始まりの地
主人公の登場です!
現魔王女帝カーラとの邂逅、酒場でのことから1日後の翌朝。
四人は街からほど近い、とあるダンジョンに集まっていた。
周りは草原で、少し先に森などが見える。自分たちの他にも冒険者がこのダンジョンに潜る準備をしている人もいる。
「くっそー、昨日あんなに飲むんじゃなかった」
テンションだだ下がりでいかにも寝起きのような感じを出している者、ヘンリーはそう口走る。
昨日は早く宿屋に戻ろうと言って、いつもより早く解散するつもりが、結局解散したのは午前の2時ごろ。
ティナもクラウディアも帰ってしまったが、男2人で呑む酒はやけに美味かった。
「いったいあんたはいつまでいたのよ…」
クラウディアは呆れたそぶりでベンチに座るヘンリーを見る。
「それにしても、このダンジョンには初めて来たけど、クラウディアはどうなんだ?」
「私も初めてよ。まぁ、だいたいこのチームが結成する前まではこんなダンジョンとか行った事なかったけどね」
「そうだよな。おれも、おまえも少し前までは親の手伝いか」
クラウディアとヘンリー。
二人は一年前まで、地方の村で農家の家として両親の手伝いをしていた。
「農民時代は辛かったからそん時比べたらこんなん屁でもねぇぜ」
「そうね!」
チームを組んだ中でもクラウディアとは同じ境遇の出のため、今では同じチーム内でことさらに、深い関係になっている。
ちなみにティナは街の出らしい。
クラウンは放浪していたらしいが、実はよくは分からない。
それこそ、あの女性が関係しているのではないだろうか。
クラウンの経歴…か。
あんな強ぇーし何かあったのかもな。
「……お前ら準備できたか?」
噂をすればなんとやら。クラウンとティアがやってきた。
クラウンは一般冒険者が着るような服に、薄めの鉄製の胸当てや膝当てをつけ、腰には帯刀している。
どこにでもいるような装備である。
それに並んでいるティナは、純白のローブに杖を合わせて持った魔術師特有の装備。こちらも一般的なものだ。
「えぇ大丈夫よ。それじゃあ行きましょう」
―――――
この洞窟は街に近いために数多くの冒険者に訪れられ、非常に人気なダンジョンの一つであった。
今はもう漁り尽くされたので大したものも無いし、敵は弱いわであまり人気が無い。
新規のチームにとっては利用しやすいので、冒険者を始めてたの人には人気のスポットでもある。
「さて行くか」
ヘンリーがそう言う。
洞窟内はひんやりしていて快適だ。
そして四人は歩く事数分。
「……それにしても何もいないな」
「本当だな、ここは本当にダンジョンなのか?」
「当たり前だろ、さっき入り口に冒険者がいたじゃん」
「そうだよな」
ヘンリーにツッコミを入れるクラウンだが、ここが本当にダンジョンなのか段々不安になってきた。
最近はあまり潜ってなかったので分からないが、これほどに魔物はいないものなのだろうか。
たしかにこの程度なら、このダンジョンが過疎化していく理由も分かる。
ダンジョンというのは魔力が溜まりやすく、魔物に好まれるような場所、発生する場所となっている。
それを生業として冒険者も集ってくるのだが、いくらダンジョンといっても、魔物が発生する数には上限があるのかもしれない。
ダンジョンといえばクラウンの拠点だった魔塔もそうだ。
あれは魔界にある魔力が含まれた材質で作られた巨塔。それを利用して自動に魔物が出現するように設定してある。
いわば墓場に出てくるアンデッドのようなものだ。
「ねぇあそこに人がいるわ。ちょうどいい聞いてみましょ」
クラウディアが何かを見つけたようだ。
少し先を見ると、中腰になっている同業者がいた。
「すいません」
声に応じその冒険者の男は振り返る。
見た目は30過ぎ、中肉中背でどこにでもいそうな感じの冒険者だ。
ただ、異様に疲れている。
「この辺り、全然魔物がいないんですけど何か知ってますか?」
「あんたらも、早く出たほうがいい」
「…えっ?」
思ってもみない返事にクラウディアは間抜けな声を出す。
「それってどういうことですか?」
「三階が化け物だらけだった。六人で入ったんだが、今こうして帰ってきてるのは俺だけだ。気づいたら化け物どもに囲まれてたんだ」
「この下でそんな事が…」
「あぁ!とにかく下はやばい。おまえらも早く逃げた方がいいぞ」
「わ、分かりました」
迫真の表情と声色に若干三人は怯みつつ、クラウディアは受け答えをする。
すると、
「ひやぁあ!?」
男は何かに気付いたかのように奇声をあげ、咄嗟に走り出す。4人も急いでそちらの方向を確認するが何もなく、男はそのままどこかへ行ってしまった。
「………………。」
唯一平然としていたクラウンだが、今の光景には思わず唖然とする。それは他の3人も同じだった。
そしてハッとしたように我に帰る。
「で……、どうする?」
「――あのおじさん、何を見たのかしら?」
「アンデッドだとよ」
「それは知ってるわよ、ただどれくらい出たのかしら?」
「どうだろーな〜?ただ、俺は少し興味がある。ここで引き返しちゃあつまらねぇ。行ってみたいな、おまえらはどうだ?」
「う〜〜ん」
「俺はちょっと反対だ。なんか嫌な予感がする」
「おまえがそんなこと言うなんて珍しいな、クラウン」
「まぁなんとなく感じるんだ、嫌な気配が。気のせいかもしれないけど」
