~裏切~
~~ 進撃の巨人 - tooth-i:
デュオルクが言葉を発した後、痛いような沈黙が流れた。一つの物音もしないまま10秒が経ち、そして20秒、30秒…グレーイは誰が見ても気分がすぐれない状態だったが、初めて長に向かってこう言った。
「どういうことだ。」
「理解すべきことなどない。」デュオルクがばかにしたような笑みを浮かべながら答えた。「全て言った。評議会は審議し、判決は下された。満場一致で…」
「ま…満場一致で?」グレーイの舌がもつれた。
きっと冗談だ。だが長は真剣で、バーダルもそれを分かっていた。雨雲は肩に置かれているデュオルクの手を乱暴に払いのけ、ヌベの方へ向き直った。すると彼女は目を背けた。その顔には見たことのない表情が浮かんでいた。
「どういうことだ?」アンシャンが聞いた。「ヌベ!どういうことじゃこれは!?」
デュオルクは長い溜息をついた。顔を天井に向けて目を閉じた。彼の激高ぶりは、まるで本当にお芝居をしているのではないかと思うほどわざとらしい。
「『満場一致』の意味が分からんのか?」とデュオルクは聞いた。
「ヌベや、答えておくれ!」バーダルがその言葉など聞こえていなかったかのように続けた。「昨日起こったことが原因なのか?」
「バーダル、あんたは本当になーんにも分かっちゃいないんだな。」デュオルクが口をはさんだ。「あんたは何にも進歩していない…」
「何が言いたいのだ!?」バーダルが語気を強めた。
バーダルは爆発寸前だった。グレーイの頭の中で、一度に数千もの質問が飛び交った。ヌベを目の端で観察した。あの美しいエルムの顔から感情が失われ、虚無の表情を浮かべていた。デュオルクはバーダルとグレーイの周りを歩き始めた。
「一つ質問をしてもいいか、老いぼれ。ヌベとは誰だ?」
「ヌベはわたしたちの友達だ!」グレーイが叫んだ。
「おい、雨雲。俺様が話せと言った時に話すのだ。」冷たく長が言った。「死にたくなければ、口を開くな。これは命令だ。 」
グレーイは平静を保っているのが難しかった。しかし、アンシャンに迷惑をかけるような行動をすることは避けたかった。でも、デュオルクの頭をかち割ってやりたいという欲望はどんどん強くなる一方だった。ジンが体内を駆け巡り、髪の毛をありとあらゆる方向へ揺らめかせた。バーダルはすぐさま弟子の動揺を感じ取った。
「グレーイが言ったように、ヌベはわしらの友じゃ。」老雲が再度念押しした。「彼女は献身的な教師で、ネフェリアの仲裁者じゃ。じゃな?」
「その通りだ。まだ完全にもうろくはしていないようだな…ああ、ヌベはネフェリアの仲裁者だ。我々の町の秩序を支えている…それが評議会の中心的な役割で、それを彼女は立派にこなしているぞ!」
全てが明白に思えた。しかしバーダルは信じていないようだった。だからこう付け加えた。
「なにも教えてくれない気か!」
そしてヌベの方をもう一度向き、こう聞いた。
「ヌベ、教えてくれ頼む!くそっ!評議会を説得してくれるはずだったじゃろう!」
アンシャンバーダルは先生と対峙する為に前に進み出たが、デュオルクが乱暴にその首根っこを掴み、彼女へ差し出した。
「愚かだ!」デュオルクが吠えた。「あんたはこいつと評議会が一心同体だということが分からないのか?ヌベは俺様に全面的に賛成しているんだ、このボケ老雲めが!」
バーダルが内心では否定し続けていることを突きつけられた、が…信じたくないらしい。受け入れることを拒んでいるようだ。しかし、ちょっとしたことが状況を変えた。忍耐の先に待っていたちょっとした変化が…ゆっくりとだが確実に、ヌベの唇が開き、意地の悪い笑みの形に広がった。
「じゃあ、本当なんだな!?」バーダルが叫んだ。「昨日のことが原因なのじゃな!?答えてくれ!!!」
