~裁判~
~~ 鋼の錬金術師 - Brothers (Instrumental)
運命の日、空は青く光り輝いていた。気温は高く、いい天気になりそうだ。アンシャンバーダルは何も言わないでどこかに行ってしまった…だからグレーイは外に寝っ転がって、空をゆっくりと泳ぐ雲をじっと眺めていた。この世界に生まれる前は、わたしもあの中の一員だったのだろうか…
昼間は、やって来たときと同じように、あっという間に過ぎていった。
午後が終わりを告げた。時間だ。デュオルクに再び会うと思うと、グレーイの心臓は早鐘のように打った。そうこうするうちに戻ってきたバーダルは、そんな彼とは対照的に、自信に満ち溢れている様子だ。評議会が、ネフェリアにグレーイを迎え入れる決定を下すだろうと確信しているらしい。ヌベを信頼しているのだ。グレーイは、昨日あんなことがあった後で、彼女に会うのがまだ怖かった。
2つの雲がネフェリアに向けて出発した。約束の場所は、ネフェリアの塔の中心にある裁判所だ。歩いていても、雨雲は自分の心臓の鼓動がどんどん強くなるのを感じていた。アンシャンが平静そのものなのを見て、率直にこう聞いた。
「平気でいられるのは年を取っているからなのか?」
「いいや、愚か者よ。」笑いながらバーダルは答えた。「ヌベは信頼を置くに足る雲だからじゃ。彼女はほぼ全ての評議会員を味方につけておるし、それに、彼女はお前さんのことを好いておる。」
「そうかな…でもデュオルクのことを忘れてないか?」
「デュオルクは変わったやつだが、欲しいのはネフェリアの利益じゃ。ただちょっとやり過ぎることがあるだけで…わしらのものじゃない場所をわしらに取らせようとしておるのじゃ。あやつがあの立場を取ったのは危険じゃが、でも根本は、善意でやっとるのじゃ。」
「つまり?」
「帝国主義じゃ、小僧。」厳しい声でバーダルが言った。「知っておるか、前の長はこうではなかった…その時代、わしらは兵をもたなかった。ところが、色々なことが起こった…だからデュオルクは、権力を手にしてネフェリアを守ると決めたのじゃ。今はほとんどの若い雲が戦士になるために育てられておる。」
「帝国主義って?あと、どうしてそんなやつが長なんだ?」
「帝国主義とは、火の民から伝わった教えじゃ。帝国主義とは征服すること。民を征服し、服従させること…そう、これがデュオルクが選んだ道なのじゃよ。わしはちっとも好かんがな…しかし理解はできる。なぜ長という名前をつけられているか分かるか?簡単なことじゃ…あの雲は非常に有能で、前の長は他ならぬやつの父君…」
「待て…なんて言った!?あいつの父親が…昔のネフェリアの長だったって!?」
「そうじゃが、それが何かね?」
「なんでそれをもっと早く教えてくれなかったんだ?」
「でも今話したじゃろう。」バーダルが微笑みながら答えた。「緊張しとるじゃろう、小僧…落ち着け。確かにデュオルクは衝動的なヤツじゃ…でも、どうしようもないゲス野郎ではない。お前さんを追放したのが間違いだったと理解すると思う。お前さんはネフェリアにとって、重大な盟友になるかもな!まあ、つまりはだな、デュオルクはお前さんよりちょびっと愚かというだけじゃ!」
「分かったよ、もう十分だ!」グレーイがうなった。
バーダルはこんな風に弟子をからかうのが好きだった。こんな風に扱っていても、グレーイのことをとても気にかけていた。グレーイの方はというと、こうやって小言を言われるのにすっかり慣れていた。どちらかというと誉め言葉として受け取っていた。もちろん、そんな素振りは見せなかったが。
とにかく、この会話のお陰で、グレーイは元気を取り戻した…まあ、ほんの少し。帝国主義の話を聞いたときは、背中に冷たいものが流れた…征服に服従だって?どうやったらそんなことが、神が支配するこの世界で可能なのだろうか。もし全てが上手くいったら、この疑問の答えを直ぐに貰いに行かなければ!
