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~古木~

~~NARUTO -ナルト- 疾風伝 - 任務

 数時間が経ち、パリが目を覚ました。自分にもたれかかって寝ているグレーイを見つけた。こうして眠りこけていると、まるで子供の様に見える。グレーイの見た目はアロイそっくりだが、雰囲気が全く違っている。あいつとは違って純粋で、無垢なオーラを放っていた。間違いなくこのオーラのお陰で、バーダルはこの雨雲を信用することが出来たのだろう。


 グレーイが目を覚ますと、そこには誰もいなかった。パリは何も告げずどこかに行ってしまった。雨雲は考えた。行く当てもないし、今回は一雲で危険を冒したくなかった。そんな雨雲に出来ることは、待つことだけ…そこでグレーイは、アンシャンが教えてくれたトレーニングをし始めた。


 突然、グレーイはジンが近付いてくる気配を感じた。何か、パリではない何かがこちらにやってくる。グレーイは身構えた。このジンは雲のものではない。一体何なんだ…数秒後、何物かが木の後ろから姿を現した。それは思った通り、グレーイが今まで出会ったことのないものだった。


 全身が緑色で、灰色がかった服を着ている。まるで中世の寝巻みたいだ。瞳は黄色く輝き、まるで二つの電球のよう。そして顔全体には葉脈が左右対称に広がっている。最も驚くべきことは彼の髪が…木の枝だ!


「あの、初めまして。あなたがグレーイさんですか?」と、不思議な生き物が声をかけてきた。


 雨雲のことを知っている…その質問に答えるより、グレーイには他に聞きたいことがあった。


「あなたは誰ですか?」


「あぁ!失礼しました!」おでこをパチンと叩きながら彼が答えた。「一番最初に自己紹介をするべきでしたね…僕の名前はアンジールです。パリに、あなたを迎えに行くように頼まれまして。」


 グレーイを怯えさせるようなものは何もないように見える…しかし、グレーイは警戒を解かなかった。彼に付いていくことにはしたが、代わりにいくつか質問をすることにした。


「あなたは草のエルムなのですか?」


 アンジールはニコッと笑ったが、彼の視線が、グレーイの推察は間違っていることを告げていた。こういう風にバカにされるのは、バーダルと過ごした日々を思い出させた。グレーイは師匠以外の事を考えるのに苦労していた…


「いいえ、違います!しかし、草のエルムも存在しています。このベール大陸には()()()()()()()存在しています。葉っぱに、枝に、スモモに、栗の木…ここは、あなたが来たところとは違います。領地を隔てる城壁はありません。民族はいくつかありますが。僕はイチジクの葉のエルムなんです!」


「なるほど…ところで、どうやってパリと知り合ったんですか?」


「正直に言うと、実はあまり彼女のことを知らないんです…ただ彼女について話しているのを聞いたことがあるだけで…僕のおじが、バーダルとロカルンと友だったものですから。」


「ロカルン?」興味を惹かれた様子でグレーイが聞いた。


「はい、ロカルンはパリのお父様です。」アンジールが大きくにっこりしながら答えた。「なぜあなたはそんなにも真っ青なのですか?僕の方こそ『青菜に塩』なのに!」


 そう言って自分のジョークにハハハッと笑った。アンジールは好感の持てる青年に見えるが、グレーイはまだ彼を信頼することができなかった。今までに起こったことを考えると無理もないが…


 移動中、グレーイは注意深くこの地を観察することが出来た。上から見てみると、この地は木や沼がいっぱいあることが分かった。だけど特に目についたのは…虫たちだ!アリ、ちょうちょ、蜘蛛、名前すら知らないのもたくさん…


 それに、樹木で覆われた住宅があることにも気が付いた。それらは決まって他の家からは離れるように建っていた。まるでそれぞれの持ち主が、孤独に生きることを望んでいるみたいに。実際は、それぞれの家族が何キロメートルもある庭を持っているのだった。神の園は、まるで大きな開かれた都市だ。


 アンジールはグレーイを大きな土地の前まで連れてきた。そこには低木や、水や、すべすべした石が、その美しさを見せつけるようにあった。全てきちんと手入れされ、飾られていた。グレーイはあっと言う間にこの場所に魅了された。


 その土地の奥には、木でできた巨大な家があった。その家は、ネフェリアの石の家々よりももっと凝った作りだ。屋根は、我々の世界の仏閣の屋根のように、軒の先端が上に向かって曲線を描いて伸びている。


「さあ、着きました!ここが僕のおじの家ですよ。」とアンジールが言った。


「連れてきてくれてありがとうございます。えっと、パリはどこに?」雨雲が、まだ警戒を解かずに尋ねた。


「パリは、家の後ろにある庭にいますよ。まずはおじにあなたを紹介して、その後で会いに行きましょう。心配しないで!」


 グレーイはしぶしぶ家の中に入った。外よりも中の方が凄かった。引き戸がずらっと並び、その横には広い廊下が奥まで続いていた。カーテンの代わりにかけられているのは強大な葉っぱだ。向こうがわずかに透けて見えるほど薄い。


 アンジールのおじの寝室の前に着いた。アンジールはグレーイにここで待つようにと伝え、一エルムで中に入っていった。二つのジンの存在が部屋の中から伝わってきた。片方はアンジールの物に違いないが、もう片方の方が誰のものなのか分からなかった。グレーイは、そのジンの強烈さに体がガクガクと震えた。中にいるのは本当にエルムなんだろうか…?