「バーダルおじさん、聞いて。私がやったことは全て、任務だったからやったの。」ようやくヌベが口をきいた。「怒らないでちょうだい。」
「任務?一体何のことだ!?お前さんがもう分からなくなった!チビを救うのをその目で見たじゃろう!」
「救う?」ヌベが嘲笑った。「他の子供たちも全員、あやうく無残に殺されるところだったのよ!?本当のことを言うと、一番最初からグレーイとおじさんを監視するように命じられていたの。塔の前で長とあなたたちが会ったあの日、私に指示が下りたのよ。全ての神々の前で、バーダルおじさん、どうしてこんなのを我々の仲間に入れられると思ったの?」
一瞬口をつぐみ、それから呆気にとられた様子のバーダルとグレーイの表情をじっと見た。一言も発することが出来ないほど固まってしまっているのを見て、こう続けた。
「私は、初めから長に全面的に賛成だったわ。でも、正直、気持ちが揺らいでいたのも事実…昨日まではね!今でははっきりと分かる。こいつを私たちの仲間に加えることは出来ない!」
残念ながら、彼女は嘘をついてはいなかった。ヌベは2つの雲を監視し、逐一何が起こったか報告する為に送り込まれていたのだった。それが彼女の使命であり、つまり、芝居は最初の日から始まっていたのだ…
彼女はデュオルクを見上げ、頬まで口角が上がるほどの笑みを浮かべた。彼女はアンシャンがヒステリーの発作を起こさんばかりなのを見た。こちらはちっとも演技なんかではなさそうだ!
「ヌベや…子供たちはどうなんだね?」バーダルが疲れ切った様子で聞いた。
「あの子たちは何も知らないわ。ウルナーがグレーイに会ったのは偶然よ、みんなはこの計画に関わっていない。ねぇバーダルおじさん、子供たちのことは横に置いておいて…ねえ、教えてよ…どうしたらたった一つのみすぼらしい雨雲の為だけに、ネフェリアの民全員の命を危険に晒せるというの!?おじさんはとてもよくご存じで…」
「お前さんは何も分かっておらん!」バーダルが抗議した。「お前さんもあやつらに洗脳されてしまったのじゃな…知っとるか。お前さんには全く怒っておらん。ヤツに背くことで、評議会の地位も先生の職も失う危険があったことを、わしは理解しておる…だがな、わしは非常にがっかりしたのじゃ!」
「私の地位の問題じゃないわ!」ヌベが答えた。「目が曇ってしまったのね!昨日その目で見たでしょう!?ウルナーは彼の助けが無くても完璧に状況を切り抜けられたわ!…あれは絶対、雨雲の精神的な異常と、不安定さが表に現れたのよ!ああ、一体どういうことになっていたか想像するのも恐ろし…」
「グレーイはよくやった!ウルナーに危険が迫っているを感じ、助けたのじゃ!ウルナーが傷一つ負っていないことくらい認めたらどうじゃ!?それに、ウルナーがどう思ってるのか、お前さん聞いたのか!?色々ひっくるめて全部!?昨日起こった全てのことと、グレーイに対して何をしようとしているのかも!?」
ヌベは目線を下にやったが、別人かと思うほど冷たく、覇気のない空気が未だに彼女を覆っていた。全ての評議会員が同じ表情を浮かべていた。その光景を見て、グレーイの視界はかすんだ。ショックだった。ここでは雲としても、動物としても、そもそも生き物としても扱ってもらえないのか…
有害な生き物、なんとしても追い払う必要があるウイルス。みんなが雨雲が感じていることを無視している。感情も、気持ちも、存在自体も、全てが運命を決めるための天秤にかけても何の重さもないようだ。
もう何も考えられなくなっていた。色々なことが頭の中でぐるぐると混ざりあっていた。この先の雲生をずっと閉じ込められたまま過ごすなんて、まっぴらごめんだ。こんなことは起こってはいけない。まだわたしの雲生は始まったばかりで、見ること、すること、発見することがたくさんある。いいや、こんなのがわたしの運命であっていいはずがない。神はどこにいる?なぜわたしを助けに来ない?
