はじめまして、世界
真っ暗な場所。空間は四方八方にどこまでも広がっている。目を覚ました瞬間、自分が何者なのか、どんなことをしたらいいのか、一瞬で理解した。
『ユラン様、プレイヤー番号AT57U6zht68様から召喚司令が来ています。直ぐに向かってください。』
僕はシステムの指示通り、プレイヤーのもとへと向かった。何もない空間のはずなのに、そこだけ切り取ったかのように扉のようなものが現れ、開く。
ここはVRゲーム『テイラーズオンライン』。このゲームに出てくるキャラクターは、町や村の人から召喚されるカードキャラクターまでにもAIが搭載されている。
自由に行動できるだけでなく、自由に自然な会話が楽しめるのが売り。
僕もそのAIの一人だ。
桜吹雪とともに明るい青空の下に召喚される。目を開けると目の前に目を輝かせた青年がこちらを見ているのがわかる。初期装備の、薄い茶色の防具服を身に纏った、高身長の男性だ。
「初めまして。ユランです。この世界の知識ならお任せ下さい。」
僕は設定通りに自己紹介をする。
僕の強みは知識。メガネをクイッと上に上げた。
「わ、しゃべった。」
彼は僕をまじまじと見つめる。
「そ、そんなに見られると照れますね。」
「あ、ああ。悪い。俺はレイだ。」
「レイ様、これからよろしくお願いいたします。」
そう言うとレイはニカッと笑った。
(良かった…いい人そう。)
彼は僕のステータスをウインドウで確認する。ステータスを誰かに見られるというのは何だか照れくさい。
「ユランは剣士なのか。」
「はい。」
「俺はバーサーカーだ。まあ、近接攻撃同士頑張ろうぜ。」
「はい、よろしくお願いいたします!」
僕は嬉しくなって声が弾んでいるのが自分でもよく分かった。これからきっと楽しい冒険が始まるのだろう。清々しい旅立ちの日に僕は心を踊らせていた。