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~万緑~

~~ ゴーストハント - 伝説

 太陽が顔をのぞかせた時、まだパリは上空を飛行していた。グレーイの方はというと、すっかり寝落ちしてしまっていた。下を見るとそこには水しかない。海の上を飛んでいたのだ。メンフクロウは翼に疲れを感じていた。彼女も強烈な眠気に襲われていた。


 飛びながら、なんでこんなことをしたのだろう、とパリは自分に問いかけてみた。なんでエルムたちの厄介ごとなんかに首を突っ込んじゃったんだろう。バーダルの為に逃亡してきたし、そうしたくてしたのだが、彼女には未来が見えなかった。今向こうは大丈夫かな、どうなってるのかな、正しい選択をしたんだろうか…確かなことは何もなかった。


 考えに耽っている内に、目的地が近づいてきていた。水面に触れるくらいまで高度を落とし、そこで大きく羽ばたくと水しぶきが四方八方に飛んで、それがグレーイにかかった。グレーイは水の冷たさで跳ね起き、危うく落ちるところだった。


「パリ、君がアンシャンと友達な理由が分かったよ。」うなりながらグレーイが言った。


「あんたを起こすためよ。」ふっと笑いながらパリが答えた。「もうすぐ着くわよ!」


 グレーイが前方を見つめると、目の前にそびえ立つ、大きな緑の丘の上から太陽が昇っていた。まるで新しい世界に来たみたいだ。今どこにいるのか全く見当もつかなかったが、それについて考える間もなく、広大な緑の大地を数分間凝視していた。


「ねえ、ここ、どこなの?」


「神に会いたいんでしょ?違う?」


「つまり…」


「ここはベール大陸。」パリが白状した。「ここはシウ大陸とも、ネフェリア村とも一切関係ない場所で…ここに神がいるのよ!」


「知ってる?今は『ネフェリアの町』って言うんだって!そんな風に呼ぶのは君とバー…」


「あーなんかつまみ食いしたい気分。」白の貴婦人はそっけなく言い放った。


 パリはバーダルよりももっと怒りっぽかった。だが、グレーイは笑った。パリが神について話してくれたその時から、ワクワクが止まらなかった。


 新しい土地、新しいエルム、神…一秒ごとに待ちきれない気持ちが膨らんだ。反対に、バーダルや、ウルナーや、バーダルと過ごしたボロボロの小屋のことを考えずにはいられなかった。あの小屋を訪れるものは、今や誰もいないはずだ。ネフェリアでの思い出を想う度、胸が痛んだ。


 なので、この素晴らしい景色を前に、ネフェリアに戻りアンシャンバーダルと再会すると決意した。そうしないと、一生自分を恨み続けるだろう。あのデュオルクや仲間が、可哀そうなバーダルに何をするのか想像したくもない…


 でも、助けるためにはたった二つの方法しかない。一つ目は、ここに住んでるエルムに助けを求めること。でも、グレーイは、誰も自分みたいな雨雲に手を差し伸べることはないと分かっていた。今では何故だか分かる。


 つまり、誰にも頼ることは出来ない。そうなるとグレーイに残された道は一つ。敵を自分の手で倒せるくらい強くなること。アロイに出来たんだ、自分にも出来る!何度も何度も考えたお陰で、断固たる思いが芽生えた。『ネフェリアに戻って、みんな倒してやる。』


 今、パリはベール大陸の上を飛んでいた。この場所はまさしくその名の通り、一面に(ベール)が広がっている…頭を上げると、青空の真ん中に一つの点があるのを見つけた。


「ねえ、上にあるアレなに?」


「神よ。」まるで何でもないことのようにパリが言い放った。


「あっ、そう…って、え!?」グレーイが叫んだ。


「ここら辺は神の園って呼ばれてて、ただ単に綺麗な場所だからってだけじゃないの…神が住んでる場所だからそう呼ばれてるのよ、言ったでしょ?」


「待ってよ、つまり、俺のことや、君や、この世界のほかのものもぜーんぶ作った神が、空にいるってこと!?」


「そうよ。行きたい?」


「もちろん!」


「じゃあ掴まって!」


 パリはそう言うと目もくらむような速さで飛んだ。グレーイは飛ぶのに慣れてないから、目を瞑り、頭を下げた。すると、突然、メンフクロウが止まった。前に進まないよう翼を素早くバタバタとはためかせ、その場で動かない。グレーイは『もう到着したのだろうか』と訝しみ、頭を上げた。しかし、目的地はまだ先のようだ。


「腕を挙げて!」突如、白の貴婦人が命令した。


 グレーイは言われた通りにした。すると驚くことに、見えない地面がそこにあるのを感じた。びっくり仰天して、手を慌ててひっこめた。…冷たかった。


「神の宮殿は破れない結界で守られてるのね。」パリが地上に向かって降りながら言った。「これ以上は近付けないらしいわ。」


「神の宮殿?結界?待ってよ、だって…まだその宮殿はずっと上にあるじゃないか、地上の方がこっから近いくらいなのに!!」


「これはただの結界じゃないのよグレーイ、神の結界なの!」


「アンシャンバーダルがここに連れてきてくれるって約束してくれたんだ。」がっかりした様子で主人公は言った。「どうしてこの世界に生まれたのか、どうしてこの世界がこうなのか知りたいんだ…もし神が手の届かない存在なら、誰がこの疑問に答えてくれるんだ?」


「バーダルがその話をアタシにしてくれたわ。実は、ここにあんたを助けてくれそうなのがいるんだけど…」


 そのまま来た道を戻り、長い時間をかけてやっと、沼の近くに着地した。


 グレーイはやっとベール大陸に足を踏み入れることができた。体に震えが走った。朝露がなんども降り注いだみたいに地面が濡れている。雨雲は新しい土地を探検できることに興奮していたが、同時にある種の恐怖も感じていた…


 パリの方を振り向くと、立ったまま固まり、目を閉じている。疲れ果て、眠ってしまったらしい。グレーイはパリを良く見るために近寄った。こうして立っているのを見ると、まるで銅像だ。自分より頭4つ分くらい背が高い。雨雲の瞳と心は感謝と尊敬の念で満たされていた。バーダルに向けるのと同じ視線でパリを見ていた。


 パリが目を覚ますのを待つ間、グレーイは彼女にもたれかかり目を閉じた。今、頭の中を占めている考えは一つ。神が住まうこの土地がどんなところなのか知りたい。


グレーイとパリは謎に包まれたベール大陸へと降り立った。

またしても驚くような出会いが雨雲を待っている…

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― 新着の感想 ―
土地の美しさと不思議さ、グレーイのそれへの感情がとてもよく描写で伝わってきて巧みでした。パリがなかなかもったいぶるので判然としないながらも、神というのがとても興味深かったです。今回もとても面白かったで…
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