魔王だった時の能力の消えてしまったから、なんて言えないよな。
「私は皆さんの判断にお任せします。ですが、アンデッドでしたら多少力になれると思います」
「おおそうか!それは心強いぜ。
アンデッド耐性があるティナがいるんだ、少しぐらいは冒険すべきなんじゃないか?」
「それもそうだな。ティナがいてくれるのはありがたい、じゃあ行ってみるか」
「ふふっ」
「よし!」
「えぇ、行くの?なにがあっても知らないわよ」
「心配するなって。クラウディアは俺が守ってやる」
「はいはい」
いつものようにじゃれている2人を一瞥し、右に目をやる。
それに気づいたティナは微笑んでくれたので、クラウンもそれに応じた。
それからしばらくして4人は二階層にたどり着いた。
「……ここが二階だな。なにも倒さずに二階に来ちまうとは、ある意味おそろしい洞窟だぜ」
「一体どうなってるのかしら?」
実に不思議なことではあるが、一回層には全く魔物がいなかった。今の状態でも魔力を多少なりとも感知できるクラウンだが、自分を疑ったほどだ。
しかしここはどうやら違うようで、四方から魔力を持つ生命体を感じる。
現に、正面から魔力を含んだものが接近してきていた。
「こいつはスライムか」
見下ろすように魔物を見てそう言う。
それは緑色の液体の体を持つ、いわゆる「スライム」と名がつく魔物である。
一見するとドロドロのゼリー、四肢も目もない。
単細胞生物をそのまま大きくしたようなグロテスクな見た目だ。
移動速度が遅く、大した耐久力もないこれは、このパーティーからしても雑魚だ。
剣でなくとも、適当に踏みつけていればすぐに倒せる。
一つ気をつけるべき点といえばその攻撃だろう。
この魔物は基本的に酸の液体を撒き散らす。
これは新米なら少し脅威だ。顔にでも付着しようものならそれは恐ろしい事態になる。
ただ裏を返せば、それだけ注意すればいい相手と言えるのも確かだ。
「俺に任せろ」
ヘンリーが余裕の笑みを浮かべる。
「分かったわ。でも後ろにいるもう1匹はどうするの?」
後ろにもう1匹スライムが湧いていた。
「……ちっ湧いてきやがったか。しょうがねぇなぁ、後ろのやつも俺に任せろ。こいつらがいくら増えようが俺に…なんだ?」
クラウンが肩に手を置いて話を遮る。
「後ろのやつは俺がやる」
無表情でそう一言。
「…おう、そうか。じゃ任せたぜ」
クラウンは目の前のスライムと相対する。
力というものを全て無くし、装備も貧弱なクラウンだが、スライムに負けるということは無いだろう。
種族としての格が違う。
スライムというのは最低位の魔物として有名だ。
実際ステータスもかなり低く、平均的な人間にすら優っているところは何一つ無い。
そんな脆弱な魔物が、生物ピラミッドの上位に君臨する魔族に勝てるわけないのだ。
しかし抜かりなく観察する。
スライムとはいえ、油断できないか。
剣を抜き取り妙に注意深くなってスライムにゆっくりと近づく。
目が無く悠長にしているように思われる反面、先制をとって身体の液体を飛ばしてくる。
それをなんなく避けると、身体の中心(液体なので分からないが)に剣を突き刺す。
その直後、スライムは崩壊しだし粒子となって空気中に消えた。
液体であるスライムに対し、物理攻撃(斬撃、打撃、刺突)が効かないというわけではない。
低位のスライムのほとんどは物理攻撃に耐性を持っていない。踏みつけても死ぬし、剣がかすっただけでも十分に倒すことができる。
スライム種でも上位種は別だが、こんなところにそんなものがいるわけもない。
なんなく倒せてはいるが違和感はある。
剣を持った右手が重く感じるし普段よりも鈍くなっている。
実力は確実に落ちているのか。
力をセーブしていた時よりも遥かに弱いな、これじゃあ。
思っていたより落ちていた自分の力に失望するのは仕方なかった。
昔にできていたことのほとんどは今となっては困難になっているほどだ。
出来ることといえば、種族としての力を使うことだが、悪魔である以上、その力も非常時以外晒すわけにはいかないので、ほぼ使えないと仮定していいだろう。
それでも失望だけではない。
それ以上に楽しくも感じていた。これからの成長の事、パーティーメンバーと本当の意味で足を並べれた事など、別に悪いことばかりじゃないのだ。
かつては力を求めていたクラウンだが、今は自分でも丸くなったと思う、まさか人間と一緒に世界各地を歩き回るとは思っても見なかったのだ。
魔人至上主義が根本にある魔人の世界では、多数の者が心の奥深くには魔族であることに優位心を持っている。
魔王や高位血統魔族になればなおさらなこと、カーラは中立派であるものの、あれほどの地位にいながらそんな考えも珍しい。
クラウンにもなると、あちらでは変わり者だ。
魔族であるはずなのに人間と共に共生している。
しかしこれはクラウンにとってはどうでもいい事だ。
今誰といれて幸せなのか、今何が楽しいのか、これが全てなのだ。そこに種族の違いなど関係ない、もとよりクラウンはそんなこと意識しないのだが。
「……どうしたクラウン?
そっちはもう倒したんだろ、魔石は回収できたか?」
「あぁ」
そうして返事をした後、下に落ちている小さな赤色の石を拾い仲間と再びダンジョン探索を再開した。
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