~精霊~
~~ BLEACH - Nothing Can Be Explained (Instrumental)
バーダルは物凄い速さで飛んできてウルナーを捕まえることに成功した。するとウルナーは泣き出してしまった。他の子供たちもつられて泣き出し、まるで泣き声の大合唱だった。ヌベも急いでアンシャンに続き、子供たちを集め、誰もけがをしていないことを確かめた。怖くて泣いてはいたが、強運なことにみんな無事だった。
グレーイは離れたところにポツンといた。あの爆発の後動けずにいた。膝をつき、ただ震え、じっとクレーターを見つめ、誰とも視線を合わせようとしなかった。彼自身が誰よりもショックを受けていたのだ。
ヌベがみんなを落ち着かせるのに数分を要した。彼女はウルナーをその腕に抱きしめた。悲嘆にくれた様子だったが、ヌベは見放さず、随分長い間励まし続けた。どこからどう見ても母親のようだった。
「みんなは勇気ある雲よ!」みんなが落ち着いた後ヌベが叫んだ。「さあ、手を繋いで帰りましょう。ご両親が待ってるわ。」
確かにもう遅い時間だった。みんなは帰り支度を始め、ヌベはそっと後ろを見た。バーダルとグレーイを注意深く見ていた。唇をきゅっと結び、首を横にちょこっと振った後、前に向き直った。ウルナーと一行はヌベに続き、静けさの中へ消えていった。
師匠と弟子は、爆発の話題に触れることなく夜を迎えた。小屋に入り、沈黙の闇の中各々のベッドに寝ころんだ。キリギリスが鳴く声や、バッタが跳ねる音、夜行性の生き物が動く音だけが聞こえる。
グレーイは眠ろうと努力したが、徒労に終わった。考えずにはいられなかった。しかし、数時間後には体の疲労が勝って、ウトウトと眠りに落ちた。まるで2晩も眠れそうなほど深い眠りだった。
ところが、雨雲はハッと目覚めた。玉のような汗をかいている。悪夢を見たのだ。デュオルクが出てきた…
グレーイはネフェリアの長に追われていた。長は悪魔のような表情を浮かべていた。雨雲は力の限り逃げようとしたが、暗くて不気味な部屋に捕らえられてしまった。すると、この白い巨雲はグレーイに飛びかかってきて….。現実かと思うほどリアルな夢で、目が覚めてしまった。
しばらくベッドに腰かけ、外に出ようかと考えていた。外の空気を吸えば、この忌々しいイメージを頭から追い出せるかもしれない。グレーイは知る由もなかったが、バーダルも起きていた。元々少ししか寝ないのだが、今夜は、弟子が混乱していると知っていたからだ。実は、グレーイが目覚めるのを待っていた。
「なあ、小僧。」アンシャンが目を閉じたまま聞いた。「何が起こった?」
「アンシャンバーダル?」低い声でグレーイが答えた。「起きてたのか?」
「何がお前さんを苦しめている?」
「なんだかおかしな…幻を見たんだ。」迷いながら答えた。
「夢か?何を見た?」
「出来れば内緒にしたいんだけど…」
「なぜじゃ?」バーダルがばかにしたように笑った。「デュオルクに取って食われるところを見たとでも?」
「…」
「図星じゃったか…まあ良い。忘れなさい。精霊がお前さんをちょっとからかったのじゃろう。」
「精霊…そういえば、それについて何も教えてもらっていないぞ。」
「見えないし、触れられない生物で、ミナモト、つまり原初の要素から出来ていて、我々、つまり水と空気から出来ている雲の民とは真逆なのじゃ。分かるかね?」
「えっと…いや。」
「まあとにかく、この惑星そのものと、惑星にあるものは全て4つの要素からなる。空気、水、土、そして火じゃ。エルムは1つ、ないし2つの要素から出来ておる。既に教えたように、我々は混成されていて、水と空気からなっておる。この4つの要素が一つになった成分、それがミナモト。精霊を作っているものじゃ。」
「4つの要素が一つになっただって!?それがミナモト!?精霊っていうのは物凄い力を持っているんだな!ちょっと待てよ…見えないのに、どうして存在しているって分かるんだ?」
「存在しておるのじゃ。地震や火山の噴火、嵐などの現象はあやつらのせいだと言われておる…我々が見る夢にも影響を及ぼしているという輩もおる!それに、マジマルは精霊を呼び出せるのじゃよ。前にも言ったと思うが…だからミナモトの力をあやつらは使うことが出来て…」
「なんだって!?」グレーイが叫んだ。「そんなのずるいじゃないか!!!」
「叫ぶでない!」バーダルがうめいた。「馬鹿か!?今何時だと思ってるんじゃ!それにまだ話の途中じゃ…確かに、神を見たことがないのと同様に、一度も姿を見たことはない。何世代も前から伝わってきておるものなのじゃ。今に分かる。いつか、お前さんもその存在を信じるじゃろうよ!」
グレーイはバーダルの言葉を頭の中で反芻しながらもう一度床に就いた。その謎に包まれた精霊を想像しようと試みたが、出来なかった。間違いない、この世界は謎に満ちている…
「アンシャンバーダル、もう一つ質問があるんだけど。」
「まだ何かあるのかね?」老雲は溜息をついた。「分からなかったなぞと言ってくれるなよ…」
「いや…そうじゃない。ただ知りたいんだ…なぜわたしはこの世界に来た?」
「お前さん正気か!?」またバーダルがうめいた。「こんな夜遅い時間にそんな質問をせんどくれ…笑止千万!寝るのじゃ愚か者!」
「でも、さっき何が起こったのか見てたでしょ?」
「ああ、見たとも。確かに。」ずっとグレーイがこの話題を切り出すのを待っていたバーダルは、かすかにふんっと鼻を鳴らした。「お前さんはウルナーを救った。これが起こったことじゃ。もう考えるのはよさんか。」
「正直に言うと、これっぽっちも覚えていないんだ…本当にわたしがやったのかさえ疑っている…」
「わしが教えたことをちゃんと実行しただけ。特訓の成果が出たというわけじゃの。ナミアを出し、それをヴァハで満たした。水と空気…これがツじゃ!」
「でも傷付けてしまっていたかもしれない、それよりもっと酷いことになっていたかも!」
「でもそうなったか?なっておらん。それが全てじゃ。もし本当に過ちを犯してしまったと思っておるなら、我々に伝わることわざを聞くがよい。『過ちはエルムの常、許すは神の業』。」
「ありがとう…でも、もう一度トを使えるか分からない…」
「ツじゃ!」バーダルが溜息をつきながら訂正した。
「ふぅ。まずナミアは水で、ヴァハは空気、そしてツはその両方…あとまだ火と土があるけど名前が出てこない。ああ、精霊になりたいよ!彼らは少なくとも、たった一つの要素しか持ってないだろ!?」
「ほら、既に精霊の存在を信じ始めておるじゃろう愚か者。ほら、喜べ!明日はとうとうネフェリアに迎えられる日じゃ!約束通り、神がいる大陸へ連れていってやる。そこに行けば疑問が晴れること間違いなしじゃ!」
その夜、グレーイは疑念に付きまとわれた。明日何が起こるのか怖かったし、今日起こったことも怖かった。なんて愚かなんだろう…ツを使ったことさえ誇りに思えなかった。友達に嫌な思いをさせたことに胸が痛み、また、木々を破壊してしまったことも辛かった。
このあいまいでもつれた考えと共に、グレーイは再び眠りに落ちた。
ネフェリアの評議会が今まさに開かれようとしている。
ヌベはデュオルクと、他の副町長たちを説得することが出来るのだろうか?