心臓の鼓動がこんなにも速かったことはない。まるで大きな太鼓の音色のように耳にドクン、ドクン、と鳴り響いた。その時、アンシャンバーダルが怒りに震えながら叫んだ。
「今日、なぜ神がツィムの死後、わしに村から離れて欲しかったのかがようやく分かったぞ!お前らは全員、堕落したエルムの集団じゃ!よくもまあこんな酷いことをしながら、まるで善雲のようなふりを出来たもんじゃな!グレーイの罪は存在することすら許されぬ程なのか!?」
「まさにそれだ。寄生虫の罪。」静かにデュオルクが言った。
その言葉を聞くとバーダルは手を広げ、掌の上に水を出現させた。ナミアはあっと言う間に浮遊する小さなキューブ型になった。
「バーダル、笑わせてくれるな!」長が吠えた。「呪われた息子を本当に探し出したかったのか?それより礼を言うことだな!あの日あんたがしたことがもう一度起らないようにし…」
怒りのあまりバーダルはすっかり気が動転し、乱暴にデュオルクを捕まえようと腕を掴んだ、が、巨雲は腕をひょいとあげ、いとも簡単に空中にバーダルを放り投げてしまった。バーダルは階段席に激しく崩れ落ちた。その瞬間から全てが始まった。
グレーイは衝動的にデュオルクに向かって拳を振り上げていた…しかし、届かなかった。長の巨大な手でたやすく止められてしまった。
「これだけか?」デュオルクがばかにした。「もっとマシかと思っていたのだが?」
そう言うとグレーイの頭を掴み、床に叩きつけた。デュオルクの全体重が雨雲の頭にかかり、少しづつ床にのめりこんでいった。全評議会員が立ち上がったが、その場に根が生えたように突っ立っていた。眼前で行われている出来事を見て茫然としている。
突然、デュオルクが強烈な水の噴射を受けて壁に打ち付けられた。階段席にいるバーダルの仕業だった。続いてデュオルクに向かってナミアのキューブを出しながら突進していった。長と向かい合うと、一気に大きくなったそのキューブの中に彼を閉じ込めた。巨雲はこの風変わりな水の監獄に捕まってしまった。
評議会員のメンバーの誰かが助けようとしたが、デュオルクがこう制した。
「そこを動くな!これくらいでどうにかなるのなら、お前らの長であるに値せん…バーダル、あんた、本当に俺様を止められると思っているのか?」
デュオルクは派手なげんこつをキューブの内側の壁にお見舞いした。するとキューブがぐらぐらと揺れた。そして2発目。今度は法廷全体を震わした。そうしてデュオルクは、衝撃を与えるたびに揺れ動くキューブを強く連打し続けた。
バーダルはグレーイに逃げる様に叫んだが、動かなかった。恐怖で震えていたが、ここに師を残して行く覚悟など出来なかったのだ。そんなこと出来るわけがない…
「グレーイ!こいつはお前さんには強すぎる!若造にはなにも出来ぬ!わしのことは構うな、わしは大丈夫じゃ!お前さん、わしが誰だか知っておろう!ネフェリアのバーダルじゃぞ!」
「でも…」
「今すぐ行くのじゃ!!!!!!!!」バーダルが叫んだ。
その言葉は、みんなの背筋を凍らせるほど強く恐ろしく響いた。その間にもデュオルクは狂ったように壁を強打し続けていた。アンシャンはそう長いこともたないだろう。
「グレーイ!」デュオルクが叩きながら叫んだ。「貴様、自分が存在している理由を探してるんだってな!俺様に感謝しろ!もうすぐその必要はなくなるんだからな!」
「行け!愚か者!」アンシャンバーダルが再度叫んだ。
グレーイは全速力で走り出した。恐怖でどうにかなりそうになりながら塔を出た。目の前で6雲のネフェリアの戦士が、グレーイを待ち構えているのを見つけた。その中に一つ見知った顔がある。この塔に最初に来た時、ここまで案内をしてくれたでかっ鼻だ。
「ここから出ることはならぬ、雨雲よ!引き返すのだ!」
住雲たちはまだ何が起こっているのか理解していない様子だ。こんな風に塔から出てきたグレーイを見ることになるとは、夢にも思っていなかったからだ。ごまんと疑問が浮かんで来たが、雨雲は彼らを見た時、全てを理解した。彼らの視線は、デュオルクや評議会員から向けられたものと同じ視線だった。
今、グレーイは確信した…ここに自分の居場所はない!