 部屋の中から話し声が僅かに漏れ出ていた。好奇心に駆られ、グレーイは中を覗いてみた。


 部屋は暗闇に沈んでいた。分厚いカーテンが外からの光を遮っている。しかし、まるでベッドランプのように、何かがぼんやりと光っていた。地面に何か大きな根っこのようなものがあり、部屋中を埋め尽くしていた。壁が視界を遮っていたが、それでもグレーイは二つの影が動くのを目にした。


 突然、びっくりするようなナニカが現れた。雌のエルムだ。燃えるように真っ赤な色をしている。ほっそりとした顔立ちで、どこかまだ幼い。髪の毛は葉っぱで出来た三つ編みのようだ。部屋を素早く横切ったかと思うと、こちらの方をチラリとも見ないで、もう一つの扉から出ていってしまった。


 彼女が出ていった途端、アンジールがグレーイを中に入るように、と呼んだ。雨雲は半分開いたままのドアを開け、中へ進んだ。そこには、思いもしなかった光景が広がっていた…


 部屋中を覆いつくしていた木の根は一つの場所へと集まっていた。そこには分厚い石の王座に座っているナニカがいた。彼の足は家の外や下の階まで浸食している根っこだった。髪の毛はとても長く、彼の毛も葉っぱが三つ編み状になっているようだった。木の枝や葉っぱで出来た口ひげまで生やしている!


 そして全ての葉が、まるで綺麗なイルミネーションのように光り輝いていた。床に落ちているものもあれば、深夜に木から落ちる大きな蛍のように舞っているものもある。


 果たしてこれは、木由来のエルムなのか、それともエルム由来の木なのか…?グレーイはこれほどまでのジンを感じたことは未だかつてなかった。非常に力強く、同時に非常に優しかった…不思議なオーラが彼を取り囲んでいるが、ピクリとも動かず、目は閉じられたままだ。


「こちらが僕のおじ、ドラクトです!」とアンジールが不意に紹介した。「おじさんはナラの木の枝のエルムなのですが、みんなからはナラ長老と呼ばれています。この神の園で、一番高齢なんですよ。子供はいなくて、他のエルムから離れ、一エルムぼっちで天文台にいるのが好きなんです。それで妹と僕が…まあ、主には妹がお世話をしているんです。」


「妹さん?」


「はい、先ほどこの部屋にいたのですが、とっても控え目な性格で…。あなたのことを説明したら、部屋にいたくないと…。悪く思わないでくださいね。いずれにしても、妹はおじと一緒に暮らしているので、後で必ず会えますよ。僕の方は結婚していて…なので時々しか来られないんです。」


 アンジールはおじの方を振り返り、起こそうと名前を呼んだ。しかしどうやら、深い眠りについているようだった…


「おじさん、ねえ、起きて!」アンジールが叫んだ。「バーダルの弟子を連れてきたよ!」


 ドラクトはピクリとも動かない。彼の状態を見ると、アンジールがおじを動かすことは不可能に思える。そうこうしている内に両目がゆっくりと開いた。まるで長い昏睡状態から目覚めたかのようだ。目の表面は真っ黒で、まるでパリのそれだ。アンシャンドラクトはその佇まいだけで、こちらに自然に尊敬の念を抱かせる。まるで悟りを開いているかのようだ。


「わたくしはグレーイと申します。バーダルの弟子で、ロ、ロカルンさんの娘さんであるパリの友達です。」とグレーイが嚙みながらも言い終えた。そして、尊敬の意を込めて頭を下げた。「アンシャンドラクト、あなたと知り合えて誠に光栄です!」


「そんなにかしこまらないでくださいよ!」クスっと笑いながらアンジールが言った。「僕のおじは、あなたが思っているようなエルムではありませんよ!」


 ドラクトが微笑み、腕をゆっくりと上げ、雨雲に向かって手を差し伸べた。グレーイは少し戸惑ったが、これは挨拶だと思い、同じ動きをして腕を前に伸ばした。しかし、ナラ長老と呼ばれるそのエルムは微動だにしない。じっと固まっている。


「そうじゃなくて…」アンジールが囁いた。「手を握って欲しいってことだと思います…」


 そしてグレーイは長老の手を取った。すると、電流のような不思議な感覚が体内に流れ込み、グレーイはギャッと叫んだあと膝から崩れ落ちた。振り払おうと思ったが、物凄い力で握られている。グレーイが顔を挙げると、周りにあったはずのものが全て消えていた。そこにあるのはグレーイとナラ長老と、暗闇だけだった。


 目がおかしくなったのだと思い、ギュッと数秒間つむってみた。再び目を開けてみると、もう誰もグレーイの手を握ってはいなかった。アンシャンドラクトは消え、グレーイは…なんとネフェリアの中心に戻っていた…


挿絵(By みてみん)

まるで魔法のように、グレーイは雲の町の真ん中に放り投げられた。

これからこの旅行者に何が起こるのだろう?

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― 新着の感想 ―
ナラ長老は不思議なエルムですね。あらゆるものにエルムがいるようなので、どこまでいるのか。とても気になります。グレーイに安息が訪れるのか。続きもとても楽しみです。
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