在で、その脅威は全世界に迫っていた。この恐ろしいものが神の園に来ようとしていた…


「彼は最後の戦いで傷ついた。」アンジールは続けた。「僕たちの使者によると、彼は家がある鉱山へ戻り、そこに留まるだろうと。君が見たビジョンは別のことを示しているけれど、残念ながら僕は評議会の友たちを説得できなかった…。それで、一番重要なことは…僕たちはすでに彼の申し出を一度断っているんだ。だから、次に帝国が来るときは交渉のためではないだろうね…」


「なんてひどい話だ…」とグレーイが茫然とした声でもらした。「ぜひともそのカザンとやらに会ってみたい。どんなヤツなのかを知りたい。そしてそのカルシネ大陸…酷いところのようだけど、その名前を聞いただけでワクワクするよ!」


「君は本当にすごいな、グレーイ。」とアンジールは笑って答えた。「最初は神々、今度はカザン。その好奇心は尽きないね。まあ、とにかく、君はなにも心配しなくていいよ。僕は評議会の友達を説得するために、最善を尽くすだけさ!」


「待って…君は神の園の評議会の一員なの?!」


「いや、違う…ただ、友達がそこにいるだけさ…」


 アンジールの視線は遠くへと飛んでいた。心配の色が再び顔に浮かんでいた。突然、彼はグレーイの目の前まで近寄り、光の光線のように鋭い黄色の目で、彼を見つめてこう言った。


「このこと、妹には黙っておいてもらっていいかな?後で必ず話すから。じゃあ、よろしくね、親愛なる友よ!」


 言いたいことを全部言ったらしく、それだけ言ってアンジールは急ぎ足で立ち去ってしまった。



 グレーイが天文台から出ると、パリが木から降りて彼の前に立ちはだかった。自分の決断を伝えに来たのだろう…雨雲はすっかり忘れてしまっていたが。神の園に留まるのか、それとも出ていくのだろうか。しかし、彼女が話題にしたのはそれではなかった。


「あのアンシャンドラクトの甥、いいエルムそうだけど、どうしてあんなことをあんたに話すの?アタシらにここに引っ越して来い、とでも言わんばかりだったわね!面倒くさいったらありゃしない!」


 彼女はアンジールの計画を見抜いていたのだ…


「だから言ったでしょう?」と彼女は続けた。「エルムの話って、結局は終わらないのよ!」


「君、俺らの話聞いてたの?!」とグレーイは驚いて問いただした。「待って、どうやって!?」


「アタシ、耳がいいの。」とパリは答えた。「それだけのことよ。」


「ああ!だから君は俺が変なものを見たことも知ってたのか…」


「さて、本題に入りましょう。」とパリは唐突に切り出した。


 グレーイはゴクッと唾を飲み込んだ。


「時間をかけて決めてもいいよ…無理に…」


「アタシ、これ以上考える気はないの、グレーイ。」


 恐怖の表情がグレーイの顔に戻ってきた。運命は白の貴婦人、つまりパリの決断にかかっていて、一見すると悪い方向に進んでいそうだ。


「あんたの頼み、考えてきたの。」


「慌てなくても大丈夫だよ。」とグレーイは動揺した。「あ、そうだ、もし良かったら、食べ物を取りに行ってくるよ、君に…」


「アタシ、もう少しここにいるわ。」とパリはついに、唖然とした様子のグレーイに宣言した。「アタシもバーダルを助けたいの。それは確かよ。それに、もし彼が囚われていたら、あんただけでは助け出せないでしょうし。」


「本気!?」


「アンジールが定期的に新鮮な獲物を持ってきてくれるの。だから毎日狩りに行く必要がない、最高ね!ただし、あんたが6週間以内にツをマスターできたら、って条件でね。言っとくけど、これ言い出したのあんただからね?」


 グレーイの顔には、大満足の笑みが広がっていた。パリの嘴からその言葉を聞くことができて、とても幸せだった。彼はパリが何を言おうと気にしなかった。彼が望んでいたのは、彼女が残ってくれることだけだった。これが彼の雲生で初めての勝利だった。


「そのばかみたいな笑顔をやめて。」とパリは怒鳴った。「さっさとトレーニングに戻ったら!?」


「もちろんさ!」と、グレーイは笑顔を一層明るくして応えた。


 グレーイは自信を取り戻した。しかし、土のドームに戻るグレーイをじっと見つめながらパリは考え込んでいた。グレーイに聞こえないようにポツリ、とつぶやいた。


「バーダルに頼まれちゃったのよね、あんたのこと。だから……見捨てられないじゃない。」



グレーイはドームに足を踏み入れるや否や、すぐにウォームアップを始めた。ドームをぐるぐると走り回り、ストレッチをこなした後、腕立て伏せを始めた。是が非でもツを使えるようにならなければならない。それがグレーイに課された絶対の課題。アンシャンバーダルの卓越した実演を思い出した。


「水は静かに流れることも出来るが、ちょっとした圧力で全てを破壊することもできる!」そう言い放った後、師は少量の水と空気だけで小石を粉々にしてみせた。これがツの力…グレーイがデュオルクを倒すためには、この力が必要だ!


 数分後、光る葉が現れ、その湿った木の香りがドームを包んだ…


「さて、グレーイ、準備はよいか?」


「その前に、お尋ねしたいことがあるんです、アンシャンドラクト!」


「何でも言ってみな。」


「ええと…あの…姪っ子さんのお名前は…?」とグレーイは口ごもりながら言った。


「え? 何だって? もっと大きな声で話しとくれ!」


「忘れてください! なんでもないです…訓練の準備はできています!」


「ふむ、そうでなければ困るぞ。これは普通の訓練とは違う。きっと辛い思いをするだろう…お前が本当の雲の戦士になる為に、わしの古い枝を信頼してくれてよいぞ!」


パリは残ることを選び、グレーイは幸せだ…しかし本当の戦いはこれからだ!

ドラクトの訓練はバーダルのものよりもさらに厳しいものになるだろう。

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― 新着の感想 ―
パリが残ってくれたのはありがたいながら、グレーイに雑念が芽生えてしまいましたね。より、個性が立ってきたように、各描写から滲んでいて面白かったです。今回も楽しく読ませて頂きました。
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