グレーイは逃げ道はないかと、後ろに目をやった。アンシャンバーダルの姿が自分が今いる袋小路の出口に見えやしないかと期待した。…その代わり、白い巨雲、デュオルクがこちらに向かって闊歩していた。
もうだめだ。完全に打つ手なしだ。諦めるほかない。今他に何が出来る?バーダルは何のために戦った?雨雲は自分の無力さを呪った、そして、特に肌の色を…なぜ?なぜ神はわたしを灰色にしたのだ?
すると突然物凄い突風が吹き、ほこりの山を巻き上げた。そしてまたもう一度、更にもう一度激しく風が吹き荒れ…巨大な生き物が大きな羽をバタバタをはためかせながら戦士たちや住雲に飛びかかった。それは…なんとメンフクロウのパリだった!
お陰で彼らは蜘蛛の子を散らすように急いで逃げていった。いくつか残っているものもいたが、怖さのあまり動けないようだった。ウルナーもその中にいた。友達は逃げていたが、ウルナーの視線はグレーイに注がれていた。しかし、グレーイだとは思っていなかった。
グレーイは怯え、慌て、頭のてっぺんから爪の先まで震え、顔はまるで今まさに食べられようとしている獲物のようだった…
パリはまるで竜巻のようにネフェリアの戦士の前に降り立った。彼らはこの巨大な生き物と戦うことに既に震えていたが、雲の戦士としての誇りを保っていた。勇気あることに、白の貴婦人の前に立ちはだかった。
「お前は雲の力がどんなものか思い知ることになろう!このケダモノめ!」でかっ鼻の戦士が、パリの方へ攻撃しようと腕を上げながら叫んだ。
翼を一振りすると、フクロウは6雲の戦士全員を一気に薙ぎ払い、数メートル先へ飛ばした。もう彼らの出番は終わった。パリはグレーイの方を振り返り、こう叫んだ。
「アタシの背中に乗って!!!」
グレーイは考えるよりも前に行動していた。雨雲が乗ると即座にパリは飛び立った。グレーイはフクロウにがっちりとしがみついた。羽ばたきの力強さに圧倒された。このスピードでは、落ちないようにしっかりつかまっておかないと…
同じとき、デュオルクはネフェリアの塔から出た。パリを見ると、奥底に眠っていた記憶が甦ってきた。この生き物を昔どこかで見たことがある…
思い出の糸を手繰ろうとしたが、今まさに獲物を取り逃がしている最中だということを思い出した。だめだ、そんなことは許されない。雨雲の存在がネフェリアの町全体を危険に陥れる!すぐさま全速力でパリを追いかけた。そのスピードは凄まじく、彼らを捕まえるのに長い時間はかからなさそうだ。
「貴様ら!どこへ行こうというのだ!?」彼らの後ろから長が叫んだ。
どんどん長が迫ってくる。長は突然おびただしい量のナミアを手の中に出現させ、そこにヴァハを加えた。間違いない、ツを使うつもりだ…あんなのを食らったらグレーイとパリは一撃で地面に落ちてしまう!