グレーイとバーダルは正門から町に入った。門番たちはこちらを気にも留めず、平然としている。道には雲っこ一ついなかった。雲たちは連れだって、ゆっくりと睡蓮に乗ることが出来た。
塔の前に着くと、雲のエルムたちで出来た大きな雲だかりを目にした。複数の戦士たちがおり、バーダルとグレーイが群衆に邪魔されずに通れるよう、水でバリアを作っていた。足を地面に置いた瞬間、怒号や罵声、非難の声が飛んできた。
「見てみろ小僧、本物のスターの様じゃな。」バーダルがにやっと笑いながら耳打ちした。
喧噪の真ん中を突き抜け、戦士たちが作った水の壁の後ろから向けられている厳しい視線にさらされ、グレーイのストレスはまさに極限に達していた。しかし、そのガヤガヤ声の中から、知っている声がグレーイのもとに飛んできた。
「グレーーーーーーーイ!!!!!!」彼女は叫んだ。「うちだよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ウルナーだった。グレーイを一目見ようと駆けつけ、群衆の真ん中からその小さな腕を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらに手を振っている。クラスメイトたちも一緒だ。あの悪ガキ一同も、一雲も欠けることなくそこにいた!変わりないその姿に、グレーイの心は心底ほっとした。そして、決意に満ちた目をして、この大きな建物に足を踏み入れた。
裁判所は地下にある。まるで古代ギリシャの劇場のような階段席が設けられている部屋がそこに広がっていた。しかも、部屋が円形の舞台に向かってすぼんでおり、4本の柱が両側にそびえ立っている。俳優があの舞台で芝居する姿が、ありありと目に浮かんだ。
代わりにそこには16もの雲が座っていた。ヌベもその中にいた。その顔は、他の副町長たちと立ち話をするデュオルクの方へ向けられていた。あの異常なまでの体の大きさは、自然と視線を集めていた。デュオルクは話すのをやめ、追放者の方に体を向け不思議な笑みを浮かべた。
「友よ、よく来たな!外での生活が不快じゃなかったといいが。」
師匠と弟子は舞台まで降りていった。上から見ていた時よりも大きく見える。雨雲とアンシャンは評議会員と対面する為に壇上に登った。するとバーダルが前に進み出てこう答えた。
「わしらのことなぞ心配ご無用じゃ、デュオ。」
「我らが友グレーイに、この日の為に服を着せたようだな。」観察しながらデュオルクが言った。「それにこの服…バーダル、あんたには詩的センスがあるようだな!」
「こやつのサイズの服はこれしか持っていなかったからわしは…」
「あぁ、心配するな。何をあんたが考えたかくらい知っている。今全て理解したぞ。それに、ヌベがあんたの弟子と仲良くしていたことも知っている。そうだ、グレーイ、彼女はお前についてたくさん教えてくれたぞ。それで興味深い噂も耳にした!」
変だ。まるで別雲のようだ。グレーイはこの雲が一芝居打っているのではないかと訝ったが、バーダルにさっき言われたことを思い返した。ヌベが説得してくれたお陰でやつは正気に戻ったのか?そんなヌベは、まるで催眠術にでもかけられているかのようにずっとデュオルクを見つめていた。あまりに巨大なので、他に目を向けることは難しいが…
デュオルクは2つの雲に近付き、そして部屋に響き渡る大声で、こう吠えた。
「長い話し合いの後、我々の決定は下された!」
「なんじゃと!?」バーダルが驚いた声で叫んだ。「まだ小僧の主張を聞いておらぬじゃないか!コイツにだって自分の身を守る権利があろう!」
「バーダル、落ち着け。」長が静かに諫めた。頭を横に振り、口元には微笑をたたえている。「雨雲の証言など、聞くまでもない。案ずるな。我々は正しい決断を下した。お前も気に入るだろう。」
「それはつまり…」
「ヌベや他のメンバーから考えを聞き、考え、そして今、確信している。グレーイはこの町から追放されぬ!俺様は意見を変えたのだ…」
大きな大きな肩の荷がどっとグレーイから下りた。バーダルもどうやらほっとした様子だ。実際、自信があったように見えていても、少しは不安を感じていたのだ。デュオルクのような予測不能な雲相手なら無理もない。評議会員の中に隠れている味方に全幅の信頼を置いていても、だ。どうやらヌベはミッションを達成したようだ!
今デュオルクは、雨雲とアンシャンのちょうど目の前に立っていた。グレーイとバーダルのそれぞれの肩に手を置き、顔を2雲の間まで下げ、耳元でこう囁いた。
「神が我々を祝福した。この雨雲は、神が、我々が名誉を挽回出来るようにと遣わしたのだ!だからこいつはここにいてもいい。ただし、ネフェリアの地下道に永遠に閉じ込められたままな。」
デュオルクの口から驚くような言葉が飛び出した。
ヌベは失敗したのだろうか?それとも…