「このままじゃわたしたちは捕まってしまう!」雨雲が叫んだ。
「アタシを見くびらないでくれる?」落ち着き払ってパリが答えた。
そう言われても、グレーイは嫌な予感を拭えなかった。デュオルクはパリより速く思えた。グレーイの重さの分だけ、パリのスピードは落ちているに違いない…
しかし、長が今まさにツの力を打とうとしている時、何かがネフェリアから発射された。それはどんどん昇っていき、黄昏色に染まる空の中へ消えた。一方、デュオルクは危険が差し迫っていることを感じたようだ。彼が引き返そうとしたまさにその時、爆発音が鳴り響き何かが彼にガツンと命中した。
それはアンシャンバーダルだった。ほんの一瞬のうちにネフェリアの長を地面に向かって叩きつけた。枝がバリバリと折れる音が聞こえ、次に耳をつんざくような轟音が響き渡った。今度ばかりは、いくらデュオルクであろうとも立ち上がれまい…
グレーイはめまいがした。高いところにいるからではなく、感情のせいだ。今日という日がこんな風に終わるだなんて想像もしていなかった。全ての出来事があっと言う間に過ぎていき、本当にあった出来事だなんて実感が持てない。まるで夢を見ていたかのようだ…ただの夢ではなく悪夢を!
グレーイはネフェリアの町がどんどん遠くなるのを眺めた。この光景を見ていると、ウルナーやその友達と過ごしたあの楽しい日々のことが胸の内に現れた。自分を騙していたヌベのことも、もちろん、手取り足取り雨雲を導き、一緒に暮らしたあの優しき老雲のことも…
もうここに戻ってくることはないのかと思うと、胸がギュッと締め付けられた。過ごした日々も二度と戻ってこない…雨雲は深い悲しみと、ほろ苦いノスタルジーに沈んでいった。
一方、なぜこんなことになったのか、なぜ寄生虫だと言われたのかは未だに理解できずにいた…なぜだ、心が傷ついたせいかめまいが治らず、ずっとくらくらしっぱなしだった。ショックから立ち直るのには時間がかかりそうだ。
「何してんのよ!」突然白の貴婦人が叫んだ。「しっかり掴まってて!」
「ごめんなさい…他ごとを考えてたもので…」
「ババアに向かって話すみたいな話し方はやめてくれる?あんた最近生まれたばっかりでしょ、アタシも若いのよ!アタシら、同じくらいの成長段階にいるの!」
「分かった分かった、覚えておくよパリ。」
お互いその後長い間口を開かなかった。その間にグレーイはなんとか元気を取り戻した。恐怖、パニック、興奮…彼の心を支配していた全ての悪い感情がゆっくりと溶けていった。パリが自分の命を救ってくれたと気付いたからだ。しかし、ネフェリアを去った悲しみだけは消えてくれなかった。
「ごめん。」長い沈黙を破ってグレーイが言った。「助けてもらったのに、無礼にもお礼も言ってなかった。助けてくれてありがとう。パリがいなかったら今頃わたしは…」
「お礼を言う相手ははアタシじゃない。」パリが遮った。「バーダルに言ってあげて。あんたが寝た後、アタシのところにしょっちゅう来てたんだから。ついさっきも来て、何かあった時の為に準備をしておいてくれ、ってお願いされたわ。」
グレーイの心臓はまたギュッとなった。バーダルには全てお見通しだったというわけか…全てわたしのせいで起きたんだ、全て、わたしがネフェリアに入りたがったから!アンシャンを助けに戻ろうか。しかし、例えパリが一緒でも、そんなこと出来るだろうか?再びグレーイの視線は無を見つめ、心も虚ろになった。
「しっかり掴まってなって言ったでしょ!」パリが繰り返した。
「あ、ごめん。本当にごめん!実は…考えたんだ…」
「バーダルはアタシらの助けなんていらないと思うよ。自分で何とかするって。デュオルクなんて、今までバーダルが過去に戦ってきたものと比べたら、猫のしょんべんみたいなもんよ。」
もしかしたら、この一連の話を把握するいい機会かもしれない…パリはグレーイの疑問の答えを持っていそうだ…
「パリ、どうしてこんなことになっているのか教えてくれないか?知りたいんだ!アンシャンバーダルについても、雨雲についてももっと教えてくれ!お願いだ!」
パリと一緒にグレーイは去った。甘く、苦い思い出があるネフェリアから。
今パリは、雲の町に隠された暗い秘密を明らかにしようとしている…